フル・インクルーシブ教育の学校&授業づくり
インクルーシブ教育の最先端の研究を担う,東京大学大学院教育学研究科と大阪市立大空小学校の取り組みを紹介。
フル・インクルーシブ教育の学校&授業づくり(6)
チームで動く1 担任ではなく担当
大空小学校教諭徳岡 佑紀
2018/11/20 掲載
  • フル・インクルーシブ教育
  • 特別支援教育

 大空小学校では「担任」ではなく「担当」という言葉を使っています。それは、教職員がチームとして子どもと関わる姿勢のあらわれだということを、大空小学校の徳岡先生が語ってくださいます。

 「チーム大空」。私たちは、普段から「チームで」という言葉をよく口にします。大空小に来た7年前、私が最初にすっと自分の中に自分のものとして受け入れた言葉です。転勤してきたメンバーに対して行われた研修会で、先輩が「ここ(大空)にいる大人全員が、チームで子どもを見ている。しんどいときは力を借りる。誰かが助けてくれるということがとても安心する」と伝えてくれました。そして、「今までやってきたことが一切通用しない子どもたちに出会ったときには、一回あきらめて、みんなでもう一度考え直し…」と、失敗談も伝えてくれました。大空に来るまでの4年間という経験で『1人で、どうにかしてクラスをみないといけない』という思いをもち、しんどい時期もあった私には、とても衝撃的でした。ご自身の失敗談を笑顔で話をしている先輩をみて、「ここは、ありのままの自分でいられるところなんだ」と、安心したことを覚えています。
 それから、毎日のように耳にする「チームで」という言葉。ただ、「チームがなにか。どういうことか」というのを教えてもらったことはありませんでした。私が「チームの意味」を知ったのは、毎日の子どもに関わる大人たちの姿や、子どもたちのことを大切に思う大人たちの姿からでした。

 大空では、毎朝、職員朝会をしています。その中で、一番大切にしているのは「子どもの共有」です。友だちとの関係で悩んでいたり、家で困ったことがあったりするなど、気になる子どもの情報をみんなで共有します。1人の子どもの今の課題やしんどさを知ることで、全員の大人で声かけをしたり、変化を見つけたりできるからです。
 1人なら、見落としてしまうかもしれないことも、誰かがキャッチできるかもしれない。みんなに見守られていると実感できれば、子どもは不安をなくし、安心感をもつことにつながります。

 階段や廊下を歩いていると、個性豊かな子どもたちと出会います。ある日、「ぼけー!」と友だちに向かって叫んでいる子どもに出会いました。最近、大空小の「たった一つの約束(自分がされていやなことは 人にしない・言わない)」を、何度も守れずにいる子どもでした。そのことは、職員朝会や放課後の職員室で耳にしていたので、「なんで、そんな大声でぼけーって言ってるん?」と聞きました。初めは怒ったままでしたが、話をしていくうちに、表情も変わり、「自分でも最近の自分に困っている」と話し始めたので、私も自分の考えをその子に伝えました。すると、約束をやぶってしまった相手のところへ走っていき、「ごめんなー!!」と気持ちを伝えていました。私がいる場所からは距離がありましたが、その声は確実に聞こえていました。そして、自分から「やり直し」(「やり直しの部屋=校長室」で自分のしてしまったことを伝え、これからどうするのかを宣言する)に行ったのです。
 もちろん、この話は他のたくさんの大人たちとも共有しました。もし、担任だけが関わり、「クラスのことはクラスでするので」という大人がいれば、そのときのその子の自分自身と向き合う瞬間はなかったと思います。大空では誰もが同じように、その瞬間を大切に子どもと関わっているのです。

 私たちは、休み時間や放課後に学年に関係なく、子どもたちの話をよくしています。うまくいかずに困っていることや、ものすごく頑張っていたことや、話題はその時々で違って、内容は尽きません。2人で話をしていても、次々に話の輪が広がります。明日の作戦を一緒に考えたり、時には大爆笑したりして、それがいつものにぎやかな当たり前の大空の職員室です。
 ゲストの方に「先生方の…」と言われることがありますが、私たちは「教職員です」と言い直します。学校にいるすべての大人が子どもに関わっています。ある瞬間には、管理作業員が子どもと手をつないで歩いていることもあり、その時間は、きっとその子どもにとって落ち着ける時間になっていたのだと思います。「チーム」というのは教員だけでなく、職員も含め全教職員で「チーム」です。
 「1人でどうにかしよう、どうにかしないといけない」と考える必要はないのです。自分が困っているときは誰かの力を借り、誰かが困っているときには自分が力を貸す。それが結果「チーム」をつくることになり、子どもが安心していられる場所になっていくのではないでしょうか。そして、その「チーム」の中心にはいつも子どもがいます。
 1人で40人をみるのではなく、10人で400人をみる感覚がチームには必要です。1人に任せるのではなく、あくまでクラスの「担当」であることから、大空では「担任」とは言わず「担当」と言っています。子どもが安心して自分らしくいられる居場所をつくるための「チーム」であるなら、その「チーム」をつくる私たちが、安心して自分らしくいられること。そのような居場所を今後もつくり続けます。

まとめ

  • まずは自分が1人の人として周りの人とつながり、信頼関係をつくっていける人であり続けたいです。そして、子どもが安心して自分らしくいられる居場所を「チーム」でつくり続けます。

徳岡 佑紀とくおか ゆき

大阪市出身
1984年6月7日生
武庫川女子大学短期大学部健康スポーツ科学科卒業後、編入
武庫川女子大学文学部教育学科卒業
平成20年 大阪市立小学校に採用される
平成24年 大空小学校に赴任

(構成:赤木)
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