- 「<読み>の学習」を再構築する
- まえがき
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- 第T部 なぜ,今「再構築」なのか―問題の所在
- 1 「〈読み〉の学習」を問う―平成15年度KZR奈良大会での基調提案から―
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- 2 日常の授業実践から「〈読み〉の学習」を問う―平成15年度KZR奈良大会での「シンポジウム」の記録から―
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- 3 情報化社会における「〈読み〉の学習」を問う―IT機器活用の側面から―
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- 第U部 「〈読み〉の学習・再構築」の基底
- 1 子どもを捉え直す―テレビ脳・ゲーム脳と「〈読み〉の学習」―
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- 2 読むことの重要性―「活字ばなれ」をめぐって―
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- 3 「読むこと」における「求める子ども像」―他者を読み,自分を読む子,自ら読む子―
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- 4 「読むこと」の基礎的基本的能力
- (1)これまでの「読むこと」の能力
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- (2)これからの「読むこと」の能力―発信者となる読みが培う力―
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- (3)これからの「読むこと」の能力―「豊かな読み」の能力―
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- 5 「読むこと」への課題
- (1)「読み」の実践史のキーワード「論争」
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- (2)「読み」への視点と課題―学習者主体の授業づくり―
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- (3)「読み」の学習と言語事項
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- (4)「読み」の学習と評価―「多様なねらい」に対応する学習と評価―
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- 第V部 「〈読み〉の学習・再構築」への挑戦
- 1 「〈読むこと〉のカリキュラム」の「再構築」
- (1)カリキュラム作りのポイント―小学校の立場から―
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- (2)計画と実践の交流から立ち上がるカリキュラム―中学校の立場から―
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- 2 「〈読み〉の教材研究」の「再構築」
- (1)子供にとっての落とし穴を探る―小学校の立場から―
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- (2)3つの観点からのアプローチ―中学校の立場から―
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- 3 「〈読み〉の学習方法」の「再構築」
- (1)関わることによって読みを深める―読書への誘い「やまなし」「イーハトーブの夢」(小6)―
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- (2)人・もの・ことに関わっていく読み―「奥の細道」(中3)―
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- (3)複数教材で深める「読み」―「おにたのぼうし」(小3)―
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- (4)「答えは一つじゃない」読みへ―「新聞少年の歌」(中1)―
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- (5)書き手のレトリックを読み手につなぐ―「ステージとしての百貨店」(高1)―
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- (6)作品世界を再構成する―海鳥単元を通して(中2)―
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- (7)「映像」での導入から「読みの深まり」へ―「サンゴの海の生きものたち」(小2)―
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- (8)「映像」と言葉の関わりを踏まえた「読み」/<1>「映像言語」を感じ取る学習―「人間になりたがった猫」(小6)―
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- (8)「映像」と言葉の関わりを踏まえた「読み」/<2>挿し絵を「読む」,挿し絵から「読む」―「少年の日の思い出」(中1)―
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- (9)「読むこと」の学習と読書生活を結ぶ―単元「あなたにこの一冊を」(中2)―
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- 4 「〈読み〉の評価」の「再構築」
- (1)「読みの学習」の再構築を促し支えるあたたかい評価を
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- (2)評価を生かし,子どもに「読み」の力を―「たぬきの糸車」(小1)―
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- (3)形成的評価の4機能を組み込んだ授業―「大造じいさんとガン」(小5)―
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- (4)「読みの学習」に支援としての評価を位置づけて―「麦わら帽子」(中1)―
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- (5)「読みの実相の把握」から診断的評価を生かして―「くらし」(中3)―
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- あとがき
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- 執筆者紹介
まえがき
安藤 修平
国語教育実践理論研究会会長
この度,私たちの「国語教育実践理論研究会」(略称KZR)のメンバーの協力により本書を刊行することができました。うれしい気持ちでいっぱいです。
私たちの会は名称の通り「実践理論」を大切にしてきました。実践から理論を生み出し,またその理論を実践で徴する立場をかたくなに守ってきました。
従って,会の統一的な見解(方式とか理論とか)を示して,会員がそれに従って実践を展開するということもしてきませんでした。
別の言い方をすれば,会員のひとりひとりの考え方や実践を大切にし,会員の目線で研究を進めるというやり方を,少なくともここ10年くらいはとってきました。
確かに,強力な誰かがリーダーシップをとって理論化・実践化を行い,それに基づいて会員が分担して実践すれば,成果が挙がったように見えます。しかしそれがひとりひとりの会員にとって本物だとはどうしても思えません。
だから私たちの会は,「研究推進委員会」というセクションが,前年の発表や討議を基に次の年の,あるいは数年先の研究のテーマや進め方を検討し,会員に諮り討議を経て皆のものにするというやり方です。
このようにして平成15年度からの研究テーマを「〈読み〉の学習を再構築する」としました。
なぜこのようなテーマにしたのかなどについては本文にも記してありますが,伝え合う力の重視と時数減による「読み」の学習への危機感がこのテーマの基底にあります。「読み」の授業を短時間で終わらせることへの抵抗感は何故なのでしょう。単に従来の指導から抜け出せないということなのか,それとも短時間での指導法を開発しなければならないということなのでしょうか。
さらには,子どもたちを取り巻く状況が急速に変化し,「読む」ということをどう捉えればよいのかを真剣に考えなければならなくなったことがあります。
「活字離れ」が言われて久しいことですが,ファンタジーブームや新たな人気作家の登場,膨大な量の雑誌(最近は雑誌離れとも言われていますが),電子メールや携帯電話のメールなどある意味では「文字」を読む機会は増えているとも言えます。しかし,無読の子の増加や読みの幅の変化なども見受けられ,量と質の問題,あるいは読み出す情報の問題など,「読み」を取り巻く問題はいずれも緊急かつ重要だと思います。それらの一切を含めて「再構築」としたのです。
さて,以上のことを理解していただいた上で本文について幾つかお断りをしておきたいと思います。
まず,前述のように,私たちの実践研究「〈読み〉の学習を再構築する」は一年を経過したばかりなので,会としてのまとまったものはまだ無いということです。従ってそれぞれの論文はそれぞれの執筆者の考えによって書かれていますので,多少の揺れやばらつきがあります。文体も統一していません。
ですから「国語教育実践理論研究会」の統一的なアピールではなく,会員が,平成15年夏の大会(ちなみに大会は8月2日から5日,奈良「いこいの村大和高原」にて開催)を踏まえて,今の時点で考えたり実践したりしたことを執筆したものであります。
従って,平成16年度の夏の大会(第13回〈通算44回〉札幌)での研究発表討議において新たな提案や指導方法の開発がいくつもなされることが予想されますので,ここにまとめたものとは異なったものやさらに発展させたものが登場する可能性があります。できればその時点でまたまとめることができれば,私たち自身の深まりが明確になると同時に提案の質を高めることができるのではないかと思っています。
監修の作業をしながら考えたことですが,「再構築」には三つの流れがあると思いました。一つは「従来の指導」を徹底し身に付けさせるための提案です。「徹底する」という視点からもう一度「読むこと」の学習を見直し,考え方や方法を「再構築」しよう,ということです。二つ目は,従来の指導を踏まえながら「さらに発展」させたもの。従来の指導を保ちながらも,従来では余り取り上げなかった(あるいは,意図的・意識的ではなかった)読みの工夫を取り入れようとするものです。三つ目は,新しい領域や方法を提案したもの,となりましょうか。これは,かなり大胆な発想や方法の開発が伴い,また実践も困難を極める場合が多いものですが,子どもたちの読みが確実になる保証を得ていることが基本だと思います。単なる思いつきでは無意味です。
また,発表者としては「新しい提案だ」としての発表なのですが,それは既に幾つかの実践が存在するというものもあります。勉強が足りないと言えばそれまでですが,これは「再構築」なのか,という問題があります。新たな提案にはなりませんが,自分にとっての「再構築」なのだと考えれば意味をもつことになります。従来の指導にしがみついて自分を変えられないでいる教師よりもはるかに優れていると思うのです。迷える教師こそ可能性を秘めているとも言えます。
近頃の世相は強者の論理・排除の論理が支配的になってきているように思えてなりません。私たちの実践研究も全ての子に対してのものであるはずです。遅れがちの子にも「再構築」の成果が生かされなければならないと思います。
今のところ,この「再構築」は平成17年度まで続ける予定ですが,私たちの熱意に比べ成果はゆったりしたものになりそうです。皆さまからのご指導をお待ちしております。
最後になりましたが,こうした機会を与えて下さった明治図書の間瀬季夫部長と編集に力を尽くして下さった松本幸子さんに厚くお礼を申し上げます。
平成16年5月31日
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- 明治図書