いつものクラスでソーシャルスキルトレーニング
ソーシャルスキル指導は特別な場でなく、いつものクラスで実践できます!
いつものクラスでSST 第1回
「面倒な子」は悪い子なの?
星槎大学准教授阿部 利彦ほか
2014/6/24 掲載
  • いつものクラスでSST
  • 特別支援教育

ソーシャルスキルトレーニング(SST)って聞いたこと、ありますか?コミュニケーション能力など「社会の中で他人と交わり共に生活していくための能力」を訓練することです。
特別なものなのでしょうか?いえいえ、このSST。優れた先生は授業の中で、学活で、行事で、日常的に実践しています。ちょっとした工夫次第でいつものクラスでSSTが行えます!
初回である今回は、「SSTとは」の解説とともに、「面倒な子」とつい思いがちな子の捉え方について通常学級の尾ア朱先生と考えていきたいと思います。

ある子が正しい答えを発言すると、先生が「皆さんいいですか?」と尋ね、皆が「いいでーす!」と返す、、、一見すてきなクラスに見えますが本当にそうでしょうか?「いいでーす」と答えた子たちの中に、ただ先生の顔色を見て機械的に返していたり、本当はわかっていなかったり、そんな子はいませんか?

耳が痛いです。私もそうですが、教師って、予定通りに授業や生活を問題なく進めたいと思うものです。でも、よく考えてみると、その合理的な予定は、子どもの思考の流れのため、というよりも、教師の都合のため、ということもよくあることだと思います。「とりあえず、伝えておいたよ」という教師の横着な指導なのかもしれません。でも、それだと、子どもに伝わりませんよね。

単に先生が「いいですか?」と聞いたら「いいです」と答えるというパターンを子どもたちに守らせることは、本当のコミュニケーション指導ではないと私は思います。本当に考えている子であれば「先生はそう言うけど○○は?」とか、「□□のところはよくわからない」と言いたくなることもあるでしょう。でも先生はそんな「ひっかかってくる子」をついつい面倒に思いがちです。

自分の思いに素直な子は、「わからない」からひっかかってくるし、よく考える子は「おかしいな」と思うから、ひっかかってきます。子どもの側からしたら、もっともな話です。でも、教師は、滞りなく自分の予定通りにしたいから「ひっかかってくる子」は、予定を乱す「面倒くさい子」につい感じてしまいます。

さて、先日私はいわゆる「いい授業」というものを見学しました。子どもたちはノってイキイキしていました。一部沈んだ子もいましたが、大多数が盛り上がっているので、私も、わかりやすく楽しい授業だな、、、と思っていました。ところが後で、賢そうな子どもがこっそり教えてくれたのです。「これはね、先生が喜ぶ答えを言う授業なんだ」と。

ええ、子どもって担任の先生には良い子に見られたいですものね。だから、クラスの中で気のきいた子は、先生に気に入られるような答えを探してきますね。その場の雰囲気を察したりとか、普段担任が使っている言葉を選んできたりとか。

その時私は頭をがつんとやられたような気になり、このクラスでは「察する力が強い子」が評価されるのだと知りました。そして、察するのが弱い発達障害の子は先生から「困った子」ととらえられてしまう可能性があると思ったのです。

先生が気に入るであろう言葉を言いながら、ちらっと教師の方を見て、教師の反応を確かめたりしてくる子がいますね。すると、そんな子を、かわいいとか思ってしまうんですよね。「あの子は、わかってる」とか、思っちゃったりします。

教育現場でもソーシャルスキルトレーニング(SST)は大変重要視されています。でも、先生の扱いやすい子にすることや、先生の言葉を鵜呑みにする子、都合のいい子にすることはSSTではありません。そのクラスや学校に適応することが目的でなく、自立や社会参加を見据えたコミュニケーション力を育てる、という視点を忘れてはいけないと思うんですよね。

私は、SSTは支援の必要な子どもだけでなく、今を生きる子ども達にとって、とても大切だと考えています。SSTで学ぶと「この相手の人に納得してもらうにはどう言ったらいいかな」「けんかしないで、伝えるにはどうしたらいいかな」と考えるので、総合的な人間力が育っていくということですね。

ええ、SSTがあれば、対人関係のトラブルを回避し、集団場面でのストレスを軽減でき、相手との交流を通じて成長できる、総合的な人間力が育ちます。しかし、考えることができ、悩むことができ、相手に意見することができるようになるので、教え込もうとする先生にとっては「面倒な子」を育ててしまうことにもなるのです。

そうですね、教師の発言で納得できないときは、穏やかに上手に、反論されそうですね。なるほど、納得できます。確かにそんな子を「面倒だ」と感じる瞬間があるかもしれませんね。

でもね「面倒だ」と思う子の多くは、その子なりの「こだわり」や「理屈」があるものです。子どもが、将来自分の意見や考えを相手に伝える、説明することができるようになると事態がややこしくならずにすみそうです。そのスキルを育むためには、教師が「どうしてそうしたいの?」「なぜそう思ったの」と責めずに聞いてみる、というのは大事なんじゃないかな。

昔1年生の担任をした時、入学式でまっすぐ並ばせようと「この列車さん(列の子たち)は青い線、この列車さんは赤い線、この列車さんは黄色い線の上にならんでね。」と指示したら、ある子に「僕は青じゃないといやなんだよ!」と大暴れされたことがありました。もう面目なくて、顔が引きつる思いでした。今思えば自閉症スペクトラムの子だったと思いますが、発達障害の考え方も知らず、その当時は、指示に従わない子がいるとは考えられませんでした。でも今思えば、Aちゃんはきちんと自分の主張を伝えていました。ただ伝え方が悪かっただけで。イラスト

「あなたはAちゃんだから、青です。」なんて、こちらが決めつけていたんですね。出席番号順の都合、ただの教師の都合です。
もし、あの入学式の時、「自分の気持ちをきちんと言えるって1年生なのにすごいなあ。じゃあ青と黄色と赤だったら、どこがいいか言えるかな?」ってAちゃんに尋ねて、Aちゃんが答えたら「尋ねたことにきちんと答えられるなんてえらいなあ。みんなもAちゃんみたいに自分の事をお話できるように勉強していきましょうね。」と対応していたら、Aちゃんにも、学級にも、そしてAちゃんの保護者の方にとっても、小学校と言う場は本当に安心できる場、本物の学びがある場所だと、実感してもらえた、と思うんですよね。

SSTは特別なトレーニングである、という誤解もあるようですが、実は優れた先生はすでに授業の中で、学活で、行事で日常的にSSTを実践しているのです。そう、いつものクラスがSSTの場に、すでになっているということです。ある事例では、自閉症スペクトラムの子が「空気を読まない力」を先生やクラスメイトにポジティブに捉えてもらっています。

先ほどの、ある先生にとっては「面倒な子」は、授業の内容を深めてくれる子、話し合いの起爆剤になる子、停滞した話し合いを打ち破る子という捉え方もできます。ですから授業でたのもしい存在として、先生に評価されているのです。その子を活かすことで面白い授業作りができる。SSTの成果を実践にポジティブに活かしている例だと思います。

教師の沽券にかかわるとか、予定に合わないとか、そういうことでなく、子どもの、特に「面倒な子」の空気を読まない感じ方、ある意味素直な感じ方に寄り添って、そこによさを見つけるアンテナを準備しておくことが大事なのですね。

キーワード解説:SSTとは

ソーシャルスキル(SS)とは「社会の中で他人と交わり共に生活していくための能力」です。

SSはさまざまですが、@コミュニケーションスキル、A集団参加に関連したスキル、B他者認知スキルなどがあります。

SSの多くは家庭、学校、地域で自然に備わってくる力でしたが、最近はSSの獲得を意図的に訓練すること(ソーシャルスキルトレーニング=SST)が必要になってきました。

SSTは特別な子のためでなく、どの子にも必要であると捉え、U-SST(ユニバーサル・ソーシャルスキルトレーニング)と名づけました。

U-SSTソーシャルスキルワーク 日本標準

阿部 利彦あべ としひこ

星槎大学准教授。
授業のユニバーサルデザイン研究会湘南支部顧問。発達障害のある子の魅力やサポート法についての講演・教員研修で全国各地を飛び回り、その取り組みはマスメディアでもたびたび取り上げられる。「見方を変えればうまくいく!特別支援教育リフレーミング」(中央法規)など著書多数。特別支援教育士SV。

尾ア 朱おさき あや

通常学級で、特別支援教育を進めたいと考えている宝塚市の教員。クラスで学ぶSSTパッケージ(すみれトランク)の開発と実践がある。関西UDに属している。宝塚市巡回相談員。特別支援教育士。

(構成:佐藤)
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