- 「合理的配慮」の実際
- 特別支援教育
今回紹介する事例
Kさんは、通常の学級に在籍する小学校1年生です。先天性低換気症候群による呼吸器機能障害があり、日中は気管カニューレ(気管切開の手術をして、気管に挿入された管)からの痰の吸引が必要です。Kさんは、気管カニューレを装着していることや体調を崩して保育園を休みがちだったことから、集団での活動経験があまりありません。また、友達と遊んだり、話したりすることに自信がもてません。入学当初は、友達の輪の中に入っていくことに躊躇(ちゅうちょ)したり、漫然(まんぜん)と友達と同じ行動をとったりする様子もみられました。
この実践は、Kさんに円滑に医療的ケアを行うことや継続して友達との関わりをもたせるための配慮を行うことで、Kさんが充実した学校生活を送ることができるよう支援している事例です。
Kさんについて
Kさんは、知的発達に遅れはなく、基本的な生活習慣は身に付いています。しかし、体調管理を優先しなければならないことから、日常の生活体験や他者と関わる体験が少なくなりがちです。また、もの静かで慎重な性格でもあり一人で過ごすことが多く、友達と関わって遊んだりすることもあまりありません。母親は、小学校に入学するに当たり、本人の意思を尊重しながら、健康な児童とできるだけ同じような活動をさせたいと願っています。
子どもの特性に対応した合理的配慮の実際
1 医療的ケアを円滑に行うための工夫
学校生活の中でどのような場合に痰の吸引が必要なのかをKさんが理解し、自身で円滑に痰の吸引を行うことができるようにしています。例えば、自身の状況と学校生活のさまざまな場面を見計らいながら、痰の吸引を行う旨の申告を教師に伝えるようにしています。継続した配慮を行うことで、Kさんは、痰の吸引を行う旨を教師に伝え、養護教諭の見守りのもと、保健室で吸引することができるようになってきています。
2 授業の参加についての配慮
Kさんが学級の仲間と一緒に学習活動に参加している実感・達成感がもてるように、保護者や主治医、養護教諭と確認しながら授業への参加について配慮を行っています。例えば、体育のプール学習では、気管カニューレに水が入るのを防ぐために、教師と一緒に活動したり、号令役やビート板の管理役をさせるなど、その時間の役割を与えたりして、学級の仲間の一員として、学級の仲間と一緒に学習しているという意識がもてるように配慮しています。
3 友達との関わりをもたせるための配慮
Kさんは、気管カニューレを装着していて声が小さく、友達と話したり、コミュニケーションをとったりすることに自信がもてません。そこで、学級全体で遊ぶ機会を設けたり、教師が外遊びに連れ出したりして、友達と関わりがもてるようにしています。遊びを通して、Kさんが友達に分からないことを質問したり、自分の気持ちを伝えたりする経験を積み重ねることにより、友達と関わるときのKさんの表情が豊かになり、Kさんから友達に進んで話し掛けるようになってきました。
4 発言する場面での配慮
声の小さいKさんが発言する場合に、「話します。」「読みます。」と最初に伝えてから発言をするようにルールを決め、学級の仲間が発言に注目できるようにしています。「話します。」「読みます。」と最初に伝えることで、学級の仲間が声の小さいKさんの発言に対して、側に近づいたり、注意を集中させて聞こうとしたりする様子がみられるようになってきました。
5 支援体制の整備
地域で医療的ケアを実施している在宅医療連携拠点事業所員(看護師)を合理的配慮協力員として委嘱し、市の教育委員会指導主事と合理的配慮協力員、学校関係者で保護者面談を行い、Kさんの合理的配慮についての検討を行っています。また、吸引を行う場所の確保や危機管理マニュアルの作成なども行い、Kさんの医療的ケアを支援する体制を整備しています。
まとめ
医療的ケアの必要な病弱児の中には、その病気のために自信をなくしたり、体調を崩して学校等を休みがちなため、集団で活動したりする経験が少ない児童がいます。そのような児童に対して、充実した学校生活を送ることができるような合理的配慮を考え、提供することが大切です。
この事例では、医療的ケアを円滑に行うための工夫や友達との関わりをもたせるための支援を継続して行うことにより、集団での活動経験があまりなく、友達と関わることに自信がもてないKさんが自信をもって学校生活を送ることができるようになりました。
参考になりましたでしょうか?
本コーナーでは、インクルーシブ教育システム構築支援データベース(インクルDB)の事例を紹介しています。
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