- 特集 子どもの時こそ「絶対させたい体験」ベスト10
- 体験は知恵と知識と生きる力を支える根っこになる。力のある教師は授業で子どもの体験を大切にとり入れていく。
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子どもの時こそ「絶対させたい体験」ベスト10
体験は知恵と知識と生きる力を支える根っこになる。力のある教師は授業で子どもの体験を大切にとり入れていく。
本誌編集長/日本教育技術学会会長/千葉大学非常勤講師
無料の世界最大の教育情報サイトインターネットランド主宰
TOSS(会員1万名の教師の研究団体)代表
向山洋一
子どもにぜひとも体験させたい……と思い努力している親がいます。
歌舞伎役者は、三歳の頃から、「長いセリフ」を覚えさせ、舞台を体験させます。
伝統的芸道の世界には、小さい時から「体験」をさせるメニューが揃っています。系統的な体験は、最もすばらしい教育です。
子どもが入学する直前に「学校までの道」を一緒に歩いたり、「ランドセルを背負わせて一人で行かせた」人も多いと思います。
私も、経験しました。
あるいは「一人旅」を経験させた方もいると思います。
新幹線のホームまで送って、ついた駅には田舎の親を待たせておき、列車に一人のせた経験をした人もけっこういるはずです。
また、スイミング、ボーイスカウトなどの夏の合宿に、まだ低学年の子を出した人もいることでしょう。私も小二の娘を、五日間のスイミング合宿に出しました。親の方が淋しく思いました。
更には、さまざまな自然体験をさせるために、旅に出た人もいると思います。
小学生を教えていた時、夏休みの宿題に「旅行したら旅行記を書きなさい。旅で出会ったものは、何でもとっておきなさい。
駅弁の袋、ハシの袋、できたら切符も」と話しました。どの子も、すてきな旅行記を書いてきました。
私の言った事を忠実に守って、旅先の思い出の地に落ちていたタバコのスイガラを旅行記に貼りつけていた女の子もいました。
その子は、すてきなレディに成長し、衆議院議員の河野太郎夫人になっています。
動物を飼うことを体験させたいと考えている人も多いでしょう。
犬猫はもとより、鳥や金魚や熱帯魚に至るまで……体験させた人もいると思います。
このような、それぞれの体験は、子どもにとってすばらしい学習となります。豊かな体験は、豊かな人格をはぐくむのです。
子どもたちの体験は、多い方がいいのです。多方面、多種類の体験をしてほしいと、良質の体験をしてほしいと思います。
さまざまな体験は、子どもたちの「生きる力」「考える力」「知識」を支え、育てていきます。
体験をもとに、教室では授業がされます。
授業は、意図的で計画的な行為です。
しかし、その根っこには、体験が横たわっているのです。
小学校低学年で「買物調べ」があります。昔は社会科で、今は生活科でとりあげられる内容です。
子どもたちの「買物体験」を、教師はどのように「授業」にしていくのか、かつて私が学校通信で、クラスの保護者に報告した文章を紹介します。
*
◇社会科で「買物調べ」をしました。
一週間(の間)、家の買物を調べます。つまり買物日記をつけたわけです。
一週間分の買物を発表してもらいました。いろんなものが出てきます。当然のことながら「わけのわからない物」もまじります。「せんせい、みりんってなんですか。」
私は教えません。「わからない物」を「わからない」と意識するのも大切な勉強です。
◇上質紙を小さく、細長く切ってカードを作りました。このカードに、品物の名を記入させました。一枚に一個です。たくさんのカードができあがっていきます。もちろん、カードが少ない子もいます。こうやって一時間、終了しない子は宿題にしました。
次の時間、カードを仲間ごとに分けさせました。これもテンヤワンヤです。机の前に、たくさんのカードが並びます。ここでも「わからない物」が大問題です。どこに入るのか見当がつかないのです。ここでも、「わからない物」は、「わからない物関係」というグループに入れさせました。
「食べ物関係」「やおやさん関係」「のみもの関係」、同じ飲食物でもいろいろな「関係」が生まれます。
これを、一枚の上質紙に書かせました。
速くできる子おそい子いろいろです。
◇一番、速くできた増田さんに、黒板に書かせました。
増田さんは、いっしょうけんめい黒板に書きました。その間に、他の子は自分のを完成させます。次が増田さんの図です。
さかな
あ じ
やさい
レタス
キャベツ
アスパラ
わけぎ
トマト
くだもの
いちご
みかん
パ ン
パ ン
ごはん
おにぎり
す し
おかし
むぎちゃ
アイス
アイス
たまご
たまご
ようふく
Tシャツ
おさとう
おさとう
おにく
ひきにく
ベーコン
◇この図で「へんだな」と思うことを聞きました。となりの子と相談します。自分の考えをペアで確かめます。「トマトをくだもの関係に入れる」という考えが出ました。「やおやで売っている」というので却下です。「アイス」を「おかし関係に入れる」というのも出ました。これは大論争です。いろんな所で売っているのです。「アイス」は「甘いもの関係」だという意見も出て、「それなら、さとうも甘いもの関係でアイスと一緒で、おかしい」という反論も出ました。「おかし関係」で一応おさまりました。
◇すごいのが出ました。
「タマゴ、ごはん、肉」を、食べ物関係で一緒にしろと言うのです。この時は、みんなコーフンしてしまいまして、「ソーユーことユーなら、みんな食べ物カンケイジャナイカ」と大変です。「食べ物関係」だと大きすぎて、みんな入っちゃう、ちょっとへんだということで、言い出した今村君も納得です。
◇ここで、「アイスは、オヤツ関係だ」という意見が突如出ました。さっきの結論が気になっていたのでしょう。新しいコトバ、新しい概念、ニューコンセプトを提出したのです。「アイスは、オヤツ関係だ」という考えは、大混乱になりました。
家々で、「オヤツ」が異なるからです。「うちじゃ、イチゴがオヤツだ」「いや私んちは、パンよ」「わたしのとこオヤツがない」というわけで、せっかくの考えだったのですが、これも却下ということになりました。
◇次は、佐藤さんが黒板に書きました。
佐藤さんの図では、次のところが問題となりました。「わからない関係」です。
わからない
たけぐし 花 こめ
話し合いの末、たけぐし……けしょう品や、花……花や、米……米やということになりました。
矢島さんは、「お米がパンになる」と主張し、座間さんが、「パンやにお米が売ってない。だからお米はお米やだ」という意見が対立しましたが、面白いので持ちこしです。こういう所を、すぐ教えてしまうと、いい勉強ができないのです。
「パンは何でできているか」という討論になりました。矢島さんは「パンはお米から作る」と言います。でも「パンやとお米やはちがう」という意見が出ます。太田さん、矢島さんなどは、「パンはお米で作るとママが言ってた」と言います。こういう言い方は一つの「流行現象」となって、みんなつられます。
「そういえば、うちのお母さんも言っていた」という意見が出ます。ほとんどの子が「パンは、米と麦から作る」になってしまいました。
◇「ちがう」と、大声でさけんだ子がいます。勉強は大嫌いと言っている山田一郎君です。みんなは、大ぜいで言ってますから、ワイワイしていて山田意見をとりあげようとしません。
「パンはね」と山田君が大声で続けます。「バターとね、卵とね、塩とさとうと、小麦粉とイーストから作るの」と言いました。「バター」と言った時、「うそー、へんなの」と声が出ました。
しかし、山田君が続けると、教室が静かになってきました。言い終わった時、教室はシーンとなってます。
あまりにも、圧倒的な知識のちがいに、子どもたちは呆然としているのです。私は、「ここにいるのは、まぎれもなく人間の子だ」と思いました。「知の力」に子どもながら圧倒された姿なのです。もう一度、山田君に前に出て説明してもらいました。イーストの説明もしてくれました。「さあ、どう考える」私は聞きました。「ママに聞いた」「お母さんに聞いた」子は黙ったままです。しばらく沈黙が続きました。
◇「先生、教科書にパンのこと出てる」と永田さんが言いました。みんなもいそいで本を見ました。後のページです。「本当だ」「山田君あってる」驚きの声が続きます。「調べる力」「読みとる力」も人間の力なのだと私は実感しました。
*
小学校二年生の授業です。
とっても、知的だと思いませんか。
子どもたちは、ありとあらゆる体験を動員して考えます。
「お母さんが言っていた」という意見がありました。これは、勘違いで、間違いなのですが、多くの子どもは、つられていきます。
「お母さんが言った」というのは、水戸黄門の印ろうのようなものです。活発な子が言えば、クラス中なびいていきます。
でも「違う」と叫ぶ子もいたのです。
「計算嫌い・漢字大嫌い」で、授業中はシーンとしている山田君です。
山田君の叫びに、誰も反応しません。
でも、山田君は続けます。
しかし「バターと、卵と、塩とさとうと、小麦粉とイーストから作るの」の意見に、クラス中がシーンとします。
山田君は、多くの優等生、クラス中の子を、この発言でシーンとさせたのです。
これは、山田君が、お母さんと体験していたことなのでした。
体験は、このように知恵となり生きる力となるのです。
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- 明治図書