- はじめに
- 本書の使い方
- 1章 道徳科 授業づくりのポイント
- 道徳科の授業づくりの基本
- 道徳科における学びの方法知を意識させる授業づくり
- 多様な指導方法による授業づくり
- 道徳科における生徒の学習状況等に関する評価のポイント
- 道徳科における学習指導案と板書のポイント
- 2章 中学3年 35時間のすべて
- 廃品回収で学んだこと
- (1)自主,自律,自由と責任
- ある日の午後から
- (1)自主,自律,自由と責任
- 独りを慎む
- (2)節度,節制
- スマホに夢中!
- (2)節度,節制
- ぼくにもこんな「よいところ」がある
- (3)向上心,個性の伸長
- 片足のアルペンスキーヤー・三澤拓
- (4)希望と勇気,克己と強い意志
- 銀メダルから得たもの
- (4)希望と勇気,克己と強い意志
- 湖の伝説
- (5)真理の探究,創造
- 背番号10
- (6)思いやり,感謝
- 月明かりで見送った夜汽車
- (6)思いやり,感謝
- 言葉おしみ
- (7)礼儀
- ゴリラのまねをした彼女を好きになった
- (8)友情,信頼
- 違うんだよ,健司
- (8)友情,信頼
- 合格通知
- (8)友情,信頼
- 恩讐の彼方に
- (9)相互理解,寛容
- 二通の手紙
- (10)遵法精神,公徳心
- 闇の中の炎
- (10)遵法精神,公徳心
- 卒業文集最後の二行
- (11)公正,公平,社会正義
- 伝えたいことがある
- (11)公正,公平,社会正義
- ぼくの物語 あなたの物語
- (11)公正,公平,社会正義
- 鳩が飛び立つ日〜石井筆子〜
- (12)社会参画,公共の精神
- あるレジ打ちの女性
- (13)勤労
- 一冊のノート
- (14)家族愛,家庭生活の充実
- 明かりの下の燭台
- (15)よりよい学校生活,集団生活の充実
- 島唄の心を伝えたい
- (16)郷土の伝統と文化の尊重,郷土を愛する態度
- 父は能楽師
- (17)我が国の伝統と文化の尊重,国を愛する態度
- 海と空−樫野の人々−
- (18)国際理解,国際貢献
- ドナー
- (19)生命の尊さ
- くちびるに歌をもて
- (19)生命の尊さ
- 命の選択
- (19)生命の尊さ
- サルも人も愛した写真家
- (20)自然愛護
- ほっちゃれ
- (21)感動,畏敬の念
- 二人の弟子
- (22)よりよく生きる喜び
- カーテンの向こう
- (22)よりよく生きる喜び
- 風に立つライオン
- (22)よりよく生きる喜び
- 3章 中学3年 通知表の記入文例集
- 1学期の記入文例 Aの視点にかかわる文例
- 1学期の記入文例 Bの視点にかかわる文例
- 1学期の記入文例 Cの視点にかかわる文例
- 1学期の記入文例 Dの視点にかかわる文例
- 2学期の記入文例 Aの視点にかかわる文例
- 2学期の記入文例 Bの視点にかかわる文例
- 2学期の記入文例 Cの視点にかかわる文例
- 2学期の記入文例 Dの視点にかかわる文例
- 3学期の記入文例 Aの視点にかかわる文例
- 3学期の記入文例 Bの視点にかかわる文例
- 3学期の記入文例 Cの視点にかかわる文例
- 3学期の記入文例 Dの視点にかかわる文例
はじめに
いよいよ,中学校においても教科書を使用した「特別の教科 道徳」(以下,道徳科)の全面実施による取り組みが展開されます。今後求められている道徳科の授業や評価に対して不安やとまどい・悩みを抱えておられる学校や先生方もおられるのではないでしょうか。本書では,そうした学校や先生方の一助になればと考え,年間35時間の道徳科の授業で使用される教科書の教材をもとに,具体的な学習指導と評価の考え方を学習指導過程・板書及び評価記述の文例と共に掲載させていただきました。多くの方々にご活用いただけることを願っています。
さてここでは,道徳科において求められている「考え,議論する道徳」について,あらためてその趣旨を確認させていただきたいと思います。これまでも,「考える道徳」の授業に取り組まれてきた先生方は多いと思います。逆に「考えない道徳」の授業をイメージすることの方が難しいはずです。また,通常の道徳授業では,生徒による意見等の交流が行われることも一般的なことではないでしょうか。道徳科において,ことさらに「考え,議論する道徳」の授業が求められている理由は,いったいどこにあるのでしょうか。道徳科の授業づくりや評価の在り方を考えるうえでも,非常に重要な部分ですので確認しておきましょう。
「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」(平成28年12月21日)では,「考え,議論する道徳」について,次のように説明しています。
多様な価値観の,時には対立がある場合を含めて,誠実にそれらの価値に向き合い,道徳としての問題を考え続ける姿勢こそ道徳教育で養うべき基本的資質であるという認識に立ち,発達の段階に応じ,答えが一つではない道徳的な課題を一人一人の児童生徒が自分自身の問題と捉え,向き合う
という「考え,議論する道徳」へと転換を図らなければならないとしています。特に「単なる生活経験の話合いや読み物の登場人物の心情の読み取りのみに偏った形式的な指導」からの転換を求めています。これまでの授業において,はたして生徒が,ここでいうところの「自分自身の問題と捉え,向き合う」ことのできるような,いわば「自分事として」考えを深めることのできる授業になっていたかどうかについては,必ずしも十分なものとはいえないのではないでしょうか。また,話し合いの中で「議論する道徳」にまったく取り組んでこなかったということもないでしょうが,それとて,お互いの考えた内容が単に告げられる程度であって,「多様な価値観の,時には対立がある」ような場面設定での意見のからみ合いといったものなどはない,ある意味一面的で深みのない授業で終わってしまっていることはなかったでしょうか。
授業の中で「議論になる」ということは,前提としてその場に,生徒個々にとって自分とは異なる感じ方・考え方や価値観が存在しているということです。そこでは,必然的に他の人はなぜそのように考えるのだろうという疑問をもつこととなります。すなわち,生徒一人ひとりに,「疑問」という「問い」が立つということです。授業における発問は,基本的には指導者から発せられるものですが,ここには自らの「疑問」という主体的な「問い」が,一人ひとりの生徒自身に立っているということです。そして,その「疑問」を解決しようと,自ら対話を求めようとしているということです。まさに,ここには今日求められている「主体的・対話的で深い学び」へとつながる可能性が見出されるのです。こうした「考え,議論する道徳」が提起している授業の具体像を正しく捉え,これまでの授業と比較検討することから,よりよい授業づくりへの取り組みを進めることが大切です。
学習指導要領の「第3 指導計画の作成と内容の取扱い」には,
生徒が多様な感じ方や考え方に接する中で,考えを深め,判断し,表現する力などを育むことができるよう,自分の考えを基に討論したり書いたりするなどの言語活動を充実すること。その際,様々な価値観について多面的・多角的な視点から振り返って考える機会を設けるとともに,生徒が多様な見方や考え方に接しながら,更に新しい見方や考え方を生み出していくことができるよう留意すること(下線:筆者)
と示されています。以上の下線を付した部分は,まさに「考え,議論する道徳」と関連の深い内容です。こうして見てくると,「考え,議論する道徳」は「道徳科」の基本的な学習活動の1つの姿を示しているといえるでしょう。「考え,議論する道徳」は,あくまでも道徳科の特質を正しく踏まえる限りにおいて,今日求められている「主体的・対話的で深い学び」へと道徳科の授業を導くための,1つの方途となるものでもあるのです。
ただし,「議論する」ということを意識するあまり,まず「道徳的諸価値についての理解を基に,自己を見つめ」自問・内省し考えるといった学習活動がおろそかになってはいけません。「議論」の前に,しっかりとした道徳科における「一人学び」・「個人ワーク」が為されてこその「議論」によって,その学びはより深いものへと導かれるのです。また,道徳性の諸様相としては道徳的判断力・心情・実践意欲と態度が考えられており,「考え,議論する道徳」に加えて「豊かに感じ取れる道徳」「実践意欲の高まる道徳」を意識した授業づくりも,これまでと同様に大切にされなければなりません。すなわち,年間35時間の授業をすべて「議論する」ものにしなくてはならないということではないことに留意して取り組みたいものです。
最後になりましたが,本書の執筆にご尽力いただきました先生方に対し,心より御礼申し上げます。本書が,多くの皆様方にご活用いただき,我が国の道徳教育充実に少しでも寄与するものとなることを心より願うところです。
平成31年3月 /柴原 弘志
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