- はじめに
- 第1章 考え,議論する道徳の教材研究4つの視点
- 1 考え,議論する授業にするための教材研究のポイント
- 1 なぜ,道徳教育をするのか
- 2 道徳性とは何か
- 3 どのように道徳性を養うか
- 2 視点1 教材と道徳的価値(内容項目)の関係を捉える
- 1 教材が含んでいる道徳的価値はひとつではない
- 2 「走れメロス」にはどのような道徳的価値が含まれるか
- 3 教材に表れる道徳的価値を相関図に表そう
- 4 「フィンガーボール」を例に考える
- 5 「フィンガーボール」に含まれる道徳的価値を抽出する
- 6 道徳的価値どうしの関係を考える
- 7 「フィンガーボール」における道徳的価値の相関図
- 8 「フィンガーボール」の道徳的価値ポイントは
- 3 視点2 児童・生徒と教材の関係(建前と本音)を明らかにする
- 1 道徳的実態とは
- 2 道徳的実態は建前と本音とで捉える
- 3 建前とは何か
- 4 本音とは何か
- 5 「本音」を出し合えばそれでよいか
- 6 道徳科授業の目指すところと建前,本音
- 7 教材「フィンガーボール」で建前と本音を考えよう
- 8 道徳的実態を生かして3段階で学習過程を考えよう
- 4 視点3 優れた課題(発問)と授業展開を考える
- 1 課題をつくる
- 2 「フィンガーボール」,石丸だったら,こう授業する
- 3 主体的・対話的で深い学びと考え,議論する授業
- 5 視点4 評価を前提として授業を組み立てる
- 1 道徳科において「深い学び」であること
- 2 データを生かした評価をする
- 第2章 4つの視点でできる! 小・中学校定番教材の教材研究実践プラン
- A 主として自分自身に関すること
- 1 小学校低学年「ありがとう,りょうたさん」[個性の伸長]
- 2 小学校中学年「よわむし太郎」[希望と勇気]
- 3 小学校高学年「手品師」[正直,誠実]
- 4 中学校「ネット将棋」[自律]
- B 主として人との関わりに関すること
- 1 小学校低学年「こんなときなんていうの」[礼儀]
- 2 小学校中学年「心と心のあく手」[親切,思いやり]
- 3 小学校高学年「すれちがい」[相互理解,寛容]
- 4 中学校「カーテンの向こう」[思いやり]
- C 主として集団や社会との関わりに関すること
- 1 小学校低学年「むかしあそび」[伝統と文化の尊重]
- 2 小学校中学年「雨のバスていりゅう所で」[規則の尊重]
- 3 小学校高学年「星野君の二るい打」[集団生活の充実]
- 4 中学校「クリームパン」[勤労]
- D 主として生命や自然,崇高なものとの関わりに関すること
- 1 小学校低学年「弟のたんじょう」[生命の尊さ]
- 2 小学校中学年「ハチドリのひとしずく」[自然愛護]
- 3 小学校高学年「青の洞門」[感動,畏敬の念]
- 4 中学校「二人の弟子」[よりよく生きる喜び]
- おわりに
はじめに
本書を執筆をしていた2017年10月は,道徳の時間が小学校で道徳科としてリニューアルオープンされる2018年4月まで残り半年,中学校では1年半というタイミングでした。学習指導要領の一部改正により道徳科が学習指導要領に示されたのが2015年3月ですから既に2年半が経過しています。この間に学校現場の道徳の授業がどのように変わったかといえば,ほとんど変わっていないのが現状です。正確に言えば,小学校はこれから変えようとしているところであり,中学校は準備をしているというところでしょうか。
おそらく,このままでいくと小学校も中学校も授業を変えることには間に合いません。なぜでしょうか。どこをどう変えていいのかよくわからないからです。具体的に言えば,授業のどこを変えればよいかが新学習指導要領を目の当たりにしても見えてこないのです。このことは私の中では想定していたことでした。そこで,それをふまえて2015年3月に学習指導要領に道徳科が位置づけられて以来,多くの小中学校でどのように道徳の授業を変えたらよいかを提案し続けてきました。
変えていくことの中心は当然ながら「考え,議論する」という部分です。このことは,学校現場では合い言葉のようになっていますが,同時に聞こえてくるのは,「どうしたら考え,議論する授業ができるのか」ということです。このような状況が現実であることを改めて認識するとき,学校現場で先生方がどのように教材研究をし,授業を計画したらよいかを,具体的な段階を示すことなしに先には進めないと考えました。そして,考え,議論する道徳科授業を実現するための教材研究の仕方を明示する本を出版することが私に与えられた仕事だと考えました。
以上の動機によって本書は世に出ることになりました。ですから,これまでの道徳の時間で授業がうまくいかなかった理由を明らかにし,その課題を解決することを私自身のミッションとし,本書においてはより具体的になるよう極力,実際に使われる教材をモデルとして教材研究の過程を示しました。
具体的な教材研究の過程を挙げると次のようになります。
1.道徳科の授業は何を育てるのかを明確に持つ
2.内容項目と他の道徳的価値との関係を捉える
3.本音・建前を予測して道徳的実態を捉える
4.優れた課題と「主体的・対話的」活動を結びつける
5.評価できる授業かどうかを考える
本書ではこのうちの2の内容項目と他の道徳的価値との関係を捉えることと,3の本音・建前を予測して道徳的実態を捉えることを特に強調しています。読者の皆さんは,これまでにこのようなアプローチの仕方で道徳の教材研究をしてきた例をほとんど目にしたことはないと思います。しかし,私はこの二つのアプローチの仕方こそ,教材だけでなく教材研究を可視化する方法だと考えています。これまでは授業のうまい人だけが意識せずに行っていたことを,本書で明らかにできることを示しました。
本書で提案したことを,ぜひ,しばらく続けてみてください。残念ながら,本を読んだだけで,あるいは1回か2回試してみただけで教材研究がうまくできるようになったり,授業の腕が上がるような方法論は存在しません。それは,本書においても同じです。ここで提案する教材研究の方法に慣れることで,徐々に教材がよく見えるようになってくるはずです。そして,道徳の授業をすることが楽しくなってくるはずです。
A・B・C・Dの視点ごとに,また,小学校低学年・中学年・高学年・中学校と計16の教材研究の実際と実践プランを提案したことも,明日の授業にすぐに役立ててほしいということと共に,多くの教材研究の実例に触れることで教材研究の技術を身につけてほしいという願いからのものです。本書が,道徳科の授業で児童・生徒の道徳性を養うことに少しでも寄与することを心から願っています。
2018年2月 /石丸 憲一
道徳授業について悩んでいる者にとっては必読の一冊に間違いないだろう。