- はじめに
- 本書の使い方
- 第1章 本書が目指している実践と大切にしていること
- 1.本書が目指している実践
- 2.スイミーとふろしき忍者・先生プログラムが大切にしていること7か条
- 第2章 子どもが夢中で学べる! マルチ知能&“やる・き・ちゅ”とは?
- 1.学び方は一人ひとり違っている
- 2.マルチ知能って何? ―いろいろな学び方の手がかり@―
- 3.“やる・き・ちゅ”って何? ―いろいろな学び方の手がかりA―
- 4.マルチ知能&“やる・き・ちゅ”は,「授業づくりの手がかり」でもある
- 第3章 体験して学ぼう! 子どもと一緒に見つけるマルチ知能&“やる・き・ちゅ”
- ―「学び方を学ぶ」学習の実際―
- 1.マルチ知能の力について知る学習:「きみにはたくさんの力がある!」
- 2.“やる・き・ちゅ”の力について知る学習:どんな学習の時にもいつも使う力
- 3.「やる気」を育てる学習
- 1)実践のポイント
- 2)「やる気」の仕組みとコツについて
- 3)実践例
- 4.「記憶」についての学習
- 1)実践のポイント
- 2)記憶の仕組みとコツについて
- 3)実践例
- 5.「注意」についての学習
- 1)実践のポイント
- 2)注意の仕組みとコツについて
- 3)実践例
- 第4章 マルチ知能&“やる・き・ちゅ”で変わる! 子どもが夢中で学べる活動アイデア
- 1.国語:ペア読書
- 2.国語:ホットシーティング ―物語の理解―
- 3.国語:マルチ漢字練習 ―いろいろな力を使おう―
- 4.国語・特別支援:「きせかえ漢字」で形のイメージづくり
- 5.国語:からだの作文メモ
- 6.国語:こころの作文メモ
- 7.国語:対話カメラ
- 8.国語:写真集をつくろう ―表現活動・作詞・鑑賞―
- 9.国語・特別支援:オリジナルカレンダーで学ぼう
- 10.算数:リズムで覚える10の合成
- 11.算数:計算じゃんけん
- 12.算数:ごま団子の歌 ―「5」の分解・合成―
- 13.算数:マルチ知能を使ってかけ算九九を覚えよう
- 14.算数:ゴロ合わせで直感的に学ぼう ―計算手順―
- 15.算数:フラッシュカードで記憶とやる気アップ ―広さを調べよう―
- 16.算数:数量トランプ ―小数,分数など―
- 17.社会:フラッシュカードで記憶とやる気アップ ―重要語句を覚えよう―
- 18.社会:マルチなまとめ・発表 ―自慢できる先人を探そう―
- 19.社会:イラストからみつけよう! ―歴史―
- 20.図画工作:みつけよう,鑑賞テクニック
- 21.休み時間・特別支援:そろえてキューブ
- 22.学級活動:マルチピザでいいところ探し
- 23.学級活動:目・耳・心・口チャック ―聴く時の約束―
- 24.学級活動:立腰で注意力アップ
- 25.学級活動:イラスト動物園 ―いいところ探しトレーニング―
- 26.学級活動:対話まちがい探し
- 27.学級活動:誕生日通信で生まれた日のヒット曲を贈る
- 28.学級活動:生き物を飼う
- 29.委員会活動:ホワイトボードで話し合いを可視化
- 第5章 学び方で子どもが変わる! マルチ知能&“やる・き・ちゅ”を活用した授業事例
- 1.マルチ知能を使って学ぶ理科:いろいろなこん虫のかんさつ(小3理科)
- 2.多感覚で学ぶユニバーサルデザインな算数の授業:広さを調べよう(小4算数)
- コラム
- 子どもの心と体を育てる「立腰教育」
- 学校全体の取り組みで効果10倍に!
- おわりに 〜明日からできるはじめの一歩〜
- 参考・引用文献
- 資料 これでバッチリ!実践お助けグッズ
はじめに
本書では,ユニバーサルデザインな授業を以下の様に定義しています。
ユニバーサルデザインな授業iとは,すべての子どもが「わかる」「できる」ことを目指した授業であり,一人ひとりの学び方の違いに応じて,いろいろな学び方が選べる授業である。[涌井(2013),p.6]
現代の通常の学級には,実に多様な教育的ニーズを抱えた子どもたちがいます。2012年の文部科学省の調査では,発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒は,約6.5パーセント程度の割合で通常の学級に在籍していることが示されています。1クラス40名の学級で考えると,2〜3名の発達障害の可能性のある子どもが学級に在籍している,ということになります。発達障害のある子ども以外にも,日本語が母語でない(外国籍の)子ども,虐待などにより心理的な問題を抱えている子どもなど特別な支援や配慮の必要な子どもたちが学級にはいることでしょう。学級担任としては,どの子も一人ひとり大切なクラスの一員です。このほかに成績下位群の子どもの学習の遅れも気になれば,成績上位群の子どものさらなる伸長も気になるでしょう。どの子どもたちにも確かな学力を身につけさせるため,すべての子どもがわかる,できることを目指したユニバーサルデザインな授業づくりの必要性が高まっています。
学習障害や注意欠陥多動性障害,アスペルガー症候群などのいわゆる発達障害は,知的障害を伴わない障害です。その他大勢の子どもの学び方ではうまくいかなくても,別の方法ではうまく学べる力をもっている場合もあります。ふとした会話を聞くと決して物事の理屈を理解していないわけではないのに,プリントや口頭での発表ではうまく伝えることができず,覇気のない顔をみせる彼らに,私はとてもやるせなく,もどかしい思いをしてきました。
授業が変われば,もっと発達障害のある子どもは学べるのではないか,そのほかの子どもたちだって,言葉のシャワーばかりの授業より,もっと違う形の授業の方がわかりやすく学びやすいのではないかというのが,「スイミーとふろしき忍者・先生プログラム」A開発の出発点です。そして,いろいろな学び方ができる授業はどうつくったらよいのだろう?と右往左往している時に,本棚の奥から約10年ぶりに出てきたのがマルチ知能(multiple intelligences)の本Bでした。
これまでの授業実践から,マルチ知能と発達障害の特性を考えて加えた“やる・き・ちゅ(やる気・記憶・注意)”と,そして子ども同士が学び合う協同学習を活用することで,予想以上の子どもたちの学びの姿をみることができました。マルチ知能とやる・き・ちゅを活用できる授業(学習課題)を考えると,子どもたちの学びの姿が変わってきました。絵や図を描いてみたり(絵の力),友だちと話し合ったり(人の力),順番で整理してみたり(数字の力)と,読み書き偏重の授業では,授業についていけずふざけたり,あるいはただ黙って座って耐えるしかなかった子どもたちが,主体的に学ぶようになります。何よりもまず,子どもが今何を考え,何につまずいているのか,何を発見しようとしているのか,子どもの思考の姿がみえてきます。
本書は,通常の学級にいるすべての子どもの学びを充足することを目指した「スイミーとふろしき忍者・先生プロジェクト」の研究成果の一端を紹介したものになります。読み書きに偏らない授業や活動のアイデアをたくさん掲載しています。本書が,子どもの中に眠っているたくさんの可能性を引き出す手がかりとなれば幸いです。
編著者 /涌井 恵
i 涌井恵(編著)(2012)発達障害のある子どももみんな共に育つユニバーサルデザインな授業・集団づくりガイドブック.(科研費若手研究(B),課題番号:2173073)http://www.nise.go.jp/cms/resources/content/389/20130508-172047.pdf(アクセス日:2014年1月10日)
A 「スイミーとふろしき忍者・先生プロジェクト」とは,下記の2つの研究の愛称です。
@平成21-23年度文部科学省科学研究費 若手研究(B)「発達障害児の在籍する通常学級における協同学習のユニバーサルデザイン化に関する研究」(研究代表者:涌井恵,課題番号:21730730)
A平成24〜26年度文部科学省科研費若手研究(B)「発達障害児と共に学ぶ通常学級の学び方を学ぶ学習と協同学習を組合わせた指導の開発」(研究代表者:涌井恵 課題番号:24730774)
B トーマス・アームストロング著,吉田新一郎訳(2002)「マルチ能力」が育む子どもの生きる力,小学館.
-
- 明治図書
- 発達障害のある中学生の学び意欲をどう育てるかを書いてあると思っていた。2018/10/1250代・中学校教員