- はじめに
- 1 社会科と「個別最適な学び」
- 1 「個別最適な学び」とは
- @「個別最適な学び」と「協働的な学び」は手段
- A社会科の目標
- B主体的・対話的で深い学びの視点
- C「個別最適な学び」
- D「協働的な学び」
- E履修主義と修得主義
- F学習者理解
- 2 「個別最適な学び」の歴史的背景
- @「個別」概念の歴史的展開
- A個別化教育導入の理由
- B「個別最適な学び」はメッセージ
- 2 「個別最適な学び」を実現する!14の勘所
- 1 発想の転換
- @子どもは学ぶ存在
- A「子ども観」の転換
- B教師は伴走者
- C一斉授業がすべてではない
- D個別学習は「発想」
- E子どもの裁量権
- F「当たり前」を疑う
- G二項対立から抜け出す
- H学びほぐし
- 2 「個」をさぐること
- @子ども理解
- A子どもをさぐるための教師の記録
- B子どもの個性があらわれる子どもの記録
- C教師は子どもの学びのパートナー
- D書くことは人を確かにする
- E「個」を位置づけ,願い,待つ
- 3 単元の授業デザイン
- @「一斉授業」と「個別学習」で単元をデザインする
- A「学習の個性化」を意識する
- B「一斉」と「個別」の見極め
- C有意味学習か機械的学習か
- D「個別学習」での教師の役割
- E「個別」と「協働」の学習組織
- 4 「問い」の吟味
- @「問い」を意識する
- A「社会的な見方・考え方」を働かせる
- B「問い」を子どものものにする
- C知識を明示的に示す
- D子どもも発問者にする
- E仮説を立てる
- F転移する知識
- G批判的思考力
- 5 学習の複線化
- @複線型の学習とは
- A「選択」を取り入れた学習
- B「学習の複線化」を成功させるポイント
- C教科書を活用した「学習の複線化」
- 6 学習形態の工夫
- @一斉授業を見直す
- A個人差に応じた学習
- B様々な学習モデルの実践
- C教材と個別最適な学びを意識する(教材の力)
- D小手先の対応で終わらないために
- E教科としての「学び方」
- F割合を考える
- 7 学びのユニバーサルデザイン(UDL)
- @UDLとは
- AUDL三原則
- BUDLの理解
- CUDLを支える足場的支援
- Dフィードバック
- E教師の役割
- F授業UDとUDL
- G個別最適な学びとUDL
- 8 学びの自己調整
- @自己教育力
- A自己学習力
- B自己調整学習
- C自律的に学習を進めるようになるためのポイント
- D子どもの学び方を考える
- E内発的動機づけ
- F興味の4段階発達モデル
- G知的好奇心の喚起
- H社会的相互交渉への動機づけ
- 9 学習評価
- @いつでも,どこでも,だれでも
- A見えにくいものを「見取る」
- B評価規準作成のポイント
- C自己評価
- 10 非認知能力
- @非認知能力と社会情動的スキル
- A非認知能力を育むために
- Bふり返りの習慣化
- Cふり返りの上達方法
- 11 ICT端末の活用 1人1台端末
- @1人1台端末時代
- A学習支援アプリ
- B文字言語で共有する
- C一人ひとりを大切にする
- D検索と学習材の収集
- E時間と空間を超える
- 12 学習材の工夫
- @学習パッケージ
- A学習材としての資料
- Bねらいがあってこその「材」
- 13 学習環境
- @オープンエデュケーション
- A学習環境はよりよい小宇宙
- B個別化・個性化を支える条件
- C空間の持つ教育力
- 14 学級の支持的・自治的風土
- @ルールとリレーション
- A学級集団育成の手順
- B教師のリーダーシップ
- C子ども同士をつなげる
- D協働的問題解決能力
- おわりに
はじめに
そもそも「個別最適な学びとは何か?」という問いからのスタートでした。答申や指導要領,関係書籍を読み漁り,自分なりに解釈し,実践を繰り返しました。実践しては悩み,また考え実践する。それの繰り返しでした。
そういう意味で,本書は「挑戦の書」と言っても過言ではありません。実践したことをまとめていくと,膨大な量となりました。はっきりと分けることは難しいですが,便宜上〈理論編〉と〈実践編〉の2冊に分けました。本書はその〈理論編〉となります。〈理論編〉とはいえ,多くは実践を通して論じ,できるだけ実践紹介も含めて説明します。
第1章では,「個別最適な学び」の全体像を概観します。「個別最適な学び」が目指しているところ,社会科との関わり,協働的な学びとの関わりなどについて説明します。また,「個別最適な学び」がなぜ今言われるようになったのか,個別概念を巡る歴史について説明します。個別の概念は今にはじまったわけではありません。ずっと昔から脈々と受け継がれてきているものであることが見える内容にしています。
第2章では,「個別最適な学び」を考える上での14のポイントを挙げました。これだけで十分とは言えませんが,私が現時点で考える内容を網羅しました。実際に私が実践したことや理論立てたことだけでなく,各参考資料の中から紹介しているものもあります。「個別最適な学び」の理論や実践は,過去から積み上げられてきた遺産であることも確認していただけます。できるだけ多くの書籍にあたり,その中から「原資料」として記している部分もあります。
また,本章はどの項からも読んでいただけるように構成しています。読者の皆様が気になる項からお読みください。それぞれの項が関連し合い,密接に結びついている内容もあります。行きつ戻りつ,内容のつながりや差異を楽しんでいただけると幸いです。
本書の執筆にあたって,本文中に紹介した文献並びに,数多くの資料を参考にさせていただきました。多くの知見をいただけたことに対する感謝の意を表します。参考にした資料の中から,200近くの資料を本書の中で紹介しています。気になる箇所,さらに深く追究したい箇所があれば,各項末の〈参考資料〉をご覧になり,原典にあたってください。きっと本書がそのナビゲート役になるはずです。
「『個別最適な学び』ってどうするの?」
「子どもたちを個別に学習させればいいの?」
このような声が多く聞こえ,方法論が先に立つような感じがします。しかし,大切なのは「誰一人取り残さず全員の学習権を保障すること」「自立した学習者を育てる」という理念です。理念を実現するための方法は無数にあります。どのようにアプローチしていくのかを模索し続けることが重要です。ですので,きまった型や「こうすればうまくいく!」というようなものはありません。今まで積み上げられてきた理論や実践に敬意をもち,自ら実践を繰り返すしかありません。自分自身が大切にしてきたことを再確認し,「観」や「技」をアップデートしていくことが重要です。本書がそのきっかけになれば,これ以上の喜びはありません。
事例は社会科を中心に書いていますが,その他の教科教育にも適用しながら考えていただければ幸いです。
本書が,社会科を通した教科教育における「個別最適な学び」を考える上での「はじめの一歩」となることを願います。
/宗實 直樹
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