著者インタビュー
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道徳では、子どものよさを認める評価を!
國學院大學人間開発学部初等教育学科教授田沼 茂紀
2016/2/5 掲載

田沼 茂紀たぬま しげき

1955年、新潟県生まれ。上越教育大学大学院学校教育研究科修了。國學院大學人間開発学部初等教育学科教授。専攻は道徳教育、教育カリキュラム論。神奈川県川崎市公立学校教諭を経て高知大学教育学部助教授、同学部教授・同学部附属教育実践総合センター長。2009年4月より現職。

―道徳の教科化が決定し「評価」が注目を集めています。一部では、「心を評価してもいいの?」という声もあるようです。まず初めに道徳の「評価」とはどのようなものか教えていただけますか?

 道徳教育や「特別の教科 道徳」で何よりも大切にしなければならないのは、子ども一人一人の生き方のよさを肯定的に認め、励ますことです。ですから、他者と比べたり、集団の中で序列化したりといったことは、道徳科授業の対極にある考え方です。道徳科授業においては自分の生き方についての学びのよさを、学校教育全体を通じて行う道徳教育では自分の道徳的な立ち振る舞いのよさをきちんと知らせ、さらに高まろうとする意欲を引き出すことが何よりも大切です。

―1章では、「特別の教科 道徳」の評価の考え方や方法が取り上げられています。教科化となり、道徳の「評価」は何が変わったのでしょうか。

 「道徳の時間」が「特別の教科 道徳」=道徳科になったからといって、その評価の意図に変化が生じたわけではありません。もしこれから「特別の教科 道徳」として考えなければならない課題があるとするなら、「指導と評価の一体化」を実現していくということです。タイトな教育課程の中で、唯一、教師と子ども、子ども相互が胸襟開いて自らの生き方について語り合うことができる貴重な時間こそが道徳科授業です。ですから、その時間を通じて子どもたちにどのような道徳的資質・能力を養うのか、何をどのような手立てで培っていくのか、これを明確にした授業展開をしていくことがとても大切であると思います。つまり、子どもたちが自らのあり方や生き方のよさを、このように自覚して高めることができた、と具体的に明らかにしていくことこそ、「特別の教科 道徳」の評価でこれから重視していくべき事柄です。

―2章では、定番教材を活用した「特別の教科 道徳」の授業が16事例掲載されています。その中では、役割演技での見取り、ワークシートの活用など、様々な評価のアイデアやポイントが明示されています。田沼先生は、授業でどのように子どもの成長を見取っていけばよいとお考えですか?

 定番と呼ばれる道徳教材は、多くの授業実践を経て活用され続けている教材です。よって、その教材の活用の仕方も多様です。多様な活用方法で支持され続けてきた定番教材は魅力的であるに違いありません。そして、子どもたちのどのような能動的・主体的・協働的な学び、つまりアクティブ・ラーニングを構想することが可能かと考えたとき、具体的な授業アイデアが生まれやすいことも事実です。道徳教材を通して活動の間口を広げてあげることで、子どもはもっと高まりたいと自らを語り出します。そのときこそ、子どもの道徳的学びの評価も多様に見取ることができるはずです。

―3章では、通知表の記入文例が学年ごとに掲載されています。今後、通知表に道徳欄が設けられ、記述式評価がスタートすると言われていますが、記入の際に気をつけたいことは何でしょうか?

 道徳科での授業評価のポイントは、子ども自身の納得です。教師がいくらありきたりのほめ言葉を並べても、そこで自分がどう道徳的な問題を受け止め、考え、納得解として導き出したのかということを一番知っているのは子ども自身です。ですから、肯定的な自己評価を道徳科授業評価ではベースに置かなければならないのです。ポートフォリオ評価として継続的に収集した学習成果を自らの道徳的パフォーマンスとして振り返ったときに、その学びはどうであったのかを一番知っているのは子ども自身です。ですから、個人内自己評価という視点から学びのよさを見取り、子ども自身が納得できる学びの一場面を賞賛してあげることが道徳科授業評価では何よりも大切なのです。そうでなかったら、子どもは教師を信用しません。真摯に子ども一人一人の学びを見付けませんか。

―最後に、「道徳の評価を勉強しよう!」「特別の教科 道徳の授業を始めよう!」と本書を手に取られた読者の方にメッセージをお願いします。

 道徳科は決して難しいものではありません。教師が学びの内容を教えるという教科教育のしばりが適応されないのが「特別の教科 道徳」なのです。教師と子ども、子どもと子どもがその授業で取り上げる内容項目を窓口に、互いが心を開いて語り合い、自らの道徳的価値観を問い直すことにこそ道徳科授業の最重要な目的があるわけです。教師は子どもに教え、子どもは教師から何らかの道徳的知識を教授されるという、「教え教えられる関係」を「共に学び合う関係」へと発想転換するところにこそ、「道徳の時間」が「特別の教科 道徳」に移行した教育的意義があるのだと理解しています。このような従来から疑いもしなかった教師と子どもとの「教育的関係」を問い直す機会をもたらしてくれたのが、この「特別の教科 道徳」=道徳科授業であると考えています。ですから、教師自身が自らの教職専門性を問い直し、反省的実践家として自らを高めるための35時間と考えてみてはいかがでしょうか。共に学んで参りましょう。

(構成:茅野)
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