- はじめに
- 本書の使い方
- 1章 発達障害のある子の「育ちの力」
- 1 見えにくい「できにくさ」に苦しんで
- 2 子どもが成長する学び術
- 3 「育ちの力」を支えるサポート術と学び術
- 2章 衝動性のコントロールを育てる学習課題&学び術 【課題遂行の力】
- 4 課題遂行の力を育てる
- 5 静止する・ゆっくり動く
- 6 おちた,おちたゲーム
- 7 ストループ課題
- 8 命令ゲーム
- 9 あと出しじゃんけん
- 10 すいか割り
- 11 ぐるぐるカード
- 12 書写
- 13 道具の扱い
- 14 ルールを守る(学習,生活,ゲームなど)
- 15 行動修正の力を育てる
- 16 長なわ跳び,キャッチボール,合奏
- 3章 プランニングの力を育てる学習課題&学び術 【課題遂行の力】
- 17 見通しと心の調整
- 18 ヒモ通し
- 19 じゃんけんトーナメント
- 20 何時に着くために…
- 21 虫食い算・ブロック算
- 22 国語辞典の使い方(調べる)
- 23 ハノイの塔
- 24 リマインダーを活用しよう
- 25 意欲アップ,スイッチON
- 4章 ワーキングメモリーを育てる学習課題&学び術 【課題遂行の力】
- 26 記憶のいろいろ
- 27 文字シャッフル(語音整列)
- 28 コップの記憶
- 29 動きのまねっこ(模倣)
- 30 記憶ゲーム(2つ前しりとり)
- 31 暗算
- 32 短期記憶
- 33 手順記憶
- 34 暗記アプリを使って
- 5章 聞く力を育てる学習課題&学び術 【学び・考える力】
- 35 聞く力を育てる
- 36 スリーヒント
- 37 伝言ゲーム
- 38 お話のどこが変?
- 39 条件に合うものは…?
- 40 質問の仕方
- 41 メモを取りながら話を聞こう
- 42 見る力
- 6章 書く力を育てる学習課題&学び術 【学び・考える力】
- 43 書く力を育てる
- 44 漢字学習の基本
- 45 筆順アニメーション(漢字筆順)
- 46 なぞなぞ漢字
- 47 形から漢字を学ぶ
- 48 文づくり
- 49 助詞埋め
- 50 内容を豊かにすることば
- 51 ことばつなぎ
- 52 文と文をつなぐことば
- 53 写真日記
- 54 絵と文のマッチング(状況の読み取り)
- 55 文の種類(文体)
- 56 視点の変化
- 57 4コマまんが
- 58 読書感想文
- 59 タイトル,リード文,本文,構成力
- 60 文の構成を考えて
- 61 うっとりノート
- 7章 読む力を育てる学習課題&学び術 【学び・考える力】
- 62 音読の工夫
- 63 なぞなぞ/関係類推
- 64 文脈を読む
- 65 段落,文章の構成
- 66 物語の読み方
- 67 気持ちを読み取る
- 68 お話の登場人物になってみよう
- 69 説明文の読み方
- 70 事実と考えを読み分ける
- 8章 思考を育てる学習課題&学び術 【学び・考える力】
- 71 間違いやすい問題の先に見えてくる
- 72 系列を考える(中間項の成立)
- 73 属性(仲間集め)
- 74 筆算,計算の手順
- 75 時刻と時間
- 76 共通点と差異点
- 77 お金はいくら?
- 78 大きな数
- 79 手順(作図)
- 80 数直線(数量の視覚化,目盛りの読み方)
- 81 角度(分度器)
- 82 余りのあるわり算
- 83 四則計算の順序
- 84 1つの式
- 85 工夫して計算してみよう
- 86 割合と単位量
- 87 ふしぎな箱
- 88 小数のわり算
- 89 算数の文章題
- 90 大事なポイントを整理する力
- 91 ワークシートの作り方
- 92 ていねいな話し方(敬語)
- 93 柔軟な思考を育てる
- 94 意見が対立したときは…
- 95 話し合いエクササイズ
- 9章 自我を育てる学習課題&学び術 【自我の成長】
- 96 後ろを振り返ろう
- 97 今日の学習は…?
- 98 こんなときどうする?
- 99 モデルは誰だ?
- 100 自己紹介カード
- 101 がんばりカード
- 102 心のブレーキノート
- 103 ぼくの通信簿
- 104 タイムライン(自己モニター)
- 105 心のものさし
- 106 心が折れそうなとき
- 107 起承転結で振り返ろう
- 108 怒りそうになったら,どうする?
- 109 サクセススイッチを見つけよう
- 110 サクセスストーリーを作ろう
- 111 自分史づくり
- 112 心の杖・レジリエンス
- 113 自己有用感を高める
- 114 聞く耳を育てる
- 115 自分を俯瞰する力を育てる
- 116 心の理論(他者視点)
- 117 振り返りの原則
- 118 気持ちと行動の修正
- 119 トラブルを学びへ
- 10章 発達の筋道と学び術
- 120 発達のプロセス・メカニズムと学び術
- 121 3〜4歳の考える力と自我
- 122 4歳半の考える力と自我
- 123 6歳の考える力と自我
- 124 1・2年生の考える力と自我
- 125 3・4年生の考える力と自我
- 126 5・6年生の考える力と自我
- 127 中学生の考える力と自我
- 128 自我の発達
- 129 そっ啄同時
- *発達の質的段階
- 11章 学び術のツボとコツ
- 130 子どものことは子どもに聞こう
- 131 人が人を育てる
- 132 1と1で何? 11の謎
- 133 あたかも自分で
- 134 心と支えの距離感(□を離すな)
- 135 〜君ものさし(3つの目と時間)
- 136 ぼくの熱血
- 137〜146 学び術,10の極意
- 137 極意@学習は,情報の正確なキャッチから始まる
- 138 極意A文脈の流れや手順の整理をする
- 139 極意B視覚化する。五感を使う
- 140 極意C手がかり(ヒント)を探し,ゴールをイメージする
- 141 極意D視点をいろいろ切り換える
- 142 極意Eいっぱいのモデルを見つける。友だちの力を借りる
- 143 極意F学びの拠り所を見つけ,スモールステップしていく
- 144 極意G振り返って考える。自分の間違いを見つける
- 145 極意H自分に合った学び術を見つける
- 146 極意I今の自分を乗り越えるわくわくを楽しむ
- 147 学びを支えるサポート術
- 148 チームでサポート術と学び術のリレー
- 149 「できにくさ」と向き合う力
- 150 私の勉強,どこからくるの?
- ※本文中の子どもの名前はすべて仮名です。
はじめに
発達障害のある子たちの未来を切り拓いていくためには,今を,どうやって歩んでいけばいいのだろう?
発達障害のある子の「育ち」を支える「術」は,何かないだろうか?
発達障害のある子たちは,4つの「できにくさ」を抱え,「やりたいんだけどできない」状態になってしまうことに苦しんでいる。
落ち着いて先生の話が聞けずに,教室を飛び出してしまう子。
勉強の内容を「本当にわかる」という体験ができずに,自分自身を傷つけるまで苦しんでいる子。
授業で思うように活動できない自分に苛立ち,感情をストレートに友だちにぶつけ,授業の邪魔をしてしまう子。
周りの様子や他の人の気持ちを考えられず,自分の行動を振り返ることも苦手で,「自分がルール」だと開き直り,自分勝手な言動をしてしまう子。
○指示理解・課題遂行…指示を理解しながら行動し,課題を最後までやり遂げる。
○学び・考える力…意図,概念,論理を文脈に沿って理解,思考しながら学習を進める。
○気持ちの調整,自己モニター,行動調整の力…自分を見つめ,周りの状況に合わせて気持ちや行動を調整する。
○自我の成長,私の中の私たち…自分らしさをもちながら,みんなと学び合い,協力し合い,活動する。
4つの「できにくさ」のために,「めんどうくさい」「どうせできないもん」と,本当の自分の力を見失ってしまうこともある。この子らの「できにくさ」を「つまずき」にしたくない。
まして,心の傷になんて……,したくない。
発達障害のある子たちが,苦しんでいる「できにくさ」を乗り越えていく力(育ちの力)を見つけていく。発達障害のある子たちの未来を切り拓く力(育ちの力)を育てていく取り組みを考えよう。
そのためには,4つの成長のプロセスを大事にする。
@理解→Aサポート・活動→B学び→C自我の成長
@子どもたちの「やりたくてもできない」気持ちやその背景にある「できにくさ」に寄り添い,「理解」していく。
A「理解」を「サポート・活動」につなげ,子どもたちの「育ちの力」を引き出していく。(前著『発達障害のある子の「育ちの力」を引き出す150のサポート術』明治図書)
そして,
B「サポート・活動」によって,子どもたちが何を「学び」,どんな力を育てていくことが,未来につながっていくのか?
C子どもたちが自分の力で活動できるようになるためには,「自我」(自分をコントロールする心の中の自分,私の中の私たち)をどうやって育てていけばよいのか?
この子らの未来を切り拓く力を育てる道筋を解き明かしていく。
発達障害のある子の「できにくさ」は,確かに手ごわい。
「できにくさ」のため,「育ち」が阻害されてしまうことさえある。「育ちの力」を引き出すことも,パワーアップすることも,簡単なことではない。その難しさに対応できるだけの「術」(方策・スキル)が求められてくる。
私は,日々,教室の場で,通級指導教室で,巡回相談で,子どもたちができなくて悩み,間違いやすい課題と付き合ってきた。教室での学習活動の中に,発達障害のある子どもたちの成長につながるヒントや活路があるように思えてきた。子どもたちが間違いやすい課題から,子どもたちの「できにくさ」が見えてきた。「できにくさ」と立ち向かう「術」が見えてきた。
子どもたちは,「サポート術」と「学び術」で変わってくる。
「サポート術」が「育ちの力」を引き出し,「学び術」を身に付けることで,未来を切り拓いていく道筋が見えてくる。
手順に沿って課題を整理する力(プランニング)や衝動的な行動をコントロールする力が伸び,教室での活動がスムーズにできるようになってきた子。
学習内容を積み上げ・理解できることから,「考える力」が伸び,気持ちが落ち着いてきた子。
「聞く力」「書く力」「学習内容をまとめる力」が伸び,教室での学習に参加できるようになってきた子。
他者の気持ちを考える力(心の理論),自分の行動を振り返る力(自己モニター),行動を調整する力が伸び,みんなと一緒に活動できることが増え,時にはグループのリーダーができるまでになってきた子。
「課題遂行の力」「学び・考える力」「自我の力」が育ってくることで行動が変わってきた子どもたち。行動が変わってくると,自分らしい「一生懸命」と「ぼくって,いい感じ!」が増えてくる。
「学び」と「自我」の成長が,一人一人のサクセスストーリーを作っていく。「サポート術」と「学び術」の両輪で,子どもたちの「育ちの力」が成長していく。
子どもたちと歩み,子どもたちが教えてくれた成長のプロセスを,本書では「150の学び術」としてまとめた。
「学び術」とは,自分らしく充実して生きていくために必要な力を学習していく方法。
大きな3つの柱に沿って,11の力を学び,育てていく。
@課題遂行の力…衝動性のコントロール,プランニング,ワーキングメモリー
A学び・考える力…聞く力,書く力,読む力,思考する力
B自我の成長…コミュニケーション,自己モニター,心の理論,感情と行動の調整
それぞれの「学び」については,「何を」「何のために」「どのように」学んでいけばいいのかを考えながら進めていく。
◇何を(課題内容)→どんな課題を学んでいくと,子どもたちの「育ちの力」が伸びていくのか?
○何のために(活動の意味)→それぞれの学びは,「育ちの力」パワーアップのために,どんな意味があるのか?
□どのように(学び方のコツ)→「できにくさ」を抱えている子の学びでは,どんな工夫をすればいいのか?
本書にまとめた「学び術」を,日々の教室の場で,個別の学習の場(家庭,通級指導教室など)で実践する。時には,課題を重点的に学習し,日常の学習と生活をよりよくしていく。
「学び術」を最初に会得するのは,子どもの成長を願う大人たち。しかしやがて,子どもたち自身が「学び術」を会得できるようになったとき,それは,大きな力となっていく。
人生の分かれ道に立っている子どもたち。
発達障害のある子どもたちは,「サポート術」によって歩き始め,「学び術」によって未来を切り拓いていく。
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