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今回の学習指導要領の改訂では、〈実生活に生きて働く能力〉が強く求められています。小学校では日常生活において、中学校ではもう少し広く考えた社会生活において使用される実際の表現場面に対応した能力が必要となります。このような実際の生活場面では、例えば、今取り上げている話すこと・聞くことの言語活動では、中核となる表現様式に対応する能力が不可欠となります。説明、報告、紹介、案内、意見、主張などの独話の様式や、協議、会議、ブレーンストーミング、討論、ディベート、パネルディスカッションなどの対話の様式などの言語活動に対応する能力がなければいけません。このような能力が、「話すこと・聞くことの言語表現様式に対応する能力」です。
今お話ししましたように、生活場面で必要な様々な表現様式に対応する能力は、学習場面においても、生活場面においても、具体的な言語活動の流れに対応して行う能力がないと具体化することはできません。OECDのPISAでも取り上げられた「情報の取り出し−解釈−内容の熟考・評価−形式の熟考・評価」などは、このような言語行為のプロセスに対応する能力」と同じものと考えてよいものです。
話すこと・聞くことの場合は、「話す」「聞く」「話し合う」ことそれぞれにプロセスが考えられます。例えば、「話す」言語活動では、話題設定−取材−構成−叙述などを通してスピーチ原稿を準備し、次に、音声化の練習を行います。ここで重要なのが、シミュレーションの活動で、実際の場面を考慮して試行することによって、具体的なイメージをふくらませることによって本番の発表会がとてもスムーズに進むようになります。後は、発表会を行い、評価する活動となります。
内容は、4つの指導事項と言語活動例によって構成しています。今回の改訂では、現行の話す、聞く、話し合う能力に加え、話題設定及び取材の能力を新設しています。これは、児童・生徒自ら話題設定をし、必要な取材を経て、話す、聞く、話し合う言語活動を行っていく能力を重視したことによります。話すことは、話す内容を構成したり、スピーチ原稿をまとめるとともに、音声化する指導事項の二つによって構成しています。なお、話し合うことは勿論、話すことも聞くことも、話すことと聞くこととを同時的に行えるように相互作用的な言語活動を行うことを大切にしていることも大きな改善点です。先の「話すこと・聞くことの言語表現様式に対応する能力」は、多様な言語活動例とを取り上げることによって、また「話すこと・聞くことの言語行為のプロセスに対応する能力」は、話題設定−取材−話すこと、聞くこと、話し合うことへとつながる学習プロセスにおいて具体化しています。
聞く力が低下したかどうかは、学力調査としては明確な報告はありませんね。教育課程実施状況調査では、むしろ高くなったという傾向も見られます。ただ、聞いた後、自分の目的に合わせて活用したり、自分の考えとしてまとめ上げていくことが苦手だったりすることはあります。「聞く力」は、自らの聞く目的をもっと明確にさせること、話している内容や説明や報告などの様式に合わせてノートやメモの取り方を工夫することなどを重視しなければならないでしょう。意見を聞くときなど、自分の考えを明確にもって聞かないと丸呑みするように聞いてしまうことにもなります。改訂では、話すことと聞くこととを一体化して聞く能力が高まるようにもしていますので、これらに注意してほしいと思います。
お伝えしたいことが二つあります。国語の能力は、話すこと・聞くこと、書くこと、読むことなどを中心に同じような活動を繰り返しながら学年が進行していきます。そこで、各学年で定着すべき能力を明確にして学年間の相違を明確にすることを大切にしてほしいということが第一です。改訂で重視した系統的な配置を活用して各学校で具体化してほしいと思います。第二は、授業改善という点から、児童・生徒が自分が学んでいけるような学習課題の設定や学習計画の見通しをもてるようにすること、実際に進めるときに必要な話し合う能力などを高めることなどを大切にしてほしいということです。本書では、司会力や質問力などの対話力を重視した実践を収録しているので、是非活用して下さい。