著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
自分なりに判断・行動できる思考ネットワークを
研究集団「ことのは」代表堀 裕嗣
2012/11/27 掲載
 今回は堀裕嗣先生に、新刊『スペシャリスト直伝! 教師力アップ成功の極意』について伺いました。

堀 裕嗣ほり ひろつぐ

1966年北海道湧別町生。北海道教育大学札幌校・岩見沢校修士課程国語教育専修修了。1991年札幌市中学校教員として採用。学生時代,森田茂之氏に師事し文学教育に傾倒。1991年「実践研究水輪」入会。1992年「研究集団ことのは」設立。著書に『学級経営10の原理・100の原則』『生徒指導10の原理・100の原則』(以上、学事出版)、『必ず成功する「学級開き」魔法の90日間システム』 『必ず成功する「学校行事」魔法の30日間システム』(以上、明治図書)などがある。

―本書は、5つの章で構成されています。1章では「教師の資質」として「いつも笑顔」「孤独に耐える力を持つ」といった目指すべき5つの資質について書かれていますが、「孤独に耐え、笑顔でいられる」発想法としてあげられている「明後日の思想」について教えて下さい。

 辛いこと、苦しいことがあると、人は「いま」に縛り付けられます。いまの辛さ、苦しさをどうすれば避けられるか、どうすれば逃げられるか、そればかり考えます。いいえ、そんなことさえ考えられずにもがき苦しむことさえ少なくありません。教師も学級崩壊の渦中にあるとき、或いは執拗な保護者クレームに晒されているとき、そんな状態になります。でも、そういうときには5年後の自分、10年後の自分がこの出来事をどうとらえているだろうかと想像してみてはどうだろうか。きっと、あれば自分にとって必要な経験だったと成長の糧にしているのではないか。もしかしたら、もう笑い飛ばせているかもしれない。そんな発想で「いま」を見つめてみると、「いま」の辛さ、苦しさの見え方もきっと変わってくるのではないでしょうか。今日のことでも明日のことでもない、明後日のことを考えながら「いま」を生きてみよう、そんな思想ですね。

―2章では子どもや保護者との接し方に代表される教師の姿勢・心構えについてまとめられています。この中で「自己キャラクターの分析」の必要性について述べられていますが、この点について教えて下さい。

 教師にはそれぞれのキャラクターがあります。見かけが怖そうとか優しそうとか、声のトーンが高いとか低いとか、毒舌が似合うか自分を落とすのが似合うかとか。もちろん性別や年齢でもキャラクターは変わります。怖そうな雰囲気の先生が怒鳴ることと優しそうな雰囲気の先生が怒鳴ることとでは、その効果は異なります。年配の先生に慰められるのと若い先生に慰められるのとでも、その効果は異なります。あたりまえのことなのですが、教育界では意外と意識されていません。まずは自分のキャラクターがどのように子どもや保護者に受け止められているのか、それをよく分析する必要があるのです。教育技術を使うにも、指導方法を考えるにも、自分のキャラクターに合ったものを用いるのが最も効果を発揮するのだと考えています。

―3章ではコミュニケーションの極意についてまとめられています。対子どもだけでなく、同僚である先生とのコミュニケーションで悩む先生も多いようですが、同僚との関係づくり、仕事の進め方のポイントは何でしょうか。

 一つは、適度な距離を意識することですね。遠すぎてもダメですが、べったりと近すぎてもダメです。人間関係のトラブルというのは適切な距離から逸脱しているときに起こりますからね。
 もう一つは、いつも上機嫌でいることでしょうか。対子ども、対保護者、対同僚……。常に上機嫌で接していれば、そうそう問題は起こらないものです。問題はいつも上機嫌でいられるような生活を創造していくことですね。全人格的な努力も必要かもしれませんし、時間に追われて焦ることのないように仕事術も身につけなければなりません。そんな生活サイクルのことまで考えたうえで、敢えて「上機嫌でいること」と言っています。

―4章では「教師の成長」、5章では「教師の表現」をテーマに、力量アップのポイントをまとめられています。保護者相手の自己紹介やスピーチ例も豊富にあげられていますが、相手に伝わる“魂の載った言葉”を語るには、どのようなことが大切でしょうか。

 簡単に言えば、自身の経験を語ることですね。それも、だれもが経験しているような日常的な話題をちょっとしたユーモアで包み込む、それがコツですね。スーパーマーケットでの買い物で、通勤の電車の中で、休日の公園で、ちょっとだけまわりの人たちを観察しながらネタを収集すると良いです。意外と人間っておもしろい動きをしているもので、いろんなことを考えさせてくれます。

―最後に、読者の先生方へメッセージをお願いします。

 この本は教師力を高める筋道を提示しているわけではありません。私はこんなふうに考えています。教師として生きるうえでのいろんな領域がこんなふうに結びついて、仕事上の思考ネットワークが頭の中に形成されています。みなさんも、ご自身独自の思考ネットワークをぜひつくってください。そうすれば、仕事をするうえで戸惑ったり迷ったり悩んだりということが減って、様々な事柄に対して自分なりに判断して行動できるようになりますよ。そんな思いを込めて書きました。御批正いただければ幸いです。

(構成:及川)

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