- 著者インタビュー
- 学習指導要領・教育課程
本書のねらいは「次期学習指導要領の基本的性格、とくにその目指すところを理解すること」です。それによって、実際の授業にその趣旨が明確に反映されることを願っています。したがって、読み方としては、まずI章の関係する部分の本文を読み、その意味が分からないと感じたところについて、II章の対応する専門家の先生方の解説の部分を読むと、時間もかからず、分かりやすくなるでしょう。
「資質・能力」が強調されたのは、従来の学習指導要領では「教育内容」とくに「各教科等」の「内容」の項目で、「何を」教えればよいのかに教員の関心を向けさせているので、それを大きく変えて、「目標」の方で「何ができるようになるか」に直接的関心を持ってもらいたいとの趣旨から、「育成すべき資質・能力」へと教員の意識を向けさせるためだったのです。そのために、各教科の「見方・考え方を使い」「○○の活動を通して」それを育てる、という構造的な示し方をしています。これはややパターンに流れる心配がありますので、そうならないような留意が必要です。
中でも大切なことは、「資質」と「能力」を区別して考え、「資質」の方の「道徳性を中心とする人間性・人格性」の方が人間の全体かつ主体であり、「能力」はその主体に使われる、その一部の客体・手段だということです。その包摂と主従の関係を明確に自覚した上で、「資質」の育成を「主体形成」として重視するとともに、それは「道徳科」のみでなく「教育課程全体」で、さらには外部の地域や家庭の協力を得て行うよう工夫する必要があります。
今回強調された「資質・能力」は、従来の指導過程・指導方法では育成できないとして、次期学習指導要領では、抑制的とはいえ「主体的・対話的で深い学び」になるような指導過程・指導方法に変えるよう、かなり細かく説明しています。これは教員の自由な裁量を狭める心配があります。重要なことは、元来、指導過程・指導方法は指導の「目標」に従って決められるべき従属変数ですから、いかなる資質・能力を育てるのかによって左右されますので、「目標」に沿ったものであれば、ぜひ遠慮なく自ら工夫したものを実行してください。
また従属変数である限り、個々の時間の授業をこの種の学びになるよう行わねばならないのではなく、そのような授業を含む全体の授業で、目標となる資質・能力を育てればよいので、「単元」レベルで「主体的・対話的で深い学び」になるよう工夫することが現実的です。なお、「対話的」という言葉の中には「小集団で協働する学習」が含意されていますので、討論のみでなく、2人以上の種々の活動も求められています。
確かに、指導過程・指導方法を「学習過程・学習方法」と同一視して、子供主体のものにするよう求めていながら、「教育内容」は減らさず、その分量は現行と変わらない上、「外国語科」の導入で高学年では純増になっており、総じて「資質」も「能力」も育成するのに時間が足りなくなる心配があります。「内容」の重点化や時間の生み出し方に工夫が必要不可欠でしょう。
また、この種の子供主体の授業はある程度時間がかかるものですので、2時間続きの授業をしたり、「休み時間」を工夫したり、逆に25分を2コマとか、15分を3コマといった授業の組み合わせなどを適宜考えてください。どうしても時間が足りない場合は、遠慮なく条件の整備・拡充を求めてください。土曜日授業の復活は、教育委員会とご相談の上、お進めください。
この言葉は、現行でもP-D-C-Aのマネジメント・サイクルにより、教育効果に説明責任を果たすよう求められていますが、次期はこれに、@教科間の連携による教科横断的な学習の具体化、A学校の外部の人的・物的資源との連携による協働的指導の具体化、の二つが新たに加えられています。そしてこの二つの方が重視されていますので、これを実現する連携に必要な話し合いの時間的余裕を生み出さねばなりません。多忙な現場には困難と思いますので、その種の時間の捻出に努めるとともに、短時間でも頻繁に話し合うなど、やり方を変えてください。他方で人員要求や働き方改革を求めていくとよいでしょう。それには工夫の努力の跡とデータを蓄積していくことが必要です。
「外国語科」については大部分「英語科」になると思いますが、小学校の教員の中には英語が苦手な人も多いのではないかと思います。とくに大事なことは、小学校の新教科の外国語科、とくに「英語科」で「英語嫌い」を生まないようにするということです。それには、AETないしALT(外国人補助教員)との有効な協働とともに、視聴覚的な教材・教具を含むICTの積極的な活用が望まれます。自分の力量不足を嘆くのではなく、むしろそれを認識して、自分よりもよい人材(仮に児童であっても)やICTの教材・機器類があるのなら、どんどん活用してしまうことです。教員は授業全体のマネージャーになることをめざすのがよいでしょう。その方が子供も乗ってくると思われます。
次期学習指導要領は学校現場に非常な負担を求めるものですが、先生方は「教育の専門家」として自覚と力量を培ってください。学習指導要領やそれに準拠して作られる検定教科書は、国の基準あるいは主たる教材として、つい依りかかりたくなるものですが、あくまでも全国に通用するようつくられた大枠ないし共通的なものであり、個々の学校の、個々の子供にそのまま当てはまるわけではありません。また多忙な先生方に「カリキュラム・マネジメント」や「アクティブ・ラーニング」を求めていますので、それが形式化・形骸化したり、空転したりする危険性が高いと心配しています。そうならないよう常に留意してください。
学校現場では国の基準や原則の応用が求められ、専門家である教員一人一人にそれが委ねられているのですから、そのための自覚と力量をもつために、日々自己研修を怠らないようにしてください。その際、それが十分可能となるように、条件整備についても必要に応じてデータをもとに堂々と要求してほしいと思います。始めから諦めていたのでは、子供たちは浮かばれません。