古文や漢文などに代表される古典の学習は、これまでは文法的な知識の暗記中心の学習という印象が強かったのではないでしょうか。例えば、平成17年度に国立教育政策研究所が実施した高等学校の教育課程実施状況調査では、古文・漢文の学習が好きかどうかという質問について、生徒の7割以上が否定的な回答をしている状況も見られます。
「伝統的な言語文化に関する事項」は、平成20年の改訂で、学習指導要領に新たに位置付けられた内容です。その趣旨は、生涯にわたって伝統的な言語文化に親しむ態度を育てるところにあります。これを踏まえ、子供たちが主体的に学ぶことのできる学習指導を、小学校から行っていくことが一層重要だと考え、本書を刊行しました。
これからのグローバル化社会を生きる子供たちにとって、生涯にわたって我が国の伝統的な言語文化に親しむことは、ますます大切なものとなります。自分たちの国や地域に継承されてきた言語文化を大切にすることによって、お互いの国や地域に伝わる言語文化を尊重し合うことにもつながっていくからです。
また、子供たちの古典に対する意識の現状を踏まえると、「伝統的な言語文化」の授業こそ、課題の解決に向けた主体的・協働的な学びが一層重要になります。
こうした観点から、主体的な思考・判断を子供自身が発揮できるような授業開発、教材開発が大切になります。
本書の事例は、奈良県広陵町立真美ヶ丘第一小学校の先生方の実践によるものです。ここには大きな特長があります。地域にまつわる「かぐやひめ」「竹取物語」(教材「たけとり」)を全学年で教材化しているのです。通常なら、各学年の学習内容の違いは、教材の違いによって捉えられてきたのではないでしょうか。しかし、同一教材を各学年で取り上げることによって、改めて、各学年の指導のねらいは何なのかを浮き彫りにすることができたのです。「教材を教える」のではなく「教材で教える」授業づくりを進める中で、どのようなねらいを設定し、それを具体化するためにどのような言語活動を設定するのか、そうした本質的な議論を通して生まれた実践群です。是非多くの方々に参考にしていただければと考えています。
特別支援学級での実践は、さらに子供一人一人の実態をきめ細かく踏まえた単元構想となっています。またこの実践の成果は、特別支援学級の授業づくりはもちろん、それ以外の学級でも活用できるものです。特別な支援を要する子供たちのために日々力を尽くされている全国の先生方の参考となる事例だと考えています。
今、本当に多くの方々に、単元を貫く言語活動を位置付けた授業づくりを進めていただいています。実践が広がっているのは、子供たちの学び、とりわけ「しんどい子」たちの学びの姿が主体的なものに変わるからだ、という声もたくさんいただいています。
本書が、より多くの方々の実践にとって大きな力になるものと確信しています。
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単元を貫く言語活動を位置付けた学習指導が子どもたちの主体的な学びを促し、さらに新たな学びに立ち向かっていくという現実を何度も目の当たりにしてきました。また、「伝統的な言語文化」の取り上げ方と学習展開を工夫さえすれば、小学生であっても抵抗なく、親しみながら古典の世界にも入っていけるという実際場面にも幾度となく立ち合ってきました。
「伝統的な言語文化」を扱った学習指導を充実させ、同時に思考力や判断力等の育成を図ることが求められている今日、本書はタイムリーな刊行だと考えます。