- 著者インタビュー
- 道徳
1991年、当時の文部省は「不登校は誰にでも起こりうる」というコメントを発表しました。その頃、対人関係をうまく築くことができない、学級に適応することができないなどの子どもが増えているという問題が指摘されていました。このような状況に対して、学校関係者は対処療法的な対応だけでは問題は解決しないと考えるようになりました。
そこで、予防・開発的なカウンセリングの立場からソーシャルスキル教育を行う取り組みが始まりました。ソーシャルスキルとは、対人関係技能や人付き合いのコツと訳されます。子ども達が、対人関係を築き、維持していく力を身に付けさせることがソーシャルスキル教育のねらいです。
ストレス社会です。ストレスが高まると、攻撃的になります。子ども達の身の回りには、「キモイ」「ウザイ」「バカ」など攻撃的な「冷たいメッセージ」があふれています。
「温かいメッセージ」が少なくなったというよりも、子ども達の生活の場に「冷たいメッセージ」が多くなるスパイラルが成立していると考えています。
子ども達は、身の回りのモデルからソーシャルスキルを学習します。このような、スパイラルを断ち切るためにも今、「温かいメッセージ」を強く意識することが大切なのです。
【イラスト版】
「温かいメッセージ」と「冷たいメッセージ」が相手に与える影響を対比させながら理解することができます。言葉とそれを伝えているときの表情や態度などもイラストによってつかむことができます。モデリングのために全体像をつかんだり、モデリングを提示した後に子どもたちと確認したりするときに活用します。
【台詞版】
教示、モデリングの後、リハーサルでロールプレイを行うとき、台詞として活用します。ペアを組んで、シナリオに沿って「温かいメッセージ」を伝える練習をします。台詞だけがすっきり並んでいた方が練習しやすいでしょう。
【ソーシャルストーリー版】
「温かいメッセージ」と、「冷たいメッセージ」の二つの異なるメッセージの結末はまったく違ったものになります。ソーシャルスキルがもたらすソーシャルストーリーを学習するために活用します。但し、冷たいメッセージを考える作業は絶対させないでください。不快な体験は定着化の妨げになります。また、不適切なスキルの学習が成立してしまいます。
新学習指導要領では、特別活動の中で「望ましい人間関係を形成する力」が強く求められています。特に、学級活動等で「社会的スキル」を身に付けさせることが強調されています。
ソーシャルスキル教育については、その必要性を感じている学級担任が単独で実施しているのが現状だと思います。しかし、例えば5年生で「温かいメッセージ」を学習した子ども達が、一歩廊下に出た途端に6年生が「うぜーな」などという言葉を投げかける環境があったとしたら、学習したスキルの般化は期待できません。
ソーシャルスキルを集団で学ぶということは、新しいスキルを獲得するというより、今あるスキルを意識し、そのスキルを共有することに意味があります。共有の枠は、学校規模であることが望ましいと思います。
子ども達が教えてくれたことがあります。それは、「温かいメッセージは言っても、言われてもいい気持ち」ということです。
「友達をほめたら、友達がニコニコしてとてもうれしそうだった。その笑顔を見て私もうれしくなった。」
温かいメッセージは伝えられた人だけでなく、伝えている人もいい気持ちになることを、体験を通して子どもたちが教えてくれました。ですから、2倍の厚みで、学級内にほのぼのとした温かい雰囲気が広がっていきます。
このシナリオ集を利用して、多くの子ども達に「温かいメッセージ」の大切さを伝えてほしいです。そして、先生方、保護者の方にも、自分のソーシャルスキルとして「温かいメッセージ」を意識していただければきっと負のスパイラルが変わっていくと思います。