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今回のねらい
英単語を読めるようになれない、というのは多くの指導者と学習者の最も切実な悩みです。どうすれば単語が読めるようになるのでしょうか。ここでは英語での読みの習得を発達の側面から、「読む」という言葉の意味と目的を、大きく2つに分けて考えます。1つは,文字を使って書いてある事柄の意味や内容がわかること。本や手紙などであれば作者の意図がわかり、活字でのコミュニケーションを目的とした「読み」です。もう1つは、文字を記号として正しく認識し、その記号に対応する音声に結びつけ、さらに意味と結びつけるという頭の中での情報処理としての「読み」です。この後者の「読み」はスキルとして、前者の読みの土台となり、意味理解を助けます。文字と音がきちんと対応できていないまま「単語が読めない」というのは、かな文字を覚えていない子に国語の教科書を読ませるのと同じくらい、難しいことなのです。
子どもが文字に初めて出会うときは、「この形は何だろう」からはじまります。前回までの「アルファベットの指導」で述べたように、形を身につけていくには時間もかかり、子どもそれぞれの学び方があります。そして形を音声に結びつけることができて初めて「文字の音声化(デコーディング)」ができているといえます。文字を音声に変えることができると、「/f/, /o/, /x/…あ、これはきつね(fox)のことだ!」といった既存の音声で蓄積した語彙と結びつけることができたり、新しい単語を学んでいくことが容易になったりします。子どもにとって「読める」ということは、大きな喜びであり、もっと知りたい、学びたいという原動力になります。今回は、文字と音の対応に焦点をあてた教材を紹介します。
フォニックス
- 書名
- はじめてのジョリーフォニックス
- 翻訳者
- 山下桂世子
- 出版社
- ジョリーラーニング社
フォニックスとは、まさに英語の文字と音の関係を体系的に指導する方法のことですが、フォニックスにも色々あるということをご存じでしょうか。本書は、日本におそらく初めて入ってきたシンセティック・フォニックス(synthetic phonics)の理論に基づいたフォニックス指導書になります。ジョリー・フォニックス以外にもシンセティック・フォニックス教材は、英語圏にはいろいろあります。無料のものは、英国教育省が無料で提供している”Letters and Sounds”があり、これに関連した教材も市販でたくさんありますのでチェックしてみて下さい。シンセティック・フォニックスの読みの指導は、日本のように単語を文の中で出てきた順番に、丸ごと意味と一緒に暗記するという方法ではありません。また、a,b,cの順番で文字を学んでから単語につなげていくわけでもありません。いくつかの文字グループ(高頻度)を学ぶと、それらの文字を使ってできる単語をすぐに読んでいきます。たとえばs,a,t,pを学ぶと、sat,pat,tap,pasなどの組み合わせができますね。「そうか、読むって、こういうこと」と子どもは経験しながら、読める文字と単語を増やしていきます。副教材として、段階ごとの絵本やワークブックなども販売されており、全世界的に効果が認められていますので、シンセティック・フォニックスの指導法に初めてトライしてみたい方にはおすすめです。
音と文字をつなぐ―音韻認識と文字操作
- 教具名
- 読み書きが苦手な子どものための英単語指導ワーク
- 著者
- 村上加代子
- 出版社
- 明治図書出版
本書は、「アルファベットは覚えたけれど、単語が読めない」「単語は読めるのに、スペリングが覚えられない」という子ども向けの音韻認識指導とセットになった読み練習ワークブックです。シンセティック・フォニックス理論を下敷きにしているため、難易度と段階性が調整されています。
特徴は、「音韻認識の指導と文字の指導がセットになっている」「フォニックスを知らない先生でもできる」「子どもが段階的に読めるようになっていく」の3点です。
本書の構成では、まずアルファベットのチェックシートを使って、子どもにどれくらいアルファベットが定着しているか(音で読めているか)を確認します。アルファベットの1文字1音が定着していれば、2音素の音韻操作練習を行って、次に2文字の文字操作練習をします。それができるようになると、3音素の音韻操作をオンセットとライムという単位で練習し、同じように3文字の単語も操作するように読み・書きの練習があります。このように、本書では、まず日本の児童生徒が身につきにくい「英語の音韻の操作」を文字操作の前に練習することで、文字操作が楽にできるようにといった配慮がされています。その後、2文字で1音を表すダイグラフの組み合わせや、連続子音(子音が連続する)の単語の読み方、マジックeの単語へと続きますが、各章で到達チェックテストがあり、子どもたちが十分にその段階を習得したかどうかを確認しながら進むことができます。
先生ご自身が音声に苦手感がある場合、アプリを使った指導のヒントもありますよ。
アルファベットブロックを使った指導
- 教材名
- アルファベットのマグネットやカード(など)
「文字が読める」基礎練習で一番手軽ではないかな、と思われるのが、アルファベットのマグネットやアルファベットの形(型抜き)を使った文字の操作練習です。いろいろな素材のものがあります。
「ひらがな」を幼児がどのように練習しているかを想像してください。子どもは最初ブロックやカードに1つの文字が印刷されているものを手にしながら、「あ」、「か」と音声にしていきますね。
そして、それを並べて「あか」や「やま」など文字をつないで、発声する段階があります。その際には、かならずしも存在している単語だけではなく、いろんな文字を手にとってランダムに並べたものを音声化することもあるでしょう。たとえば「き」と「く」と「ん」を並べて、「きくん」という非単語(nonword, nonsense wordとも言います)を読むなど。これは、文字の操作であると同時に、文字に対応している音声をつないだり、入れ替えたり、といった音韻の操作練習でもあります。
初期の読み指導のポイントは、いきなり長い単語を作って「これはなんて読むの?」と読ませるのではなく、まずは母音を縦一列に印刷したものを作って、その母音の後ろに子音のブロック等を1つ選ばせ、「つないで読んでごらん」というところからはじめることです。上で紹介した『ワーク』と同様、まずは2文字が読めることが大切です。そしてその際には、母音の音声の違いにも耳を澄ませ、特に日本人の苦手な「あ」の音に聞こえてしまうu,o,aの口や舌の動きをYouTubeなどで一緒に見て「こういう風に舌が動くんだね」「息を出すんだね」など確認するのも良いでしょう。百聞は一見に如かずです。
アルファベットマグネットなどは、書くのが苦手な子どもへの聞き取り書き練習にも使えますし、さまざまなアクティビティが可能です。教室に1つあるととても便利です。
*URLや教材の情報は掲載時点でのものになります。