- 「合理的配慮」の実際
- 特別支援教育
今回紹介する事例
場面緘黙のある中学校3年生のIさんに対して、地域コーディネーター(地域の特別支援教育推進のために配置された教員)と通級による指導を活用しながら、徐々に不安を軽減させ、相手に対して意思表示でき、相手に「伝えたい」という気持ちをもたせるようにした合理的配慮の事例です。
Iさんについて
通常の学級に在籍するIさんは、インフルエンザ脳症の後遺症としての高次脳機能障害の可能性があるという診断を受けています。小学校3年生の時から家庭以外では全く話さなくなり、忘れ物が多かったり、授業中にぼんやりしたりする様子も見られます。質問されたり、発表したりすることに対して強い不安感を持っています。筆談による意思表示をすることができますが、家庭以外での発声による意思表示は難しいです。そのため、自分の意にそぐわないことや困ったことがあっても、発声による意思表示ができません。
子どもの特性に対応した合理的配慮の実際
1 コミュニケーション面での配慮
- Iさんの発声の困難さに対する配慮として、無理に声を出させるような働きかけはせず、意思表示カードを活用するなどコミュニケーションの代替手段を習得するための支援を行っています。
- コミュニケーション方法に関する配慮として、話す以外に書くことや手話、ジェスチャー、パソコンやタブレット型端末を利用する等の方法を伝えています。
- 教員がIさんに質問をする際には、はじめは「はい」「いいえ」で答えられる質問をするように配慮し、Iさんがうなずきや視線で意思表示ができるようにしました。その後、質問の内容を徐々に難しくしていくとともに、紙やホワイトボード、複数のタブレット型端末を活用して、Iさんがスムーズに受け答えや自分の気持ちを表現できるように支援しています。
2 学習面での配慮
- 通級による指導を活用しています。通級による指導では、自立活動として、コミュニケーションや自己理解を促す指導を行っています。
- 国語や社会、理科の授業では、教員が代読したり、紙に書いて解答できるようにしたりして、Iさんが発声しなくても授業に参加できるように配慮しています。
3 自己理解や自己決定に向けた配慮
- 将来的なIさんの自立を見据えて、Iさんの自己理解が深まるよう配慮しています。具体的には、場面緘黙について取り扱った本をIさんに紹介し、場面緘黙とはどのようなものなのか、他の場面緘黙のある人はどのように感じているのか、どのように克服していくのかをIさん自身が理解できるよう支援をしています。
- Iさんが自分で選択したり、決断したりしたことを自ら示せるように配慮しています。Iさんとの話し合いにより、自分の希望の選択肢が示されている場合には手を挙げる、意にそぐわない場合には何もしないように決めて、自分の意思を示せるようにしています。
4 高校受験に向けての配慮
学級担任と地域コーディネーターは、Iさんが入学を希望する私立高等学校の特別支援教育コーディネーターと打ち合わせを行い、入学試験での面接におけるタブレット型端末の使用が可能なように調整しました。
まとめ
場面緘黙のある子どもへの支援では、本人が自分で選択したり、決断したりできるよう、本人の意思表示を最大限に尊重し、本人が自己選択と自己決定ができるような支援が必要です。無理に声を出させるような指導はせず、筆談をしたり、タブレット型端末等を活用したりするなどコミュニケーションの代替手段を習得するための支援を行うことが重要です。
この事例では、通級による指導等を通じて、Iさんのコミュニケーションの代替手段について考え、タブレット型端末を導入しました。また、Iさんの自己選択、自己決定の力を伸ばすために、一定のルールを決めて意思表示ができるように工夫した支援を行っています。
このような支援によって、Iさんは、意思表示することに対する不安が軽減し、相手に「伝えたい」という気持ちをもつことができたようです。
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