いつものクラスでソーシャルスキルトレーニング
ソーシャルスキル指導は特別な場でなく、いつものクラスで実践できます!
いつものクラスでSST 第2回
わかっていても活用できない?!
星槎大学准教授阿部 利彦ほか
2014/7/20 掲載
  • いつものクラスでSST
  • 特別支援教育

前回は、阿部先生にソーシャルスキルトレーニング(SST)は、ちょっとした工夫次第でいつものクラスでも行えます!とお話していただきました。
え、でもSSTを本で見てやってみたけどうまくいかないんだけど…? そんな声もよく聞かれます。どこに問題があるのか、そしてSSTを行うために欠かせないこととは何なのか今回は教えていただきましょう。

いまやSSTのニーズは非常に高まり、相談機関や療育機関などで盛んに行われています。近年では、特別支援学校や通級指導教室※1といった学校現場にも取り入れられ、その必要性・有効性は十分認められているわけですが、実は私は、SSTを実施しさえすれば子どもに社会性や対人関係能力が身につく、とは考えていません。

えっ!阿部先生、そんなことって衝撃的すぎます。SSTって社会性や対人関係のトレーニングをするものじゃないですか。SSTで社会性が育たないなんて…。

なぜそう思うようになったかと言いますと、SSTが実際に行われても、学校生活で応用されず実際には機能していない例をいくつも目にしたからなのです。例えば、SSTの実施後に子どもたちに感想を書いてもらったりしますね。「これからはあいさつしたいと思いました」とか、「がんばって友達と仲よくしたいと思います」などの感想が多く見られる中に、「これでおれの何を試してるんだ」とか、「やり方はわかったけど、ほんとにやってみる気はさらさらない」といった本音みたいなものを吐き出す子たちがいるんです。

うわあ、すごい…。「やってみる気はさらさらない」って言うんですね。私はそんな感想を見たことがありませんが、たくさんのSSTの指導例をお持ちの阿部先生だから、子どもたちの本音もつかんでらっしゃるのだと思います。子どもは教師にいい顔をしたいから、本当の感想を隠しているだけなのかもしれない。こわいなあ。

また、自閉傾向の子などは、通級でSSTの指導を受けても、それを般化※2させて家庭や教室で応用できない面があります。もともと自閉傾向の子って、Aの場所で習ったことをBの場所で応用させる、というように広げていくことが苦手なので、そういう活用の問題が生じるんですね。

確かにそうですね。教室でトラブルがあった子どもに、放課後に個別で「こうしたらいいよ」というワザを教えることはよくあります。でも、練習したはずなのに、教室でそのワザをなかなか使えないことがあって、こっちががっかりしたりします。

さらに、ADHDの子で言えば、「こうしましょう」などとお仕着せの指導のようなことをされると、あえて挑戦したくなる性質を持っているので、「そんなことわかってら、でもオレはやんないよ」という態度になりがちです。

予想はしていても、大人までむかっとしてしまいそうですね。

そういった子どもたちは、学んだソーシャルスキルを知識としては持っていても実際の対人関係で活用することはありません。せっかくのトレーニングが活かされないわけです。これからは、そういうSSTの限界みたいなところも考えていかなければと私は思うんです。しかし、発達障害児支援の世界の一部には、諸手を上げてSST奨励というような風潮もあります。

トレーニングしたのに、実際場面で活用できないのだったら時間の無駄ですよね。でも、特別な配慮が必要な子どもだけでなくて、学級の多くの子どもにも、残念ながらそんなことがあるように思います。
例えば、朝校門に立たれている校長先生には挨拶をするのに、同じ時間に校門に立たれている特別支援学級の先生には挨拶しないとか。
イラスト

SSTが効果的な子どもとそうでない子どもがいる。その差異は何に起因するのかをもっと研究する必要があり、まさにそこに先ほどの般化の問題があると思います。

どんな時でも、どんな場所でも、全ての子どもが学習したことをできるといいです。でも、難しいですよね。

とくに学校では、どの種の指導においても、一般的に全体の7割くらい、あるいは半数以上の子ができるようになればよしとする慣例がありますね。そのくらいの子に伝われば、あとはあきらめてしまう。集団の指導においてはやむを得ないことではありますが、定着しなかった子の方にも焦点を当てて、その理由を丁寧に考えてみることも必要かなと思います。

本当ですね。同じ指導をしたはずなのに、子どもの振り返りや感想を見ていると、指導の「しみ具合」が違います。

集団にSSTを行ったときに、理解の温度差や実効性の温度差といったものが出てくる、この差異をどう捉えるべきかということですよね。それについては、これからもっと研究がなされるべきだと思いますね。
それから、全体に通じることですけれども、SSTの下に、それが根付くための土台みたいなものがなくてはならないと私は思うんですよ。

私の経験では、SSTって、「社会性を育てたい=だからSSTをしよう」と安易に始めると、失敗することが多いです。なんというか、何かしら伝わるんだけど、「イベント」みたいになってしまって、子どもの心に「しみてない」んです。行事に似ているところがあって、「給食交流会」という行事を例年通りするけれど、「活動はしたけど、何も残らない」っていうことが起こりがちです。SSTもそうなのじゃないかな。SSTを通じてどんなクラスにしたいのか、というゴールがはっきりしていないからかもしれない。

学級でもまず、子どもたちの先生に対する信頼感や、皆と一緒に何かをやることの面白さや達成感、努力すれば認められるんだという思いなどを育てた上で、SSTを実施することが大切だと思います。

なるほど。「頑張ったらみんなが認めてくれる」「このクラスは素敵だ」というやわらかな安定したクラスでないと、どんな学びも活動も安心してできないから本物の学習にならないのですね。

(次回に続く)

キーワード解説1:通級指導教室とは?

通常学級に在籍する特別な支援を要する子どもが、例えば週に数時間など特別な指導の場に通い、個別指導を中心とした授業を受けることを「通級」といい、その授業が行われる場を通級指導教室といいます。

キーワード解説2:般化とは?

習得したことが、環境や状況が変わっても同じようにできるようになることです。

阿部 利彦あべ としひこ

星槎大学准教授。
授業のユニバーサルデザイン研究会湘南支部顧問。発達障害のある子の魅力やサポート法についての講演・教員研修で全国各地を飛び回り、その取り組みはマスメディアでもたびたび取り上げられる。「見方を変えればうまくいく!特別支援教育リフレーミング」(中央法規)など著書多数。特別支援教育士SV。

尾ア 朱おさき あや

通常学級で、特別支援教育を進めたいと考えている宝塚市の教員。クラスで学ぶSSTパッケージ(すみれトランク)の開発と実践がある。関西UDに属している。宝塚市巡回相談員。特別支援教育士。

(構成:佐藤)
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