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【ワザ表】
国語授業における「ワザ表」の効果的な活用のワザを教えて下さい。
ココがポイント!
「言語活動あって学びなし」を回避! ユニバーサルデザインという意味も
「平成20年版小学校学習指導要領解説国語編」において「第1章総説」の下の「3 国語科改訂の要点」の「A 内容の構成の改善」には、次のように記されています(太字は引用者による)。
各領域では、国語の能力を調和的に育て実生活で生きて働くように、それぞれの領域の特性を生かしながら児童主体の言語活動を活発にし、国語科の目標を確実かつ豊かに実現できるようにするよう内容を改善した。そのために、各領域の内容を(1)の指導事項に示すとともに、これまでは内容の取扱いに示していた言語活動例を内容の(2)に位置付け、再構成している。これは、各学年の内容の指導に当たって、(1)に示す指導事項を(2)に示した言語活動例を通して指導することを一層重視したためである。
★「身に付けたい力」を可視化 「ワザ表」が教科書にも掲載されるように
このように、言語活動が重視されるようになりました。「国語の能力を調和的に育て実生活で生きて働くように」という意義があり、いわゆるPISA型読解(実際には「読解」だけではなく、リテラシー=「読み書き能力」全体に関わります)が求める国際基準としての「言葉の力」に対応するという意味を持っています。
言語活動を重視することは意義あることなのですが、「言語活動あって学びなし」という状態になってしまう危険性が高くなります。そこで、「身に付けたい力」を目に見える形にする「ワザ表」が活用・教科書に掲載されるようになってきました。
例えば、4年生教材「一つの花」(光村図書)の手引きには、「物語を読んでしょうかいしよう」という言語活動を行うための「ワザ表」と同じようなものが載せられています。
物語をしょうかいするときは、次の中からいくつかを選んで、話や文章を組み立てます。
・人物――行動や人がら
・出来事――ふしぎなこと、意外なことなど
・あらすじ
・心にのこる言葉や文
・作者
・作品のとくちょう――組み立てや表現、他の作品とのちがいなど
・作品のひょうばん
・感想や考え
★言語活動の観点を可視化する「ユニバーサルデザイン」的配慮
今、「ユニバーサルデザイン」としての授業が求められています。クラスの中のすべての子どもにとってわかりやすい授業を行うこと、特に、特別な支援を要する子どもに配慮した授業づくりをしていくための工夫を凝らすことが重視されています。「ワザ表」は、言語活動の観点を目に見える形にする(可視化)という意味において、「ユニバーサルデザイン」的な配慮を実行していると言えましょう。
効果抜群! 堀江式 大ワザ&小ワザ
ワザ1 言語活動で身に付けた「言葉の力」を「ワザ表」によって目に見える形にする
下の画像は、2年生による「読書しょうかいカード」を書くという言語活動の中で生み出されたカードです。【芦田多恵子先生(兵庫県豊岡市立八代小学校)による授業実践より。】
「*人とどうぶつのこころのつながりが分かる本 〇読書しょうかいカードを書きましょう」という言語活動が設定され、この学習者は1年生の教科書教材(光村図書)でもある「ずーっとずっとだいすきだよ」(教科書では「ずうっとずっとだいすきだよ」)を紹介しています。
「読書しょうかいカード」においては、〈本のだい名〉〈さくしゃ〉〈しゅっぱん社〉〈とうじょう人ぶつについて〉などの情報を書き入れる欄のあとに、二つの枠が用意されています。最初の枠には〈あらすじとさし絵について〉述べ、後の枠の中には〈お気に入りのところと感想〉をまとめています。
この「読書しょうかいカード」をしっかりと支える形で、学習者と一緒に作り出した[お話の 楽しさを つたえる ワザ]が載せられています。注目したいのは、「読書しょうかいカード」の記述と「ワザ表」の項目とが線によってつながれているところです。
例えば、「あらすじでは、エルフとぼくは小さいころからいっしょで、エルフがしんでしまった心のつながりがわかるお話です。」という記述と、「ワザ表」の「Fあらすじ・・・みじかく、分かりやすく いつ、どこで、だれが、どうして、どうなった できごとなど(5W1H)」が線によって結ばれています。その他、【お話の さし絵】【お気に入りの ところ】「P考えや かんそう」なども記述と線によってつながれています。
「読書しょうかいカード」を書くという言語活動において、自分がどのような「言葉の力」を身に付けたかを目に見える形で確認するという意味を持っているのです。
ワザ2 「ワザ表」は、付けたい力表・付けた力表・伝え合いの観点表の役割をする
次の画像は、説明文教材「すがたをかえる大豆」(光村図書3年下)の言語活動の成果「すがたをかえる( )図鑑を作ろう」の下書きメモです。【三木惠子先生(兵庫県たつの市立小宅小学校)による授業実践より。】
ここでも「すがたをかえる牛乳図鑑を作ろう」をしっかりと支える形で、「すがたをかえる大豆」の本文の特徴を踏まえた[説明文を書くためのワザ]が活用されています。
やはり、記述と「ワザ表」の項目とが線によってつながれています。
「ワザ表」は文章を書くときには、どのような観点を使って書くかということのヒント、つまり「身に付けたい力表」の役割をします。
また、文章を書いた後、記述と「ワザ表」の項目を線でつなぐことによって、「身に付けた力」を明確にする役割を果たします。自分がどのような工夫を凝らして書いたかということを「メタ認知」する場となっていると言うことができましょう。
さらに、この原稿の中央の下のところに「文章と主語が上手」、最後に「おわりかたがいいね」と書かれています。これらは、学級内他者からの「ほめほめ伝え合い」の成果です。つまり、「ワザ表」は伝え合い活動を行う際には、「伝え合い観点表」としての役割を持つのです。
ワザ3 「ワザ表」のワザは固定されたものではなく、追加され進化していく
学習成果例の「ワザ表」の最後に【共感のワザ】という項目が付け加えられているところに注目しましょう。「牛乳がこんなにへんかしているなんてすごいですね。」と書いたところから、新しいワザとして【共感のワザ】が生み出されています。
「ワザ表」のワザは固定されたものではありません。言語活動の中で新たに項目が追加され、「ワザ表」は進化していくのです。
教師の学習指導のワザとして、「ワザ表」を活用した工夫を凝らしていただければ幸いです。
※今回をもって「堀江式 国語授業のワザ」の2年間の連載を終えることになりました。多くの方々からのコメントに支えていただき、連載を続けることができました。授業実践の成果を紹介させていただいた先生方、コメントを記入して下さった方々、読んで下さった方々に、心より感謝申し上げます。
人が集まるところに「文化」は生まれます。個性的でしかも指導事項でもある学級文化を、全国の学級で生み出してほしいものだと思っています。堀江先生の次回の連載が企画されたらいいなと楽しみにしています。