- 基礎・基本を高める言語活動の展開―言語活動の三つの柱―
- まえがき
- 言語活動の基礎・基本を高める
- /
- 国語科の明日を拓く―第5回実践国語フォーラム愛知大会を終えて―
- /
- 第1部 講演第1日「基礎・基本を高める言語活動の展開」
- 初等部会講演
- /
- 中等部会講演
- /
- 第2部 パネルディスカッション「言語活動三つの柱の具体化」
- /・・・・・
- 第3部 講演第2日「基礎・基本を高める言語活動の展開」
- 初等部会講演
- /
- 中等部会講演
- /
- 中等部会講演
- /
- 第4部 初等部会実践提案
- 1.読書力を付ける言語活動
- @読書力を付ける音読と読書紹介活動
- /
- A「読みたい」気持ちを高める多読活動
- /
- 2.調べる力を付ける言語活動
- @情報を収集し,再構成する力の育成
- /
- A子どもの必要感と目的意識を重視して
- /
- 3.コンピュータ活用力を付ける言語活動
- @コンピュータを活用する言語活動の可能性
- /
- Aコンピュータのソフトを使うよさの発見
- /
- 第5部 中等部会実践提案
- 1.読書力を付ける言語活動
- @読書力を付け,読書に親しむ態度を育てる言語活動
- /
- A作品のリライトを通して「伝え合う力」を高める
- /
- 2.調べる力を付ける言語活動
- @「調べる力」を身に付け,活用する生徒の育成
- /
- A調べる力を身に付けるための言語活動と評価
- /
- 3.コンピュータ活用力を付ける言語活動
- @コンピュータネット上での読みの交流
- /
- Aコンピュータ活用と言語活動との組み合わせ
- /
- あとがき
- /
- [資料]第5回実践国語フォーラム愛知大会要項
まえがき
言語活動の基礎・基本を高める
全国国語教育実践研究会代表・文部科学省教科調査官
井上一郎
1
国語力を高めることの重要性が一層高まっている。一人一人が人間として自分の考えを表現し,かつお互いに理解し合うことの重要性が再認識されたからである。人間と人間の関係力の基礎・基本として,着実に国語力が定着しているか評価されようとしているのである。また,何よりもそのような自己表現を生み出す自己確立が出来ているか,その可能性を秘めているか,今国語力の内実と指導法が全面的に再検討されなければならない時期にきていると言ってよいだろう。(『「伝え合う力」を豊かにする自己発見学習』明治図書,2003年,参照)
2
国語力を実質化する言語活動は,国語科年間指導計画の中核をなす。どのような言語活動を構想するか,どのような系統化を行うか,などがすぐにも問われることになる。学習指導要領に示した言語活動は,小学校27例,中学校7例,高校24例,合わせて58例となる。これらを手がかりに,子どもの実態に応じてさらに付け加えたりしながら,順序を決定し系統化する必要がある。(『読む力の基礎・基本』明治図書,2003年,参照)
言語活動は,それらを運用することが出来るかどうかが第一に重要なことだ。活動そのものを,一つの学力として捉えようとするのである。言語活動に関する知識をもったとしてもそれだけでは十分ではない。実際に出来ること,それが重要なのだ。これは,国語評価の対象となるべき内容として,「確かな学力」の中でふれられているように,言語活動を行う力そのものを基礎・基本とする意志を示しているのである。
一方で,それらの言語活動を通して,そこに含まれている指導事項を意識して育成するようにも配慮しなければならない。言語活動には,多様な基礎・基本となる指導事項が含まれている。それらも自覚的に指導しなければ,活動だけが流れることになる。運用する能力も曖昧なまま定着しないだろう。
このように,言語活動は,言語活動そのものを行う力と,言語活動を通して習得すべき両者の能力が求められることになる。したがって,言語活動を行うことによって基礎・基本が高められ,基礎・基本を追求することによって言語活動を厳選していく必要があるのである。
3
研究主題とした三つの言語活動力は,基礎・基本の中でも最重点化されるべきものである。
(1) 読書力を付ける言語活動
(2) 調べる力を付ける言語活動
(3) コンピュータ活用力を付ける言語活動
「読書力を付ける言語活動」は,特に読むこと領域の中に位置付けられるものである。一つの単元の学習において行われる作品を読むことに加え,日常的に学校図書館や公共図書館を利用したりしながら読書生活を継続していく力も含められることになる。後者を取り上げようとするのは,図書利用の仕方や作品を読むことは知っていても,実際には多読したり,速読したりすることが少ないことを受けての提起であった。勿論,読書活動は,読むこと以外の領域でも行うことだが,まず読むこと領域でどのように着実に育成するかが問われなければならない。
「調べる力を付ける言語活動」は,三領域合わせて考えたほうが成果が上がる。調べる力が重要だということは誰でも理解出来るし,日常的に口にすることだが,改めて問われるとどのような能力によって構成されているか答えにくいものである。学習課題を解決するためには,調べる学習が鍵となる。どのような資料を,どのように調べ,ノートし,活用するか。また,調べたものをどのようにまとめていくか。このような活動のポイントを解明する必要がある。
「コンピュータ活用力を付ける言語活動」は,国語力を高めるためのものとして捉えたほうがよい。「コンピュータ活用力」を付けるために国語科の学習活動をするのではなく,国語力を付けるためにコンピュ−タを活用するという考え方に立って新たな活動を構想しなければならない。まだ,十分一人一人にコンピュータが配置されている状態ではないが,今後のためには,このような視点を確保しておく必要があろう。
なお,これら三つの学習活動には,共通していることがある。国語科のみならず,すべての言語活動が,他教科等においても重要な能力となるということだ。読書力にしろ,調べる力にしろ,ましてやコンピュータ活用力にしろ,これらに関係しない教科はないだろう。ただ,各教科等において重要なことだということと,各教科等がそれを十分自覚しているということとは同じではない。十分自覚されていないが故に,まだ総合的な学習の時間は教科等との連携を困難にしている。
では,国語科では,各教科等に十分役立つように指導しているだろうか。残念ながら実態はそうではないと言わざるを得ない。年間指導計画に位置付け,相互に関連させ,確実な定着を図っていくことの重要性を実感することから始め,そして必ず具現するという決意をもってほしいと願うばかりである。
[付記] 実践国語フォーラムは,1999年第1回宝塚大会を私が実行委員長として開催して以来,宝塚,山梨,茨城と続き,2003年愛知大会が第5回となる。実践国語フォーラムは,すべてボランティアの精神によって支えられている。各地の研究会や主導してくださる献身的な方々に助けられ,大会を運営してきた。愛知大会は,松山美重子校長によって研究会が動き,豊田市の研究会の人々によって中核が作られ,愛知県全体が実際の活動を実現させたのであった。大会当日は,台風の目の中にあったにもかかわらず,数名の欠席だけで600名もの方が参加してくださった。愛知大会の実現に寄与してくださったすべての人に,代表者としてここに記してお礼を申し上げたい。
2004年3月
-
- 明治図書