著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
子ども達と信頼関係を築く造形活動をしよう!
四天王寺大学専任講師今井 真理
2009/4/10 掲載

今井 真理いまい まり

四天王寺大学専任講師。愛知教育大学大学院教育学研究科芸術教育専修修了、立命館大学大学院先端総合学術研究科先端総合学術専攻博士課程修了、学術博士。トヨタ自動車(株)本社デザイン部に正社員として勤務後、名古屋短期大学、国立長寿医療センター等を経て、現在四天王寺大学に専任講師として勤務。専門は美術教育、幼児の造形表現、アートセラピーなど。
〔単著〕『保・幼・小連携!楽しく遊べる造形表現78選』(明治図書)、『芸術療法の理論と実践―美術教育との関わりから―』(晃洋書房)他
〔共著〕『絵の指導がうまくいくヒント&アドバイス』(ひかりのくに)他多数

―造形活動の指導というと、よい作品に仕上げさせることばかりに気がいってしまいがちです。しかし本書では、作品の完成度だけではない造形活動の魅力を生かした指導のスキルが紹介されているようですね。

 造形表現は本来、子どもの情緒を安定させたり、その成長を促したりする大切な役目をも担うものと考えております。しかしこのご時世からでしょうか、指導者は、コンテストの入賞率や指導力を同僚と比較したり、保護者の目を意識しすぎたりするなど、どうしても目先のことばかりに気をとられがちになっている気がします。その結果、作品の完成度ばかりを最重要視しがちになってしまうのです。このような環境が年々増加傾向にあるためか、活動意欲が低下した作品や、制作に対して関心のない作品が近年は多く見られるようになってきました。これでは造形活動の本質を捉えることができないのではないでしょうか。
 そこで本書では、一人ひとりの子どもの成長を大切に見守ることや、指導者が子どもと積極的にコミュニケーションをとることを意識して造形活動が展開できるような指導のスキルを紹介しました。

―造形が苦手な先生も意識して執筆されたとのことですが、どんな工夫をしましたか?

 幼稚園や保育園、小学校の先生方の中には、造形活動や図画工作など芸術活動自体に対して苦手意識をお持ちの先生が多いと認識しております。指導する側が苦手意識を保持したままですと、その心が子ども達に伝わってしまうものです。本書では、描画材料の紹介から指導過程にいたるまで、イラストや写真を多用するなど視覚的に重視した構成とし、使用する言葉もなるべくわかりやすいものと致しました。また、今更聞けないが指導する上では大変重要になってくるような指導者の悩みを、コラムのコーナーにQA形式で盛り込みました。

―本書には22の造形活動の題材が紹介されていますが、どのような視点からこれらの題材を選びましたか?

 造形活動に苦手意識のある先生や指導に対して自信がない先生方には、指導する教員も子ども達と一緒になって楽しめる造形活動として、そしてベテランの先生方には、その活動を通して更に奥深く展開できる内容となるような題材を選択してみました。
 一般的な図画工作の指導書と異なる点として、本書は海外の小学校で実践されているような斬新な活動を盛り込むなど、他とは異なる新しい視点を取り入れており、その活動内容にもさまざまな工夫がされています。

―本書では、芸術療法のためのプログラムも収録されています。障害のある子どもたちにとって、造形活動はどんな効果があるのでしょうか?

 私自身の主なる専門として芸術療法の研究がございます。その内容の一部を、情緒不安や発達障害のある子ども達への芸術療法の実践指導という形にて本書に書かせていただきました。詳細は本書をご覧いただきたいのですが、情緒不安や障害のある子ども達は言葉で表現することが困難な場合が少なくありません。そのため、周囲にいる者はその対応に疲れ果ててしまうことが多いのです。そのような中、造形表現はノンバーバルコミュニケーション(非言語的コミュニケーション)としても大変重要な役目を果たすことができると考えております。彼らの表現する造形作品は、彼ら自身の心の底から奏でる重要なメッセージです。そのメッセージを理解して受容してあげることが、彼らとの円滑なコミュニケーションに繋がり、ひいては、潜在能力を伸ばす助けになるのです。

―これから造形活動に取り組んでみようという先生方に、是非一言メッセージをお願いします。

 造形活動が苦手な先生方は、おそらくご自身の受けてきた造形教育によって苦手意識を持たれてしまっていることがおおいに考えられます。そう考えると美術教育に携わってきた教育者にも責任があるわけですが、少しだけ視点を変えていただき、一度深呼吸されて子どもと共に自身も楽しむことを前提に本書をご覧いただければと思います。
 本書との出会いが、先生方にとって何らかの新しい展開へと繋がっていかれることを願います。

(構成:木村)

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