著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
専門性と人間性を兼ね備えた数学教師になろう!
国立教育政策研究所学力調査官新井 仁
2016/2/23 掲載
 今回は新井仁先生に、新刊『中学校数学の授業づくり はじめの一歩』について伺いました。

新井 仁あらい ひとし

1965年 長野県生まれ
1989年 東京学芸大学初等教員養成課程数学科卒業
1989年 諏訪市立上諏訪中学校
1993年 安曇村立大野川中学校(現松本市)
1997年 真田町立真田中学校(現上田市)
2001年 信州大学教育学部附属長野中学校
2004年 長野市立柳町中学校
2012年 国立教育政策研究所教育課程研究センター

所属学会 日本数学教育学会

―新井先生は、課題(めあて)を提示するとき「生徒にとっての課題になっているかどうか」を吟味することが大切であると述べられています。教師の独りよがりな課題にならないようにするためには、どんなことを意識すればよいのでしょうか。

 「何を学んでほしいのか」「どんな問題(場面)を与えるのか」をしっかり考えることが何よりも大切だと思います。
 生徒はその問題についてどのように解決すればよいのかを考え、悩みながら何かに着目して解決の糸口をつかむはずです。そして「よし、この方法でやってみよう」となったとき、生徒にとっての課題(めあて)が据えられるものだと思います。
 このようにして学んだことは、事後の学習において困ったときに立ち戻れる拠り所にもなるものだと思います。

―本書の中で、新井先生は、生徒の実態を把握し、個に応じた指導・評価をするために、授業記録を残すことを勧めていらっしゃいます。毎時間克明に記録を残すことは難しいと思いますが、先生はどのような工夫をしてこられましたか?

 座席表が便利です。記録する際、個人追究の記録と発言の記録は何らかの記号や色で分けると、後で確認しやすくなります。また発言には、その順序がわかるように番号を付けることが大切です。あるいは、教師の発話も含めて時刻を付記しておくことも考えられます。授業を終えて時間に余裕がある場合は、記憶が新鮮なうちに補記することも心がけましょう。座席表型の授業記録は、評価補助簿としても重宝します。
 なお、授業記録用のソフト(レッスンノート)もあります。研究授業で使うことが多いですが、自分の授業の記録にも重宝します。

―新井先生は予習を課すことを重視されていますが、予習をしてきた生徒がいきなり結論を述べてしまい、教師の思惑通りに授業が進まないことも考えられます。そういったことも踏まえて、予習をどのように位置づけて授業をつくればよいのでしょうか。

 予習をしてきた生徒だからこそ知的好奇心を刺激され、興味をもって考えることができる授業が理想だと思います。教科書の内容を予習してきた生徒がいると困るのであれば、教師が教科書に書いてあることを伝達するだけの授業をしているということになります。それでは残念です。教科書の行間にどのような数学的価値があるのかを把握し、授業を行うことが大切です。
 生徒に予習をどのように課すかというよりも、予習してきたからこそ楽しめるような知的な授業を行えば、生徒は自ずと自分で教科書を開くようになると思います。

―本書8章の章題にもあるとおり、プロの数学教師なら、「教材研究の腕を磨く」ことにはこだわりたいところだと思います。そこで、新井先生ご自身が教材研究の腕を磨く中でこだわってきたことを教えてください。

 身の回りの事象、目に入るもの(生活用品、建造物など)について、常に「どういうことだろう」「どうしてこんな形をしているのだろう」などの視点で見るようにしています。…というか、そういう癖が身についています。
 また、何か使えそうなものに出会った場合、写真を撮るようにしていて、これは大きな財産になります。おもしろそうな場面に出会ったとき、「このおもしろさを生徒に伝えたい!」と感じるもので、これが魅力ある授業を行う原動力に他なりません。もちろん、生徒の実態に応じて教材化するという意識も必要です。

―最後に、読者の先生方へメッセージをお願いいたします。

 数学教師であれば、学生時代に少なからず数学が好きだったり得意だったりしたはずです。そこには、数学そのものに対する魅力だけでなく、教えてくださった先生の人間としての魅力もあったのではないでしょうか。
 中学校の数学教師も、専門性を備えているのみならず、人間としての魅力がなければいけないと思います。それは言い換えると、「生徒を大切にする」ということです。このことは、本書の冒頭で紹介した「教師十戒」に集約されています。
 高い専門性に基づく知性と、人間性としての魅力を兼ね備えた教師であり続けたいという気持ちを大切にしましょう…、お互いに。

(構成:矢口)
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