- はじめに
- 本書の使い方
- 第1章 「ザワつく」道徳授業とは
- 1 道徳授業は変わったか
- 2 なぜ変わらないのか
- 3 道徳授業のゴールを考えよう
- 4 「ザワつく」道徳授業
- 第2章 「ザワつく」道徳授業と「問題の本質」
- 1 「ザワつく」道徳授業と「問題の本質」
- 2 「問題の本質」とは
- 3 「問題の本質」を捉えるには
- 4 「問題の本質」に迫る授業をつくるために
- 5 5つの「問題の本質」の型
- 第3章 「問題の本質」の5つの型
- 1 なんでそんなことできるの?型
- 2 よく考えると,それっておかしくない?型
- 3 すごすぎて自分とは関係ないかもね型
- 4 わかっているけど,できないんだ型
- 5 どうしたらいいの?型
- 第4章 「ザワつく」道徳授業プラン
- なんでそんなことできるの?型
- 1 小学校2年 「とくべつなたからもの」(「くまくんのたからもの」)
- 2 小学校6年 「青の洞門」
- 3 中学校2年 「六千人の命のビザ」(「杉原千畝の選択」)
- よく考えると,それっておかしくない?型
- 1 小学校3年 「お母さんのせいきゅう書」(「ブラッドレーのせいきゅう書」)
- 2 小学校5年 「一ふみ十年」
- 3 中学校3年 「足袋の季節」
- すごすぎて自分とは関係ないかもね型
- 1 小学校4年 「花丸手帳〜水泳・池江璃花子選手」
- 2 小学校5年 「真の看護を求めて――ナイチンゲール」
- 3 中学校1年 「よく生きること,よく死ぬこと」
- わかっているけど,できないんだ型
- 1 小学校1年 「はしのうえのおおかみ」
- 2 小学校5年 「流行おくれ」
- 3 中学校1年 「いつわりのバイオリン」
- どうしたらいいの?型
- 1 小学校1年 「二わのことり」
- 2 小学校4年 「ひびが入った水そう」
- 3 小学校6年 「ロレンゾの友達」
- 第5章 「ザワつく」道徳授業力をアップする7Tips
- Tips1 ザワつきを生み出し,思考を活性化する板書
- Tips2 ザワつきを生かす話し合い活動
- Tips3 ザワつく授業を助けるタブレット端末の活用
- Tips4 ザワつきにつながる役割演技
- Tips5 ザワつきを生む事前アンケート調査
- Tips6 ザワつきにつなげる教材提示
- Tips7 ザワついた授業の閉じ方
- おわりに
はじめに
ここでは何よりも『「ザワつく」道徳授業のすすめ』という怪しい,流行り言葉に乗っかったような,軽々しいタイトルをつけたことの説明(言い訳)をしなければならないと思うのだが,一言ではいえない深い理由があるので少々長くなる。面倒かもしれないが読んでいただければ幸いである。
毎日テレビから流れてくるニュースを見ていると,昔からあったような悲しい出来事や事件もまだまだ起きていることがわかるけれど,一昔前には想像もできなかったような出来事や事件が多くなっていると感じられる。ちょうどこの原稿を書いている「今」は,振り込め詐欺をしていたグループがさらにそこで得た情報を使って,老人を狙った押し込み強盗をしていたというニュースが繰り返し報道されている。ロシアによる悲しみに満ちた軍事侵攻のニュースも報道されない日はない。いけないと思いながらも,そういったニュースが流れると目を伏せてしまう弱い自分がいる。私たちはそういった問題に対して何もできないのかもしれないけれど,唯一できることは,目を伏せないで直視することなのに。そして,もしかしたら日本中の,世界中の人が勇気をもって目を伏せずに直視したら世の中が変わるかもしれないと思いなおして,視線を上げてニュースに目を向ける。
道徳の時間の授業がうまくいっていなかったから,大人になった日本人の心が荒んだなどということは全くないだろうし,道徳科の授業がよくなったら心が豊かになってパッとよい国に変わるということもないだろう。しかし,その変えていく兆しのようなところは,やはり子供たちがもっているのであり,私たち教師はその背中をちょっとだけ押してやらなければならない。
そして,道徳科の授業でのその「背中押し」は,直視する授業をすることだと私は考えている。よい現実にも,よくない,悲しい,辛い現実にも目をそらさず直視し,自分に何ができるかを考えることで,子供たちの奥底に自分への責任,家庭への責任,社会への責任……が生まれるのである。反対に,直視しないでいると現実から逃げ,問題を解決しないで人任せにする姿勢がつくられてしまう。
さて,私たちがこれまでにしてきた道徳授業は,考えなければならない問題を直視する授業だっただろうか? もちろん,日本中のほとんどの先生が多忙ななか,一生懸命準備をしてよい授業をしようと努力していることは間違いないし,本当に頭が下がる思いである。そのなかで,子供たちに直視することを求め,実際にそうなっている授業も確かにあるのだが,多くの教室では,残念ながら直視させているつもりだけれど実はできていない現状があると捉えている。そして,その多くの授業では,子供たちのなかにある「わかりきった」道徳観を再現させるところまでの授業になっている。
道徳授業に関わりながらこの問題に気づき,問題の根源がどこにあるのかを考えてきた。その結果,「考えなければならない問題を直視する授業」をするうえで,まずは「考えなければならない問題」(本書では「問題の本質」としている)が見えていないことを克服する必要がある。そして,次にどうしたらその問題を「直視する授業」になるかを考える必要がある。
本書では,「考えなければならない問題を直視する授業」をすると子供たちの心にザワザワと波風が立つとしている。波風が立たないのもだめだし,波風どころではない大波大風でもだめである。その理由は本文中に書いたので読んでいただければありがたい限りであるが,いずれにしても子供たちの心が「ザワつく」授業こそが,子供たちに厳しい現実を直視させることができるのである。そして,それをどのように具体化したら先生方の役に立つものになるかを考え,「ザワつき」を5つの型に分類し,それぞれの型での授業づくりの仕方を解説し提案した。
読者である先生方がこれまでに実践してきた道徳授業と比べていただき,道徳授業への意気込みでも,考え方でも,あるいは授業づくりの方法,発問の仕方など僅かにでも生かせるところを本書から見出していただけたら幸いである。
2023年5月 /石丸 憲一
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