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カリキュラム・マネジメントという言葉自体は、全学習指導要領のもととなる「中央教育審議会答申」からあります。しかし、今回の学習指導要領の位置づけは全く違います。一言で言えば、中心概念と言えるでしょう。
今までの学習指導要領でも、様々な表現で「生きる力」が必要であることを強調してきました。今回の学習指導要領は「主体的・対話的で深い学び」という表現を使っています。しかし、表現は変わっても、それらは子ども達の生きる世界が大人達の生きた世界と違うことを意識した危機感に由来することは同じです。
今回の改訂の特徴は、少子高齢化社会という現状から「待ったなし」であるという強い危機感にあります。大人達は大人達の生きた世界を前提に教育します。仕方のないことです。だから、まずはごく少数の教員からでも理解し、実践してもらい、それを広げることが必要なのです。それがカリキュラム・マネジメントなのです。
「生きる力」が、週に1時間の総合的な学習の時間や特活で獲得できるわけはありません。様々な教科で実践されなければなりません。ところが先に書きましたように、新しい教育の考え方、それに基づく実践を全ての人が理解出来るわけがありません。おそらく、全教員の1割か2割程度でしょう。それでは教科担任制の中学校、高等学校では特定の教科で実践されて、多くの教科では実践されないことになります。学級担任制である小学校でも教科部会制があり中学校、高等学校に似たような状況です。これを打開するには、「生きる力」を獲得できる実践を、他教科の教師に伝えなければなりません。
アクティブ・ラーニング(学習指導要領の表現であれば主体的・対話的で深い学び)は多様です。大きな本屋に行けば実に多様なアクティブ・ラーニング本があります。
しかし、その中で様々な教科で同じ理論、同じ方法論で一貫しているものがどれほどあるでしょうか?また、それを具体的に実践するとき、どのようにすべきかを示す本がそろっているものがあるでしょうか?
お叱りを覚悟で申したならば、『学び合い』(二重カッコの学び合い)だけだと思います。
もし、同じ理論、方法論に立脚しない教師が授業を語り合っても、表面的な教具の理法方法レベル以上の交流は出来ないと思います。
子どもの変容は『学び合い』の実践と同じです。人間関係が向上し、学力格差が縮まります。全校『学び合い』の特徴は、人間関係作りの下手な子の関係づくりの進展が特徴です。同学年は長年のつきあいで「あの子は○○な子」というラベリングがなされています。それが人間関係作りの障害になっています。異学年で学び合うとそれを乗り越えやすくなります。
実は、教師も同じです。学校には様々な問題を抱えています。個々人の教師も様々な問題を抱えています。それを乗り越えるオールマイティの方法があるとしたら、チーム力です。子どもの姿をともに語り合うことが最も確かな方法です。
ありません。と、同時に、全てです。
『学び合い』はもの凄くシンプルな理論と方法論に基づいています。従って、それを基本として様々な人が様々に実践することが可能です。従って、読み手が自分の実践を生み出せばいいのです。
ただし、注意があります。ここで紹介している方々は『学び合い』をある程度実践し続けた方々です。その方法をそのまま使うことは薦めません。剣道を学ぶにはまずは素振りから、テニスは壁打ち、柔道は受け身のように初心者が最初にやるべきものはあります。それを省略すれば多くの場合は学べません。
だから、これから始める方は、私の書いた他の本などを参考にして、まずはその通り実践することを薦めます。
個人としての教師、また、学校は様々な課題を抱えています。それらにオールマイティの処方箋はありません。もし、あるとしたら職員集団がチームになって、一つ一つの処方箋を協働で生み出すしかありません。
では、職員集団がチームになるベースは何でしょうか?
私は総合的な学習の時間でもなく、道徳でも無く、進路指導でもないと思います。それは教科学習だと思います。理由は二つです。
第一は、結果が分かりやすく、高頻度で評価可能である点です。総合的な学習の時間、道徳、特活などは、ハッキリとした評価が難しい。その結果評価が甘くなる危険性があるからです。
第二は、時間数です。学校教育の多くを占めているのは教科学習です。だから、それをベースにすべきなのは当然です。
意外に思われるかもしれませんが、学習指導要領には学校現場を縛る力はありません。文部科学省が持っている権力は予算と人事に限ってです。学習指導要領に何を書いても、何を書かなくても、どれだけやるか、やらないかは、個人の教師が決めることが出来ます。
でしょ?
学習指導要領で示されるのは方向性です。私はその方向性は正しいと思っています。その方向性に進まなければ、目の前の教え子は餓死、孤独死に進むと信じています。これは額面通りに信じています。だから前に進みましょう。それも一人ではなく、カリキュラム・マネジメントによって職場のみんなと。