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授業経験の少ない人が、小学校で授業をすることがあります。
例えば、新卒教師であったり、教育学部の学生であったりします。
時には、大学の研究者が、小学生相手に授業をすることもあります。
仕事柄、授業経験の乏しい人の授業を見る機会が多くなりました。
授業経験のほとんどない人の授業には、ある共通する「ダメな点」があります。
その「ダメな点」の最たるものは、次です。
要するに、教師が一方的に説明して終わるわけです。
「講義型の授業」とでも呼べるしろものです。
どうして授業の初心者は、プレゼン授業になるのでしょうか。
様々な理由がありますが、最たる原因は次の三つです。
この三つは、どれも授業にとっては、致命的です。
しかしながら、これらの共通点は、反面教師として役に立ちます。
すなわち、このような点がなくなるように注意すれば、授業はずいぶんと良くなるのです。
まずは、「思考場面がない」ということを取り出して考えていきます。
思考場面がないというのは、子どもに考えさせる場面がないことを意味します。
思考場面は、例えば、発問や指示で、引き起こすことができます。
授業の初心者も、いちおう、発問らしきものはしています。
ところが、それが発問と呼べるレベルにまで達していないのです。
知っていないと答えられないことを尋ねたり、ただの質問だったりといったものです。
それに、助走問題をまず出して、だんだん難しい「主発問」に移るといったような原則も、まったく使えていません。
おそらく、「助走発問から主発問へ」という概念をもっていないので、できないのだろうと思います。単発で発問らしき質問をして、次に進むといった感じの授業になってしまっています。
次に説明が長いこと。
もちろん、重要な知識は教師が説明することも必要です。ですが、小学生相手に30秒以上説明すると、途中から聞いていないことが多いです。
写真や絵を提示すれば、説明を省くことができます。 教師が説明するところを子どもに発表させれば、説明を省くことができます。
説明する代わりに、作業させることで、理解させることだってできます。
「説明」ではなく、「発問→指示→誉める」の繰り返しで、理解させることができます。
説明というのは、省くことができるのです。
初心者には、このような「説明を省くことができる」といった概念がないのだと思います。
最後に、子どもの実態に合った指導になっていないこと。
これはもう授業では、最大級にダメな点です。
まずは、発達段階を無視していること。
そして、レディネスを無視していること。
さらに、子どもが今どういう理解をしているのかを無視していること。
子どもの理解のことなどほうっておいて、次々と授業を展開するのが、初心者に共通する点です。
一番まずいのは次の点です。
今どういう理解を子どもがしているのかを確認していない。 授業では、「子どもはどういう理解をしたと、自分で思っているのか」を、その都度確認しなくてはなりません。
ノートや発表で確認する場合もあるでしょうし、レベルが高くなると「子どもの表情」でも確認はできます。
「わからないところや、疑問はないかな」と尋ねるのもよいでしょう。
初心者がいつまで経っても授業が下手な原因は、「概念がないから」です。
「授業とは思考場面を用意すべきである」という概念がないから、そもそも思考場面を用意しようとしません。
思考場面は、発問や指示によって引き起こせるといった概念がないから、いつまでも発問や指示を上達させようとしません。
助走問題のあとで、主発問をすると、子どもが一生懸命考えるといった概念がないから、できないし、努力もできないのです。
戦前の師範学校で、大変よい教育方法がありました。
それは、授業の「原理・原則」をまず知識として学生に教え、その知識を今度は実地授業で、技能として身につけるという授業です。
つまり、まず、授業の原理原則を、教える側の教師も生徒も、共通理解をしておきます。
次に、生徒に、その原理原則を知識として教えます。
最後に、実習で、技能として身につけるまで練習させます。
今から、120年前の師範学校の授業です。
100年以上前なのに、こんなに効果的で、新鮮な授業は他にありません。
授業の原理・原則を、概念として知ろうとしないと、いつまで経っても授業の腕は上がらないのです。