- はじめに
- ―初任者には,初任者のための「心得」がある!―
- Chapter1 はじめの一歩で差がつく!バリバリ活躍するための心得編
- 教育現場に関して「無知」だということを自覚しよう
- 「具体的な情報」を集めよう
- 「固定観念」は捨て去れ!
- 子どもと仲良くなろうとする必要はない
- 授業は「うまくいかないものである」と思え
- 子どものせいにしない
- 子ども,保護者,同僚から信頼を得る!
- 初任者最大の武器は「子どもと遊ぶ」こと
- 「効率性」を求めるのは悪いこと?
- 「テキパキ」を意識するだけで多くの「荒れ」は防げる
- Chapter2 安全・安心のクラスづくりを目指す!安定した学級経営&子どもとの関わり編
- 初任者がまず目指すべきは「安全」「安心」なクラス
- 子どもをよく見て兆候を察知せよ
- はじめは「怖い先生」と思われるくらいでちょうどよい
- 叱るのは悪ではない,然るべきときに叱り,信頼を得よ!
- 自分がつくりたいクラスを明確にする
- 「目標」を達成させよ!
- 初任者におススメシステム 一人一役当番&一人一役掃除
- 初任者にありがちな失敗例① 一人にかかりきりになる
- 初任者にありがちな失敗例② 一度言ったことを曲げてしまう
- 初任者にありがちな失敗例③ 子どもの「試し」に気づかず,放っておいてしまう
- 初任者にありがちな失敗例④ 教室が汚い
- トラブルを生かす
- やんちゃを味方につける!① 「試し」行動を見逃さない
- やんちゃを味方につける!② 問題の背景を探る
- やんちゃを味方につける!③ やんちゃ君を通して教師力を磨く
- 特別支援を要する子への配慮① 狭い尺度に当てはめない
- 特別支援を要する子への配慮② その子のよさを伝えていく
- 特別支援を要する子への配慮③ 一人ひとりに合った指導を
- 特別支援を要する子への配慮④ 失敗も糧になる
- Chapter3 初任者でもここまでは押さえたい!子どもに力をつけるための授業づくり編
- とにかく時間を守る!
- 授業のねらいを常に意識する
- 教師が話す時間を減らそう
- 指示は短く的確に
- 教師が言いたいことは子どもに言わせる
- ミニ授業記録を残そう
- 基本どおりにやってみないと分からないことがある
- 「全体を動かすこと」と「個への指導」という視点をもつ
- 指導書に「頼る」のは悪ではないが,「頼り切る」のは悪である
- 指導書に頼らない=自分がこだわる教科を一つ決めよ
- 授業をつくる際の「こだわり方」は?
- Chapter4 コミュニケーションが肝心要!味方を増やす職員室・保護者対応編
- 「ホウレンソウ」を確実に!
- 「教えてください」で質を高める
- 分からないことは必ず聞く,聞きすぎるくらい聞く!
- すすんで雑用しよう―自分が「貢献」できることを探す
- 「感謝」の気持ちをもって仕事すること
- 自分はどんな仕事をしたいのかアピールせよ
- 保護者にはとにかく「真面目さ」と「熱意」をアピールせよ
- クレーム対応には「落ち着いて」「共感する」
- 保護者に「よく見てくれている」と思わせれば勝ち!
- Chapter5 初任のうちに必ず身につけたい!デキる教師になるための仕事術編
- 早く帰る人ほど伸びる!
- 「本日のゴール」を設定しよう
- 一年間の仕事一覧を作成し,いつでも見られる場所に掲示する
- 〇つけのポイント
- ノートは必ずその日のうちに見て,評価してしまう
- 「その場主義」で仕事をどんどん片付けていく
- 教師の仕事を素早くこなすには,キーボードの早打ちは不可欠
- 仕事は「何のため?」を問い,軽重があることを自覚せよ
- 「ほんの少しの工夫」を楽しんで見つけだす!
- 机の上をすっきり!透明カバーの中に入れるべきもの
- 書類を制するものが実務を制す
- 先輩や上司が残っていて帰れない場合は……
- 体調管理―ワクチンは必ず打つ
- Chapter6 3年目の飛躍を目標に!初任者でもできる自己研鑽編
- 「自分だけの世界」に閉じこもらないこと
- 学校の中で「こうなりたい」という先生を見つけよう
- 読書する
- 研究協議会で発言しよう!
- 研究会・サークルに参加しよう
- 実践発表しよう
- 実践レポートを書こう
- 「自分のクラス」が一番の自己研鑽の場
- 初任者のための必読書リスト
- 参考文献
- おわりに
- ―本書の内容が「物足りなくなる」ことを望む!―
はじめに
―初任者には,初任者のための「心得」がある!―
教師はすばらしい仕事です。
私は胸を張ってそう言えます。
しかし,そうは到底思えないくらい疲弊している若い世代の先生方がたくさんいます。
あんなに好きだった子どもに悩まされる。
保護者にクレームをつけられる。
上司や同僚から信頼されない……。
日付が変わるような時間まで働いても仕事が終わらない……。
現代の教師が抱える問題は非常に多いと言わざるを得ません。
私の同期の中にも,休職している人や既に辞めてしまっている人もいます。
それだけ現代の学校現場は厳しいといえます。
初任者どころか,ベテランでさえ,子どもや保護者に「NO」を突きつけられ,クラスが荒れ,休職や退職に追い込まれる時代です。
それでも,せっかく自分が選んだ職業です。
それなりにマスターし,「バリバリ活躍」していきたいと誰もが思っているはずです。特にこれから教壇に立つ初任の先生方はなおさらでしょう。
「バリバリ活躍する」には,当然のことながら,初任者はまず,「辞めて」はいけません。
辞めないことと同時に,「正しい心得をもつこと」が,これから「バリバリ活躍」していくためには必要です。ですから,本書では,「辞めない」ための“乗り切る”方法だけでなく,“上達”のための「心得」についても紹介したいと思います。
そして,数年後さらに「バリバリ活躍」していることを想定し,初任者である一年間,できる限り活躍することが「次」につながっていきます。具体的に言えば,初任者であってもクラスを安定させ,授業実践にできる限り力を入れていくことで,それ以降の活躍につながっていくのです。大切なことは,「満足しない」ということです。まだまだ上のステップが待っているからです。
私には,初任者の先生方へのアドバイスをする,という点で,他に本を書かれている先生方に比べて強みがあります。それは,「初任者に近い」ということです。年齢的にも経験的にも初任者に「毛が生えた程度」ですが,だからこそ,初任者のときの経験や状況が鮮明に思い出せます。そんな私が,「初任のときに知って得した!」とか「初任のときに知りたかったなぁ!」と思う「初任者のための」アドバイスをまとめたものが本書なのです。
例えば,こんなことがありました。
ある年,勤務校に初任者がやってきました。とても意欲のある方で,「授業を見せてください」というので,お見せしました。子どもたちは熱中して話し合い,ほとんどの子どもが自分の意見を発表しました。授業で目標としていた力も身につけさせることができ,自分なりには「それなりの」ものをお見せできたかなと思っていました。
授業後,私はその初任者の先生にコメントを求めました。
さて,どちらが初任の先生のコメントでしょうか。
A「子どもたちがイキイキしていて,自分から発言していてすばらしかったです」
B「とてもテンポがよくて,こんな緊張感のある国語の授業は初めて見ました。『国語=ゆっくり,眠い,退屈,休憩時間……』という自分の固定観念が大きく変わりました。『言っていることが分からない』『長い,手短に』などと,ダメ出しすることでよい訓練の場になると思いました」
正解は…………実は「A」なのです。(「B」は,私のクラスの保護者が授業参観後にくださったコメントです。)
この「事実」からは,二つのことが分かります。
第一に「初任者は教育現場に関して,ことさら授業に関して無知である」ということです。この「A」のコメントをいただいたとき,初任者は教育現場に関しては無知なのだ,ということを痛感しました。
初任の先生にお見せした授業では,子どもへの「学習用語の定着」「挙手の仕方」「発言の仕方」「ゆさぶり発問」「学習の振り返りへの指導の入れ方」などなど,私としては「見てほしいポイント」があったのですが,初任者は「気づかない」のです。こんなに「意欲のある初任者」でも,そうなのです。もちろん,初任のときの私も気づかなかったでしょう。
一方,「B」のコメントをくださった,本来授業のプロではないはずの保護者の方が,初任者より授業を見る目が数段上でした。「A」の初任の先生とは「授業を見る視点や力」が違います。私はこのとき,保護者との対比により,初任者は授業に関しては無知なのだと痛感したのです。当然と言えば当然のことですが,自分が経験を重ねると忘れがちなことです。
第二に「初任者に対してすることのできるアドバイスは限られている」ということです。よくベテランの先生が口にする「授業が大切だ,授業がうまくいけばすべてうまくいく」というのは確かにその通りです。私にも確固たる実感があります。しかし,この実感は,「ある程度の期間,授業力向上のための取り組みをしっかり行ってきた教師が得ることのできる実感」なのです。それを初任者にアドバイスするのは,厳しいものがあります。初任者の段階でそれを実感することはほとんどないからです。つまり,「その人の経験,力量に合ったアドバイスしか本当に理解することはできない」ということです。これも,当然と言えば当然のことです。
自分自身を振り返ってみても,同様のことが言えます。今でも毎日,気づかされることが多くあります。「あのとき,あの先生が言っていたことはこういうことなのかぁ」と,経験を積んで気づくのです。子どもへの指導,話もそうですが,初任者への「アドバイス」も,伝わって理解されてこそ「アドバイス」なのです。
初任者は,他の先輩方や初任者指導の先生から,様々なことをアドバイスされます。
ある人は「授業が何よりも大切だ」と言います。
ある人は「教材研究が大切だ」と言います。
ある人は「授業よりも学級経営を中心にやるべきだ」と言います。
ある人は「保護者との連絡をしっかりとることが何よりも大切だ」と言います。
ある人は「子どもと遊べばいいんだよ」と言います。
それぞれの先生方が,それぞれの親切心で,それぞれが正しいと思ったことをアドバイスしてくれます。
しかし,それらのアドバイスは「初任にとっては」,正解のときもあれば不正解のときもあるのです。これでは,初任者の先生は困ってしまいます。
以上の二点から,私はある結論を導き出しました。
「初任者には,初任者のための心得がある!」ということです。
本書では,まだ記憶に新しい,私の初任時代の失敗や,初任者がやってしまいがちな失敗を取り上げ,どのようにしていくとよいかを具体的に述べています。
初任者にとって本当に必要な知識,心構えが書かれており,初任者が理解しきれる「初任者のためのアドバイス」が書かれているのが本書なのです。
また,なぜこの方法がいいのか,ということも可能な限り書いておきました。そのような「考え方」を知ることで,方法だけを知っている段階からその方法のよさを他の場面に転移できる可能性が広がると考えたからです。
「ここに書かれていることでは少し物足りないなぁ」と思われる方もいるかもしれません。それでいいのです。むしろ,早いうちに,そう思わなくてはいけません。「初任者にはここまで」という具合に絞ってまとめてあります。そして,ところどころに,「その方法,やり方の限界」なども書いてあります。初任者にとってはよい方法でも,10年,20年,そのやり方が子どもに通用するとは限りませんし,ベストとは言い切れません。もっと子どもの力を伸ばせる方法はないか,と自分の頭を使って考え始めると,初任者の域を脱して,次へのステップが待っています。(そのような方のため,「3年目にグッと飛躍したい教師のための心得」も機会があれば書かせていただく予定です。ご期待ください。)
本書で述べられるアドバイスが「初任者へのアドバイス」として機能するよう,本書を書くにあたり,サークルメンバーやゼミの後輩の初任者に手伝っていただき,私の独断と偏見のみではなく,逆に初任者から「アドバイス」をもらうことで,完成させることができました。本書の内容は,初任者の方にとって,理解しやすいものとなっているはずです。
Chapter1「バリバリ活躍するための心得編」では,これから教育現場に出る方が「知っておくべきこと・心がけるべきこと」を挙げました。Chapter2,Chapter3ではそれぞれ「学級づくり」と「授業づくり」について述べました。初任者が気をつけることを,具体例を交えて述べました。Chapter4「味方を増やす職員室・保護者対応編」では,初任者としてどのように同僚の先生方や管理職,保護者と接していけばよいかを述べました。Chapter5「デキる教師になるための仕事術編」では,初任者でも取り組める仕事術について述べました。Chapter6「初任者でもできる自己研鑽編」では,どのようにして自分の力量を高めていくかを述べました。基本的にどの章から読んでいただいても結構です。
本書が,初任の先生方,若手の先生方の活力となり,教職を心から楽しめる人が増えることを心から願います。
なお,個人情報保護のため,本書で紹介されている子どもの事例は,できるだけ具体的に書きながらも,性別,学年などの情報はぼかしたうえで,複数のケースを組み合わせてあります。ご了承ください。
/土居 正博
コメント一覧へ