- まえがき
- 1 毎日の数学授業の「板書」を考える
- 1 生徒の思考を整理する板書
- 2 板書の基本的なルール
- 3 板書の具体例に沿って
- 4 板書は教師にとっても大切なもの
- 2 授業を変える「板書」の工夫45
- 正の数・負の数 1年
- 1 既習の計算から順序よく並べて示し,未習の計算の仕方を考えさせる
- 2 数直線を2本並べて,負の数の乗法の仕方を導く
- 文字と式 1年
- 3 マッチ棒の模型を貼り付ける手順を見せ,帰納的に考えさせる
- 4 生徒が考えたことは,生徒に板書を促して整える
- 方程式 1年
- 5 方程式を使わない解き方を考えさせてから,方程式を導入する
- 6 様々な解法が比較できる板書から,方程式のよさを導く
- 7 生徒の板書を生かし,現実事象と数学モデルの橋渡しを行う
- 8 より都合のよい処理方法を,生徒が判断できるように配慮する
- 比例,反比例 1年
- 9 式の形の比較を通して,式の形で比例を定義する
- 10 グラフは式を満たす解を座標とする点の集合だということを印象付ける
- 11 比例定数の違いに伴うグラフの変化を,動的に見せる
- 12 反比例のグラフこそ,たくさんの点の集合で示す
- 平面図形 1年
- 13 生徒の思考の過程を板書に生かす
- 14 問題解決に向けた作図の過程を見せる
- 空間図形 1年
- 15 生徒の個人追究を黒板に再現し,関連付けを図る
- 16 三次元での追究結果を,二次元に表現させる
- 17 「できることの説明」を取り上げ,意味付けして示す
- 18 「できないことの説明」を取り上げ,意味付けして示す
- 資料の散らばりと代表値 1年
- 19 設定を変えたときのヒストグラムを,臨機応変に投影する
- 20 ヒストグラムや生徒の記述を投影しながら,話し合いの充実を図る
- 21 別の例や確認の問題を取り入れながら,知識の定着を図る
- 式の計算 2年
- 22 等積変形を具体的に見せて,求積公式の意味を実感させる
- 連立方程式 2年
- 23 1つの問題で複数の解き方を板書し,解き方の意味付けを加筆して示す
- 24 解が1つに決まることを,直線のグラフの交点で示す
- 一次関数 2年
- 25 グラフを連続的に見せて,問題解決の道具としてのグラフを印象付ける
- 26 個人追究の結果を,画用紙にかかせて黒板で比較する
- 27 動点の問題は動点で示し,止めて考えさせる
- 28 課題の変化に対応して,プロジェクターで投影する映像を切り替える
- 平行と合同 2年
- 29 系統性がわかるように,図形の基本性質を示す
- 30 視覚的な印象から,基本性質を使って一般化を図る
- 31 作図ツールを使いながら,図形を動的に見せる
- 三角形と四角形 2年
- 32 図形の条件のみを示し,サンプルの図形は示さない
- 確率 2年
- 33 班ごとの実験結果を統合し,学級全体で共有する
- 多項式 3年
- 34 正解を導いてから,生徒の追究を板書に生かし,よりよい方法を探る
- 平方根 3年
- 35 正方形の1辺の長さを数直線上に移し,課題を据える
- 36 正しい処理方法の理解を図るために,うまくいかない方法を示す
- 二次方程式 3年
- 37 平方完成による解法と,解の公式による解法を対比して示す
- 38 半具体物を使って,事象から数式への橋渡しを行う(規則性の問題)
- 関数y=ax2 3年
- 39 動画を使って興味・関心を高め,数学モデルを投影して討論に生かす
- 相似な図形 3年
- 40 図形を分けて示し,相似な三角形における対応する辺を見せる
- 41 条件を保存して図形を変形させながら示し,変わらない性質の発見を促す
- 三平方の定理 3年
- 42 特殊から演繹して式の変化の様子を示し,三平方の定理を導く
- 円 3年
- 43 直径に対する円周角が常に直角になることを,分度器で示す
- 44 特殊から演繹して証明する過程を,証明の見直しと修正によって示す
- 標本調査 3年
- 45 標本調査に至る発想の経緯と,実際の調査を板書に生かす
まえがき
よりよい授業,魅力あふれる授業のあり方を求めて,授業研究会が行われます。目標は達成されたのか,指導のあり方はどうだったのかなど,生徒の具体的な姿を通して様々な観点から語られるため,教師にとって大変重要で不可欠な営みです。しかし,授業研究会で板書について話題になることはあまりないように思います。教室には必ず黒板(ホワイトボードも含む)があり,教師にとって非常に身近な存在でありながら,この存在があまりにも当たり前であるために,見過ごされて話題として取り上げられないのかもしれません。
一方,生徒の立場から考えると,「板書」は授業と生徒の思考をつなげたり,ノートなどへの記録の媒体となったりするもので,教師以上に重要なものだと感じているのではないでしょうか。1時間の流れを想定して,見通しをもって計画的に仕上げられた板書を見ると,授業を終えた後に1時間の授業を振り返ることができます。また,学習内容の要点を明確にするために使うことだけでなく,自分で考えたことと友だちが考えたことの比較の場を提供することもあります。したがって,生徒の思考の流れに沿って教師が授業を構想し,板書を工夫して仕上げることが,結局は生徒の学力向上に大きな意味をもつのだと思います。
板書の工夫というと,色チョークの使い方,文字の大きさへの配慮など,要するに物理的な工夫も含まれますが,これがすべてではありません。むしろ大切にしたいことは,板書の背景にある授業の工夫であるはずです。私は,自分の授業記録を兼ねて,板書を写真に収めることが多々ありますが,これは,板書を振り返りながら授業そのものを振り返り,事後の授業改善に生かすためです。本書で紹介する45事例は,これらの板書の写真から選んだものが中心で,具体的な写真を通して,板書の背景にある授業の工夫を紹介するように心がけました。
さらに,私は授業でコンピュータやグラフ関数電卓を使うことが多く,その都度プロジェクターも使うので,いくつかの事例ではプロジェクターを使って板書に生かした様子を紹介しています。これは,例えば,変化の割合を変えたときのグラフの変わり方を示すことや,生徒の説明に合わせて自由自在に図形を変形することなどを可能にするからです。黒板に直接かかれたグラフや図形は動きません。動かす必要がない場合はよいのですが,動かしながら考えて学習を深めるような授業を試みるとしたら,動かない板書では限界があるでしょう。機材を準備することが大変だと感じられるかもしれませんが,最近の機材はコンパクトで性能もよいので,コンピュータやプロジェクターなどの機材を持ち歩いても決して大変だとは思いません。むしろ,重いグラフ黒板を運ぶことの方が,よほど大変ではないでしょうか。ちょっとした気持ちさえあれば,板書は命を得て,生徒への一層の学習効果が期待できるようになるものと思います。
板書は授業の証しであり,教師が生徒とともに仕上げる作品だと思います。板書を通して数学の授業のあり方を振り返ったり,一層魅力ある授業を構想したりするために,本書が少しでもお役に立つことができれば幸いです。
数学の教師としてどうあるべきか,大学在学中よりゼミでお世話になっている東京学芸大学名誉教授杉山吉茂先生より,一言では語り尽くせないご指導をいただきながら現在に至ります。言うまでもなく,本書の執筆に際してもご助言を賜りました。心より感謝申し上げます。また,本書の企画から校正,出版に至るまで,明治図書教育書編集部の矢口郁雄氏には大変お世話になりました。私自身がよい勉強の機会を与えていただいたことに感謝しております。ここに厚く御礼申し上げます。
平成24年3月 /新井 仁
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- 明治図書
- 板書のポイントだけでなく、避けたい板書の仕方まで書いてあったので、とても参考になりました。2016/3/920代・中学生
- 板書に見る授業の工夫というテーマの奥に、問題解決的な授業づくりの具体例を示していると言える。誠に示唆に富んだ良書である。2015/10/1930代・中学校教員
- 人の板書を見る機会があまりなかったので勉強になりました。2015/9/23教員