著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
好きこそものの上手なれ!な授業づくり
元大阪教育大学教授大沼 直樹
2014/9/25 掲載
今回は大沼直樹先生に、新刊『障害のある子をその気にさせて伸ばす!インタレスト・メソッド』について伺いました。

大沼 直樹おおぬま なおき

元大阪教育大学教授・大阪教育大学附属特別支援学校校長
沖縄県立那覇特別支援学校評議員 ほか
<著書>
『ブレないための六原則』
『実践に備えたい特別支援教育の基礎情報45』 ほか

―本書が取り上げる「インタレスト・メソッド」とはどんなメソッドなのですか。

 インタレスト・メソッドとは、「子どもの興味、好きなこと、得意なこと」をトコトン大切にし、その気にさせ、ヤル気を起こさせるための教育方法です。子どもは授業が好きで楽しい雰囲気に包まれると、どんなに辛くても課題を乗り越えようと頑張ります。
 インタレスト・メソッドの代表的な例として、授業の目的とは別に、「はじめ・なか・おわり」という授業の展開過程における方法的興味がありますが、本書では主にコミュニケーションの困難な子どもたちの興味に着目し、興味ある教材を提示し、目標としての「生きる力」をどのようにして高めていくかに焦点を当てます。

―「インタレスト・メソッド」を先生がご執筆になられたきっかけのようなものがありましたらどうぞ教えてください。

 教育はコミュニケーションに本質があるといわれていますが、学校現場には、そのキッカケすら困難な子どもたちがたくさんいます。
 このように、興味の対象も少なく、コミュニケーションの困難な子どもたちを動かすにはどうしたらいいのか…このことが、インタレスト・メソッドの開発への大きな動機となりました。
 まずは、何とかこちらを向いてもらいたい…そして、少しでもコミュニケーションが可能となり、「生きる力・幸福・自己実現」という大きな目標に少しでも近づけたらいいなと切に願いました。

―教師はどんなことを大切にして子どもとかかわるのがよいとお考えでしょうか。

 以下5点を大切な視点として考えています。

  1. 子どもたちにとって安心できる存在となるよう努力。
  2. 学校のどこかに、子どもが安心できる居場所を確保。
  3. 可能な限り、複数の人たちで適切な実態把握。
  4. 指導・支援を受容と制御の弁証法として把握。どちらに重心を置いてかかわるかが問題。強制も放任も指導とはいえません。
  5. 脳機能障害は現在の医学では治療困難。無限の可能性を信じつつも、脳機能障害に制限されながら健気に生きている子どもの身になって、指導が拷問にならないよう配慮。

―先生が、長年、重い障害のある子とかかわられてきて、教師の仕事のすばらしさ・楽しさを感じられたのはどんな時でしょうか。

 構音障害もなく、きれいに発音して歌えるのに、10年間も一緒にかかわってきた大好きな祖母を「おばあちゃん」と呼んだことがないというAちゃん。いつか「おばあちゃん」と呼んでもらいたいという一心で、私は散歩の途中に「おばあちゃん」という単語を会話の中に入れて何度も語りかけました。
 修了式の日、教室では1週間ぶりに祖母が東京からお迎えに来ていました。道草をしながら時間を意図的に引き延ばし、祖母の待つ教室に向かいました。足早に教室に入った瞬間、初めて「おばあちゃん」と叫んだのです。その時の光景を今なお鮮明に覚えています。
 そんな風に子どもが何かできるようになった時には嬉しくなります。

―最後に、支援を必要としている子どもたちの指導に尽力されている全国の先生方にメッセージをお願いします。

 第一に、この子はダメだと思い込むよりも、どの子もみんなきっと善くなるというピグマリオン精神でかかわった方が、結果として子どもは善い方向に伸びていくことを実感しました。
第二に、いろいろな子どもの実態を理解するためにも、教師自身、たくさんの引き出しを持っていたいものです。そのためには、普段から、人生には無駄なものは何一つなく、数多く生きることが大切かと思います。
 最後に、障害のある子どもの「逃げ場」をいつも配慮してあげられるような、大らかで楽天的な教師がいてもいいと思う今日この頃です。

(構成:佐藤)

コメントの受付は終了しました。