いつものクラスでソーシャルスキルトレーニング
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いつものクラスでSST 第4回
「チクッと言葉」を使うのは誰?
星槎大学准教授阿部 利彦ほか
2014/9/20 掲載
  • いつものクラスでSST
  • 特別支援教育

クラスの中に不適切な言葉が飛び交ってしまうときがあります。
そうなると、丁寧な言葉を使う子どもが浮いてしまうことにもなりかねません。
クラスで使われる「チクッと言葉」を減らし、「ふわっと言葉」の貯金を増やしていくためには、どのような取り組みが必要なのでしょうか?

前回までは、発達が気になる子のソーシャルスキル課題について考えてきました。でも、発達が気になる子の方がきちんと挨拶できて、言葉も丁寧なのに、クラスがチクッと言葉にあふれていて苦しむというケースも多く聞かれますね。

いきなり先生に「ばばあ」とか言ってくる荒れたクラスも確かにありますね。

そういうクラスだと、丁寧に話す子が「なんだおめえ、かっこつけてんじゃねえ」とか言われて、いじめのきっかけになることがあります。

クラスでそういう言葉が聞かれるのは見過ごせませんね。でも残念ながら、「死ね」といった一線を越えた言葉さえ軽く出てくるような瞬間は、少なからずあると思います。

「うぜえ」「死ね」「殺す」「消えろ」などなど。どうやったらこういうチクッと言葉を減らせるんでしょうか?

私がその時にした対応なのですが、黙って、黒板に大きく「死ね」と書きました。そしてみんなで大きな声で読み上げます。そして一列ぐらいに、どんな気持ちがするか聞きました。

みんなどんなふうに答えたんですか?

たいてい「嫌な気持ち」と答えます。そこで「他にもこんなふうに人に言われて嫌な気持ちがした言葉はないかな?」って聞いて、もう一列くらいに言わせます。それをまた黒板に黙って書いて、そして再度大きな声で読みます。はじめは変にはりきって「チクッと言葉」を読み上げていた子どもたちも、最後の方は表情が変わります。楽しくないんですね。

なかには、そういう言葉にデリケートな子もいるでしょ?

「言って嫌な気持ちになる人は言わなくてもいいよ」と伝えておくんです。

なるほど、それは大事な心配りですね。

そこで再度気持ちを聞いて「こういう言葉は多くの人が嫌な気持ちになります。先生も嫌です。こういう言葉は人を傷付ける『チクッと言葉』といいます。「死ね」っていう言葉は教室で使わないようにしたいです。だから教室から追い出しましょう」と言って、紙に「死ね」と、私が書きます。それを「死ね」と言った子ども本人に渡して、破らせたり、くちゃくちゃに丸めさせたりして、そこで、私が持ってきたゴミ箱にポイッとすてさせるのです。
第4回イラスト

ゴミ箱ですか?なるほど。

ほかに出てきた「うざい」とかも同じようにゴミ箱にポイッと捨てます。その後、黒板の「死ね」を消してから、「ありがとう」って大きく書きます。それをみんなで読んで、一列くらいに読んだ気持ちを聞きます。そして、「この言葉は人をはげましたり、あたたかな気持ちになるので『ふわっと言葉』といいます」と教えたのです。

ただチクッと言葉を封じるだけでなく、適切な言葉を拾い上げていくのですね。

はい。「他にありますか?」ときいて、多くのふわっと言葉を黒板に書くのです。それをみんなで読んでまた気持ちを聞いて…。「こんな言葉があふれるクラスにしたいね」と、模造紙2枚くらいに、自分の好きなふわっと言葉と自分の名前を筆で書かせました。そして、真ん中には、学級目標を代表に書かせて、一年間掲示しました。「くちゃくちゃぽいぽい」はプール学院の松久眞実先生のご実践ですが、みんなで共有することで、「悪い言葉はやっぱり悪い」は再認識できると思います。

私も松久先生の大ファンです。松久先生ご自身の現場におけるハードな実践は勉強になるし、実際に使える。

幸い、このクラスでは「死ねはいやだ」と言ってくれましたが、もしかしたら「死ねって言うとすっきりする」とか「別におれはいやじゃない。ふつう」ということを言う子がいるかもしれないですよね。

そういう発言ももちろん想定できますね。

でもそういう時は、クラス全員に「嫌だと思う人?」と手をあげさせると、大多数が手を挙げるので、「あなたはそうなんだね。でも多くの人が嫌だと思っているということを、知らないといけないよ。それに、先生も嫌です」と言うようにしています。
第4回イラスト

発達が気になる子だけを取り出してSSTをする。しかし実際クラスで適切な言葉を使ってみると、荒れているクラスではそういう子が余計に浮いてしまうという悲劇を見てきました。世の中の印象とは反対で、発達障害のある子の方がSSTをきちんと受けて学習していて、クラスの他の児童・生徒の方が社会性に課題がある、という可能性も支援の視点として持ちたいと思います。

学校仲間で自分の学校やクラスの実態の話をすると、「コミュニケーションがとれない」「暴言をはく」「手が出る」って、そのフレーズが実に多いのです。でもコミュニケーションのとれなさの問題の裏には「言葉の問題があるよね」と先輩が言っておられて、はっとさせられたことがあります。その時に使うぴったりな言葉を知らなかったり、自分のもやもやした気持ちをうまく相手に伝えられなかったりするので、それが暴力や暴言、『チクッと言葉』になってしまうのですね。

チクッと言葉というと、日常の中でも聞かれますが、もちろん授業中でも使われるでしょ?「聞こえねえし」とか「また間違ってる」とか。とくに友だちや先生のミスに敏感に反応する子っていると思うんですよ。

自分には甘く、人には厳しく、の子っていますね。私のところにすぐに言いつけにきたりします。

そうそう。発達が気になる子だけではなくて、その周囲に「自分に敏感で、他者に鈍感な子」、「相手のミスを見つけることに意欲的な子」が結構いる。発達が気になる子を「気にしすぎる子」たちについての対応が学級経営の鍵ではないでしょうか。

阿部 利彦あべ としひこ

星槎大学准教授。
授業のユニバーサルデザイン研究会湘南支部顧問。発達障害のある子の魅力やサポート法についての講演・教員研修で全国各地を飛び回り、その取り組みはマスメディアでもたびたび取り上げられる。「見方を変えればうまくいく!特別支援教育リフレーミング」(中央法規)など著書多数。特別支援教育士SV。

尾ア 朱おさき あや

通常学級で、特別支援教育を進めたいと考えている宝塚市の教員。クラスで学ぶSSTパッケージ(すみれトランク)の開発と実践がある。関西UDに属している。宝塚市巡回相談員。特別支援教育士。

(構成:佐藤)
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