算数科の「探究的な学習」をデザインする
算数という教科における探究的な学びのデザインの仕方を、理論と実践の両面から考えていきます。
算数科の「探究的な学習」をデザインする(2)
「教科に向かう主体性」を養うための、日々の「探究的な学習」
東京学芸大学附属小金井小学校加固 希支男
2024/7/25 掲載

 まとまった時間を取って「『探究的な学習』をしましょう!」と子どもに言っても、何をしていいかわからないでしょう。教科教育において「探究的な学習」をしようと思うのであれば、「教科に向かう主体性」が重要です。しかし、「教科に向かう主体性」は、自然には育ちません。教師が意図的に育てるのです。そのために重要になるのが、各教科等の特質に応じた見方・考え方です。各教科等の特質に応じた見方・考え方を子どもが働かせていくことによって、その教科ならではの「学び方」を学ばせ、自ら学習を創れるようにしていくのです。その結果、「教科に向かう主体性」が育まれていくのです。

「教科に向かう主体性」とは

 子どもが「もっと苦手な計算が速くなりたい!」と思って計算練習に取り組んでいる姿は、算数科における「探究的な学習」と言えるでしょうか? 苦手なことを克服しようと努力することは、とてもすばらしいことです。しかし、数学的な見方・考え方を働かせて、自ら学習を創り出していくような姿でないことは確かでしょう。算数科の「探究的な学習」であれば、もっと数学的な見方・考え方を働かせて、過去に学んだ知識と新しく発見した知識を構造化させるとともに、解決した問題を基に発展的に考えるような子どもの姿を期待したいものです。
 石井(2024)は、学習の動機づけに関わる入り口の情意の1つとして「勉強に向かう主体性」があり、学習の結果生まれ、学習を方向付ける出口の情意の1つとして「教科に向かう主体性」があると述べています。先述の計算練習を自ら行う子どもの姿は「勉強に向かう主体性」はあると言えますが、「教科に向かう主体性がある」とは言えないでしょう。算数科における「教科に向かう主体性がある」状態というのは、第1回で暫定的に定義した「子どもが『数学的な見方・考え方』を働かせながら、習得した知識及び技能を活用することを通して、新たな問いをもつ学習」をしている状態でしょう。自ら算数を創り出している姿といってもよいでしょう。
 また、石井(2020)は「批判的に思考しようとする態度や学び続けようとする意志などの出口の情意は、教育活動を通してこそ子どものなかに生じて根づいていく価値ある変化であり、目的や目標として掲げうるものです」と述べると同時に、出口の情意は、意識的に指導することで育んでいけるとも述べています。
 いきなり「では、『探究的な学習』をしてみましょう」と言ったところで、子どもは何をやっていいかわかりません。「探究的な学習」ができるようになるためには、教師が意図的に指導していくことの積み重ねが重要なのです。

単元導入の一斉授業で数学的な見方・考え方を意図的に指導する

 6年「文字式」の実践を例に、数学的な見方・考え方を意図的に指導していくことについて説明します。最初に言っておきたいことは、こういった指導を粘り強く積み重ねていくことが重要だということです。ここで紹介する子どもたちの姿は、1年以上の積み重ねの結果として現れたものです。
 まず、数学的な見方・考え方を意図的に指導するためには、一斉授業は欠かせません。一斉授業は、全員の子どもと情報を共有するために適した学習形態なので、目の前の単元で働かせる数学的な見方・考え方を共有するために、単元の導入で一斉授業を行うのは大切なことです。
 本実践の1時間目では、正方形に並べた●の個数を計算で求める方法を考えることを通して、文字式の学習で重要な、独立変数、従属変数、定数といった数学的な見方を共有していくとともに、それらを見つけるためには、「問題が解けたら数を増やしてみる」「式を縦に並べて『同じ』と『違い』を見つける」といった、本単元における数学的な考え方の働かせ方(統合的・発展的な考えの働かせ方)も共有しました。

写真1

写真1 単元導入の一斉授業において数学的な見方を明示した板書@

写真1

写真2 単元導入の一斉授業において数学的な見方を明示した板書A

 授業中に子どもが働かせた数学的な見方(私のクラスでは「着目ポイント」と呼んでいます)は、教師が単元ごとに言語化してMicrosoft Teams上にまとめ、いつでも見られるようにしています。こうすることによって、これまで働かせてきた数学的な見方を子どもがいつでも振り返られるようにし、いつも数学的な見方を意識させています。

写真3

写真3 Teams上に単元ごとにまとめられた数学的な見方

一斉授業で共有した数学的な見方・考え方を意識しながら探究する個別学習

 2時間目は正三角形に並べた●の個数の求め方を文字式に表す方法を考える学習を一斉授業で行い、3時間目は「円周を求める方法を、xとyを使って式に表しましょう」「1mが3kgの鉄の棒の長さと重さの関係を、xとyを使って式に表しましょう」という問題を提示し、個別学習を行いました。
 次の写真4は、ある子どもが3時間目に書いたノートです。

写真4

写真4 数学的な見方が書かれている個別学習中の子どものノート

 注目すべきは、ノート中央下部の「着目ポイント」と書かれている部分です。この子どもは「定数を見つけたり独立変数や従属変数を見つける。かけ算の意味にもとずいて考える(原文ママ)」と書いています。単元導入で共有した数学的な見方を意識しながら学習していることがわかります。この子どもは、「小数でも同じように考えれば、文字式がつくれるのか?」と考えて、解決した問題を発展させ、数の範囲を広げていました。また、学習の振り返りで、写真5のように「次は面積を求めてみたい!!」と書き、さらなる発展的な考察をしようと考えていました。

写真5

写真5 さらなる発展的な考察をしている子どもの振り返り

 個別学習中は、働かせた数学的な見方(着目ポイント)をTeamsに投稿(写真6参照)して共有するとともに、働かせた数学的な見方が意識できなかった子どもは、この投稿を見て「こういうことに着目すればいいのか」と理解できるようにしています。また、教師はこの投稿を見て、写真3で紹介した単元ごとに働かせた数学的な見方を加筆したり、「みんな○○という着目ポイントを働かせているみたいだねぇ」と実況中継したりして、数学的な見方を共有しています。

写真6

写真6 個別学習中に子どもが働かせた数学的な見方が投稿されたTeams

数学的な見方を意識することが、算数科における「教科に向かう主体性」を育てる

 写真4のノートを書いた子どもは、数学的な見方を意識することで、「やっぱり同じように問題が解けた」「だったら、同じように小数でもできるかな? 面積でもできるかな?」と考えることができたのです。教師に「次はこれをやりなさい」と言われなくても、発展的に考えることができていました。この姿は、「計算が速くなりたい」「テストで点数が取れるようになりたい」といった思いではなく、「もっとこんなことはできないかな?」と考える、まさに算数科における「教科に向かう主体性」を育んでいる姿です。
 単元導入で、目の前の単元で働かせる数学的な見方・考え方を共有したうえで、個別学習においても数学的な見方を意識して学習を進ませていく。日々、このような学習を教師が意識的に積み重ねていくことが、子どもの算数科における「教科に向かう主体性」を育て、「算数科における『探究的な学習』」を行う子どもを育てていくことにつながるのです。
 
 次回はこの続きの、単元末の「探究的な学習」の様子をご紹介します。お楽しみに!

【参考引用文献】
・石井英真(2024)「学習指導要領の目標・内容の示し方について」(令和6年6月10日今後の教育課程、学習指導及び学習評価等の在り方に関する有識者検討会(第12回)資料2.p.16)
・石井英真(2020)『未来の学校 ポスト・コロナの公教育のリデザイン』(日本標準)p.78

加固 希支男かこ きしお

1978年生まれ。立教大学経済学部経済学科を卒業し、2007年まで一般企業での勤務を経験。2008年より杉並区立堀之内小学校教諭、墨田区立第一寺島小学校教諭を経て、2013年より東京学芸大学附属小金井小学校教諭。2023年3月明星大学通信制大学院にて修士(教育学)の学位を取得。

(構成:矢口)
コメントを投稿する

※コメント内ではHTMLのタグ等は使用できません。