並行読書を位置付けた授業にチャレンジしてみました! 子供たちはとても熱心に本を読んでいました。でも毎回、準備がとても大変です。並行読書の意義を教えてください。
並行読書とは、当該単元の指導のねらいをよりよく実現するために、共通学習材(通常は教科書教材)と関連させて、本や文章を読むことを位置付ける、指導上の工夫のことです。
並行読書の最大のメリットは、子供が主体的に読む姿を実現しやすくなることです。とりわけ、読むのが苦手な子供ほど、教科書の読みではなかなか見られない、主体的に学習に臨む姿が、多くの授業で見られるようになります。実践してみて強く実感できたのではないでしょうか。自分で選んだお気に入りの作品を読むということは、子供たちをこんなにも主体的な読者にするものなのかと驚くほどです。
また、教科書以外の作品や文章を読む機会が得られることで、子供たちがより多くのストーリーやものの見方・考え方、優れた叙述などと出合うことができますし、一つの物語では見えてこなかったものが、複数の本や文章を関連付けることによって見えてくることも多いでしょう。
さらには、教師の側から見れば、教科書の読みを自分で選んだ本の読みに適用できるようにすることで、確実な指導と評価を行うことが可能となるのです。
日常的に読書量の多い子供たちだけを念頭に置けば、教科書教材だけで学ばせても、読む能力を高められるかもしれません。しかし、読書の絶対量が少ない、いわゆる「読むのがしんどい子」を確実に支援するためにも、並行読書の意義は大きいと言えるでしょう。
確かに、子供たちが自分で選んだ本を読む際、いつもよりずっと集中して読む姿が見られました! これが大きな効果なのですね。次の単元でも並行読書にチャレンジします。効果的に指導するコツは何ですか?
並行読書は、あくまでも指導の方法ですから、まず単元の指導のねらいをしっかり見極める必要があります。例えば、読書の絶対量を確保することが主たるねらいなら、朝読書の時間などに実施することが考えられます。また、共通学習材と並行して位置付けるだけではなく、当該単元の学習への興味・関心を高めるために先行的に位置付ける場合もあり、先行読書などと呼ばれています。
しかし、共通学習材と密接に関連させて、指導と評価を行うのであれば、国語科の時間内に設定することが基本です。その際、選書の範囲も指導のねらいに応じて工夫することとなります。例えば、第3学年及び第4学年の、次の指導事項を指導する場合を考えてみましょう。
ウ 場面の移り変わりに注意しながら、登場人物の性格や気持ちの変化、情景などについて、叙述を基に想像して読むこと。
*緑色、水色部分は筆者
場面の移り変わりに注意して読む能力を育むのであれば、そうした叙述が特徴的な本を選ぶこととなります。例えば、戦争と平和を描いた作品では、登場人物を取り巻く社会の状況が変化して描かれていることが多いものです。ですから、そうしたテーマの作品を選書することが考えられます。
一方、登場人物の性格を主体的に捉えて読むことがねらいであれば、シリーズを通じて登場する主人公の性格を把握できるよう、シリーズ作品から選んで読めるようにすることが考えられます。
また、例えば次の指導事項、
カ 目的に応じていろいろな本や文章を選んで読むこと。
のように、「本や文章を選んで読む」能力である「目的に応じた読書に関する指導事項」を重点的に指導するのであれば、子供自身が選書する能力を育むため、対象図書は幅広に設定することとなります。
反対に、
オ 文章を読んで考えたことを発表し合い、一人一人の感じ方について違いのあることに気付くこと。
*赤色部分は筆者
において、「一人一人の感じ方について違いのあることに気付く」ようにすることをねらう場合などは、同一作品を読んだ子供同士がグループを組んで読みを交流できるよう、選書範囲を狭く設定することが有効になります。
ねらいに応じた工夫の仕方がよく分かりました! でも…実際に並行読書の本を選ぼうとすると、迷ってしまいます。並行読書材を紹介した事例集などはありませんか?
はい。書籍から紹介します!
『「単元を貫く言語活動」を位置付けた小学校国語科学習指導案パーフェクトガイド』の1・2年では、低学年の子供たちが「大好き!」を見付けて紹介できるようにするための並行読書材をリストアップしています。『3・4年』では、調べ学習にも機能する読みの力を育成するための並行読書材を例示しています。さらに『5・6年』では、心に響く叙述を推薦する言語活動にふさわしい作品を挙げました。ぜひご活用いただければ幸いです。
ここをチェック!授業改善のためのポイント
単元を貫く言語活動を授業に位置付けるには、次のポイントに留意しましょう。
- 当該単元でどのような読む能力を育成するのかを明確にしていますか。
- 単元のねらいに応じて、どのような並行読書材を活用していくかを明確にしていますか。
- 学校図書館スタッフや、公立図書館司書などと連携し、子供たちが手に取りたくなるような並行読書材を準備していますか。
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私は3年生の担任をしていますが、「読みがしんどい子」ですら適当に選ぶ子はいません。表紙やタイトル、時にはパラパラとページをめくって思い思いに吟味し、「我、先に」と手に取っている姿は、見ていてこちらが感動します。やはりどんな子どもでも、読みたい本について「自分の中にヒットする条件や要素」をもっているんだなと改めて痛感します。
「自分の中にヒットする条件や要素」とは、すなわち「お気に入りの理由」と言っていいでしょう。それが一体なんなのかを、友達との交流を通して言語化していくのがこれからの国語の物語文の授業なのでしょうね。
水戸部先生のお話の通り、用意する本は指導のポイントと一致するように中身を精選する必要がありますが、指導者がそこまでして本を揃えた苦労はちゃんと報われます。なんてったって「本の奪い合い」ですから!