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今回のねらい
例文カードとサイコロを使い、負荷を減らしながら文法事項を導入する方法をご紹介します。
英文法の初歩的な事項を定着させるには、「パターンプラクティス」が効果的であることはよく知られています。具体的には、例えばdon't/doesn'tを使った否定文を教えるのであれば、人称や動詞などを変えた例文 (I don't like …/She doesn't like …/They don't like…など) を何度も繰り返してもらい、定着をはかります。
パターンプラクティスはあらゆる子どもにとって、必要で効果的です。しかし、どのような形でパターンプラクティスを行うかについては、注意が必要です。教師が説明した後、いきなりドリルで練習するという方法が効くのは、直観的な読字・書字能力を持つ一部の子どもだけです。これに対し、「聞いて言う」ができることを確認したら「読んで言う」を反復練習し、それからはじめて「書く」へと進めるのが、多様な認知特性に合わせたパターンプラクティスと言えます。
以上をふまえ、より多様な子どもに有効なパターンプラクティスの方法として、カードに例文を書き、サイコロを使って人称変化を練習する方法を紹介します。
支援グッズ「例文カードとサイコロ」
- 概要
- 人称を書いたサイコロと、例文を書いた短冊を使って、パターンプラクティスを行う
- 目的
- 人称変化を伴う(I/you/he/she/we/theyで動詞が変化する)文法事項の定着をはかる
- 対象
- 中1。または小学校高学年
準備:
・大きめのサイコロ(スポンジ素材など柔らかな素材のものがおすすめ。または紙でも可)
・短冊型のカード
・サイコロの各面に、I/you/he/she/we/theyと書く
短冊例(各1枚ずつを10〜20枚) | |
---|---|
like tennis. | |
go to bed. | |
run in the park. | |
have a cat. | |
do homework. | |
study math. |
・使用する単語は、フォニックスルールに沿った綴りのものを極力選ぶ
・内容については、生徒に案を出させたり、書いてもらったりしてもよい
サイコロと短冊
学習の流れ
例として、do/doesを教える場合を紹介します。
1.【復習】口頭で確認。I like/You like/He likes/She likes/We like/They likeと唱えてもらい、教師は黒板やホワイトボードに同じ内容を書く
2.1回戦。5〜6人のグループの場合、50〜90秒程度の任意の時間にタイマーを合わせる(子どもには見せない)。子どもは1人ずつサイコロを振り、教師が例文を読み上げて(自分で読める場合は読んでもらってもよい)、子どもに動詞を変化させた文を読んでもらう
S1:(サイコロを振って、Iが出る)
T :(Iの面と、短冊をくっつけた状態で、短冊を読み上げる)
「play soccer.」
S1:「I play soccer.」
T :「Good!」
「He likes swimming.」
S2:(サイコロを振って、heが出る)
T :(heの面と、短冊をくっつけた状態で、短冊を読み上げる)
「like swimming.」
S2:(正しく動詞を変化させた文を言う)
「He likes swimming.」
T :「Good。そうだね、likesとなるね」
(以下、子どもは順にサイコロを振っては、動詞を適宜活用させながら文を言う)
・タイマーが鳴った瞬間に自分の番だった生徒は、3回サイコロを振り、動詞を変化させた文を言う(「制限時間が不明」「タイマーが鳴ったときに自分の番だったら3回言う」というゲーム性があるため、遊び感覚で定着が進む)
3.【新出事項の導入】否定文ではI don't like/You don't like/He doesn't like/ She doesn't like/We don't like/They don't likeとなることを教える。don'tとdoesn'tにカードを使ってもよい
・doesn'tの綴りが特殊であること(「ドエスントって書いてダズントって読むんだよ」)と教えてもよい。何度かリピートして活用を言ってもらい、口頭での定着をはかる
「I don't listen to music.」「He doesn't listen to music.」
4.【2回戦】おおむね言えるようになったら、do/doesn'tのパターンプラクティスを行う
T :「he/sheが出たら、ここに(サイコロと短冊の間を指差して)
doesn’tって入れてね。それ以外のI/you/we/theyでは、
don'tって入れてね」
S1:(サイコロを振って、Iが出る)
T :(Iの面と短冊の間に、少し間隔をとって、短冊を読み上げる)
「play soccer.」
S1:「I don't play soccer.」
T :「Good.」
S2:(サイコロを振って、heが出る)
T :(heの面と短冊との間に、少し間隔をとって、短冊を読み上げる)
「like swimming.」
S2:「He doesn't like swimming.」
T :「そうだね。doesn'tが入るね」
「He doesn't like swimming.」
5.【書く練習】2回戦で取り上げた否定形の例文を、書けるかどうか確認する。演習問題のプリントを使ってよいが、カードに直接、否定形を書き込むのもよい
(短冊に書かれている例文と同じか、変えるとしてもごくわずかにする)
don'tとdoesn'tを書き込んで確認
全文書き直して確認
指導のポイント
- 「言えるようにしてから書く」という流れを心がける:パターンプラクティスを、いきなり「書く」という形で行うのは、読字や書字に困難がある場合、混乱と挫折につながります。書く作業は暗記のためではなく、完全に意味と音が定着している内容について、確認のために1回だけ行うべきです。一方で、読字や書字に困難がない場合も、「言えるようにしてから書く」という手順は、単語の発音に自信が持てるため、リスニング力やスピーキング力の向上につながります。
- 注目すべき箇所に焦点を当てる:短冊で文を示すことで、注目すべき箇所を明確に示すことができます。口頭で言えるようになっても、いきなりドリルに進むと、文字が多すぎて圧倒されてしまう子どもは少なくありません。
- 負荷を減らす:doとdoesを初めて扱う子どもにとってパターンプラクティスは、正しく発音し、音と文字を結びつけて、heとsheのときだけはdoesに、それ以外のときはdoにする…と、さまざまな処理を同時に行うことを意味します。サイコロと短冊の形で正しい文をすばやく視覚化することで、負荷を減らしてパターンプラクティスを行うことができます。正しく言えると、綴りや文法事項も次第に定着してきます。
- 新出単語を、当然読めるものと仮定してはならない:doesが難しいのはわかるとして、doも、最初から正しく読めることは当然ではありません。音と文字の関連を明示的に教える必要があります。このステップは読字困難の子どもはもちろん、他の子どもにとっても大きな安心感につながります。
このほか、疑問文、be動詞を使った平叙文・疑問文・否定文、過去形、現在進行形、助動詞…に、この短冊とサイコロは活用することができます。
*URLや教材の情報は掲載時点でのものになります。