- 特集 文学の「読解力」を高める―文学を読む・文学を語る―
- まえがき より広い視野からの定位があってこそ
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- 基調講演 文学の「読解力」を高める
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- 実践提案/文学を読む
- 文学を読む力を高める授業の構想
- 読解と読書の一体化を図りながら(4年)
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- 評価しながら読む力を育てる指導
- 文学作品の書評を書く(6年)
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- より深く豊かに読み取る力を高める指導
- 「ゼブラ」における表現に着目した読み取りの学習(2年)
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- 能動的な読者を育てる授業実践を目指して
- 「生徒にとって有意義な読解力」の向上とは何か(3年)
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- 実践提案/文学を語る
- 作品の世界を朗読劇で語る
- 「あらしのよるに」を朗読劇で伝えよう(4年)
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- むかし話を語る
- 作品を解釈し自己表現として語る子ども(3年)
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- 作品のおもしろさを伝える
- 読書に親しむために(1年)
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- 語り手と共に文学を楽しむ
- 聞き手参加型の音読授業(1年)
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- 総括講演
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- パネルディスカッション 読解力を高める
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- 全体総括
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- あとがき/「読解力」はどのように高まるのか
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- 資料:第7回/実践国語フォーラム岩手大会要項
まえがき
大会実行委員長(岩手大学)望月善次
より広い視野からの定位があってこそ
第7回実践国語フォーラム・第8回〈国語教育in MORIOKA〉を,より稔りあるものとする条件
本年の第7回実践国語フォーラムの特徴は,第8回〈国語教育in MORIOKA〉とのダブル開催という点であった。
『実践国語研究』の増刊号として,この大会を振り返るに当たって,どのような観点から振り返ることが,この開催をより稔りあるものとできるであろうか。以下,そうした観点からのコメントを付け加えることにしたい。
先ずは,「実践国語フォーラム」と〈国語教育in MORIOKA〉の目指して来たものについて復習しておきたい。
「実践国語フォーラム」は,従来,講師陣として教科調査官を中心としたものであったのに対し,〈国語教育in MORIOKA〉は,岩手の地から,「他では実現しない講師の組み合わせ」による「新しい企画」の提出を目指したものであった。
前者は,必然的に,現在の国語教育政策に密着した啓蒙的な色彩が強くなろうし,後者は,「他でない講師の組み合わせ」(ここ数年は,それに「実際の授業」を加えている。)を中心として「新しい企画」を目指して来た。敬愛する長年の友人井上一郎氏から,「実践国語フォーラム」開催の申し出を受けた時,筆者の選択した観点は,「できるだけ井上色の強い企画とする!」の一点であった。
講師陣の選択を含めて,企画の内容を,徹底的に井上流にすることであった。だから,従来採られて来た「教科調査官の揃い踏み」ではなく,井上氏の出番を多くすることを心がけた。(もちろん,小・中・高校の全ての学校種の教科調査官が揃うことの企画を否定するのではない。その種の企画としては,既に,2003年度,2004年度の文部科学省の「国語指導力向上講座(東日本地区)」を岩手大学で開催しているから,「同じようなものを開催しても仕方がない。」という判断があったのみである。)
今回のテーマは,「文学的文章の読解力」であり,その探究の柱を,「〈読み〉と〈語り〉」としたのも井上氏の選択であり,講師の上谷順三郎(鹿児島大),寺井正憲(千葉大)の両氏も井上氏の指名であったし,遠野の語り部,鹿踊り,啄木・賢治実地研究も,全て井上氏の要望であった。(こうした井上的要望を,我等が前田正二アナウンサーに支えて戴いた。)
少し砕けた物言いをすれば,「井上一郎的世界に浸る」ことが,今回の目指したところであったということになろう。
当然のこととして,あらゆる企画は,全てを網羅することはできないのだから,その企画を意味あるものにする道は,その企画の特徴や限界を見極める以外にはない。以下問題点を中心に述べるのもこの思いからである。
今回の問題点の一つは,探究の柱とした「〈読み〉と〈語り〉」が,いずれも幅の広い用語であり,参加者にとって,その内容を特定することに必ずしも容易ではなかったことにあろう。揺れの多い「語り」については,特にその傾向が強かったと受け止めた。(そのことを自覚していながら,意味の特定を井上氏に迫らなかったのは,筆者の責任である。)
また,井上流の中に位置付けられたから,上谷,寺井両氏が現在の国語教育研究において占めている重要さについても,参加者の方々に十分に理解して戴くというわけにはいかず,それは論点の深化を阻んだ点でも通じたと見た。
この大会の直後にあった第68回国語教育全国大会〔2005・8・8〜9〕における寺井氏の提案授業「聞き手と楽しむ参加型語りの授業」〔『月間国語教育研究』403(日本国語教育学会,2005・11)pp.12〜15〕や大会当日も,しばしば話題になったPISA(Programme for International Student Assessment)調査に関する両氏の以下の発言などを見るだけでも,両氏をより豊かに生かす道があったことは明白となろう。
「(ラウンド・テーブル)PISAに対する各国の対応をめぐって」〔コーディネーター入部明子(つくば国際大学)/第103回全国大学国語教育学会(2005・10・30) ★上谷氏は話題提供者〕
府川源一郎研究代表「国際化,情報化社会が必要とする新しい読み書き能力の範囲と内容についての研究」〔平成15〜16年度科学研究費補助金 基盤研究(c)(1)研究成果報告書(2005・3)/★上谷(pp.25〜34)/寺井(pp.45〜58)〕
しかし,繰り返すようであるが,今回目指したものは「井上一郎的世界」であった。長所も短所もこの中にあったことと,筆者としてはその世界を堪能したことのみを記しておこう。
最後になったが,後援をしてくださった岩手県教育委員会や盛岡市教育委員会を初めとした関係各位の御厚意について記したい。
特に,遠野の語り部の第一人者である正部家ミヤさんの昔噺実現のための佐藤勝遠野教育事務所長,佐々木美紀教諭(遠野市立青笹小学校),宮澤賢治縁りの岩手県立花巻農業高校〔昆野安志校長〕の鹿踊り部の招聘についての阿部弥之岩手県立大船渡農業高校長の御高配に感謝したい。また,啄木・賢治の実地研究に,この面での卓越した実力者の森義真氏(近代文学研究家)をお迎えできたのも幸運であった。(筆者達の勤務先岩手大学からも,平山健一学長,星野勝利教育学部長等の支援があった。)
多くの方々に支えられながら,藤井知弘助教授の実際的指揮により,「日本国語教育学会・岩手会」のもと,岩手大学教育学部附属小学校や学生達と力を合わせ,会を運営できたことも「井上一郎的世界」の余慶であった。
もう一度,参加してくださった方々に感謝して,冒頭の言としたい。
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