- 「合理的配慮」の実際
- 特別支援教育
今回紹介する事例
Hさんは、幼稚園の年中組に在籍しています。言語理解に遅れがある事から、指示の理解や活動に見通しがもてないために、自発的に行動したり、友達と一緒に行動したりする事に困難があります。この実践は、視覚的な手立てや大人からの声掛けで、Hさんが活動しやすいように支援している事例です。
Hさんについて
Hさんには、言語理解の遅れがみられ、友達や担当教諭との会話が成立しないことがあります。会話の中でも主語と述語が逆になったり、担当教諭が質問すると、問われた言葉をそのまま繰り返したりする様子が多くみられました。また、活動の見通しがもてないことへの不安からか、自発的に活動することができず、指示を受けるまで同じことを繰り返す様子が多くみられました。
子どもの特性に対応した合理的配慮の実際
1 日常的に行う作業への配慮
Hさんは、日常的に行う作業で次に何をしてよいかわからなくなって困っていることがあります。例えば、掃除の場面で、雑巾を洗った後に絞るという行動へ移ることができず、雑巾を洗うことを繰り返していることがあります。担当教諭はHさんの行動を見守り、同じ動作を繰り返しているような場合には、次の行動に移れるように言葉掛けをするようにしています。
2 語彙を増やすための配慮
Hさんは、理解している言葉が少なく、簡単な会話に出てくる具体物がわからない様子があったため、様々な場面を示した絵カードを作成して、語彙を増やせるような指導を行いました。絵カードには、場面を示した絵と簡単な文を絵の下に記述して、絵と文の対応がわかりやすいようにしました。また、家庭でも練習ができるように絵カードを貸し出して、練習しながら保護者とのコミュニケーションが図れるようにしました。
3 見通しをもてるようにするための配慮
Hさんは、大人の指示が理解できないため、活動の見通しがもてないことが多く、周囲の友達の動きを見てから、自分も行動する様子が見られます。そのため、日常的に繰り返し行われる活動について、どのように行動すればよいかの手順を、絵カードを用いて視覚的にわかりやすく提示しました。そうすることで、Hさんは活動に見通しをもつことができるようになりました。
4 Hさんの気持ちに寄り添った関わり
Hさんは、自分の気持ちを言葉にすることが苦手で、自由時間は一人遊びをしがちです。登園を渋ることもあるため、担当教諭は見守りと、必要に応じて言葉掛けを行いHさんの気持ちに寄り添うことで、安心して幼稚園生活を送ることができるようにしています。
5 タブレット型端末の支援への活用
Hさんは、言葉掛けだけでは大人の話に集中ができないようだったので、タブレット型端末を活用して、音や絵などを提示しながら指導するようにしました。Hさんがタブレット型端末を使用することについては、担当教諭が他の子どもに対して苦手なことを学習するために使うということを説明することで、理解を図っています。
6 幼稚園全体での支援内容の共有
担当教諭だけでなく職員全体でHさんの様子を見守り、常に言葉掛けを行いながら気になる行動や困っている様子がみられる場面について情報を共有し、支援の在り方について話し合いを行うようにしています。
まとめ
幼児期は、人格形成の基礎を培う大事な時期であり、この時期の教育は、子どもの特性や実態に応じて無理なく自然な形で行われることが重要です。このために、大人は子どもとの信頼関係を十分に築き、安定した状況の中で様々な経験ができるようにする必要があります。
この事例では、言葉の遅れから主体的に行動ができなかったHさんが、実態に応じた語彙の指導や見通しをもたせるための支援を受けたり、気持ちに寄り添った配慮を受けたりすることで、Hさんなりの活動を広げる事ができるようになりました。
参考になりましたでしょうか?
本コーナーでは、インクルーシブ教育システム構築支援データベース(インクルDB)の事例を紹介しています。
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