100万人が受けたい!中学社会授業ネタ
100万人が受けたい!「社会科授業の達人」河原和之先生の最新授業ネタ。斬新な切り口による教材アイデアで、子ども熱中間違いなしです。
社会科授業の達人(5)
法隆寺の町・斑鳩の挑戦
―インセンティブと循環型社会―
立命館大学非常勤講師河原 和之
2020/10/20 掲載

授業のねらい―社会的な見方・考え方を鍛えるポイント

  • 地理
  • 公民

 奈良県斑鳩町では、ごみを燃やさない、埋め立てないまちづくりを目指す、国内4例目の「ゼロ・ウェイスト宣言」を2017年5月に行い、さまざまな取り組みをすすめている。2020年3月斑鳩町役場環境対策課を訪れ、取材をもとに授業を構想した。斑鳩町のごみ分別方法、住民にインセンティブを与える工夫、目指す循環型社会の在り方について、SDGs「11 住み続けられるまちづくりを」との関連で考える。

1 斑鳩町の分別

 斑鳩町が「ゼロ・ウェイスト宣言」を行ったことを説明する。

写真1

〈発問〉
斑鳩町のごみの分別数は、どれくらいか?

「50」

教師『日本で最も多いのは徳島県上勝町の45です』

「10」

教師『いきなり少なくなりましたね』

「20」

教師『21に分別しています』

〈グループ討議〉
ごみを21種類に分け分別している。21種類とは、どのように分別しているか? 10種類を考えよう。

 1つのグループに黒板に書かせる。順次、追加項目を書かせていく。

〈あるグループの意見〉
ペットボトル、生ごみ、燃えるごみ、ビン、プラスチック、紙、古着、粗大ごみ、ガム、電器製品

写真2

 「ガム」以外は正解、「電器製品」は正確には「小型家電」が正解である。
 以上9種類以外に、紙おむつ、不燃ごみ、有害・危険なごみ、缶類、枝葉・草、食品トレイ、新聞紙、ダンボール、雑誌、雑がみ、紙パック、陶器・ガラス食器、廃食用油がある。


Point▶どんなごみを分別しているかを考えさせることは必要ないとの意見もあるだろう。だが、「切実性」「当事者性」から、分別の意義(たいへんさ)を理解するためには必要なことである。


 斑鳩町は、さらに分別の種類を増やすため、分別体験をしている。そこでは38種類の分別を目指している。例えば、缶については「アルミ」と「スチール」を分けている。「古紙」は5種類に分けている。新聞紙、ダンボール、雑誌、雑がみ、紙パックである。不燃ごみも、アルミ、鉄、ブリキなど6種類に、また、「食品トレイ」も、以下のように「白色」と「色柄」に分別される。

写真3

2 分別へのインセンティブ

 「分別の意義はわかる! でも面倒……」というのが本音であろう。斑鳩町では、インセンティブを上げるため、どんな工夫をしているのだろう。

〈考えよう〉
写真は、「空き缶回収機」である。「空き缶」を持参すれば、1缶につき1点がゲットできる。点数が集まれば、町から貰えるものがある。何か?

写真4

「空き缶ジュース」

「本」

教師『なるほど! 最近、本を読まなくなったからね』

「いくつかの商品から選択できる」

教師『商品って?』

「いろんなお菓子から選べる」

 次の写真を示す。

写真5

 「エコ」に留意した「マイボトル」「ショッピングバッグ」や「文房具」などである。こうして、「エコ」に配慮したモノを使うことが「日常」になることを目指している。

3 循環型社会を目指して

 次の写真は住民が、家庭で捨てることになる「廃油」を役場に持参している場面である。

〈考えよう〉
この廃油の使い道を考えよう。

「油だから何かを燃やすのでは?」

「役場に持参するから町が使うのでは?」

「給食の燃料?」

教師『町のいろんな箇所での設備を稼働させるための燃料として使われています』

「住民の人がわざわざ役場に持ってくるのですか?」

教師『そうです! 持参すれば、交換に何かがもらえることになっています』

「箱に入っている」

「お菓子みたい」

「なんでもお菓子だ」(笑)

写真6

 交換商品を提示する。「せっけん」と「スポンジ」と「生ごみ用水切りネット」である。

写真7

 斑鳩町では、分別された「枝葉・草類」と「生ごみ」を混ぜ合わせて堆肥を作っている。その堆肥は農業や家庭菜園での堆肥として使用されている。

写真8

 家庭で必要でなくなった陶器類などを役場に持参する。「ご自由にお持ち帰りください!」と表示されているが、「必要」な人が持って帰っていい仕組みをつくっている。

写真9

4 さいごに

 「循環型社会」とは、廃棄物等の発生を抑制し(ごみをなるべく出さず)、廃棄物等のうち有用なものは資源として活用し(ごみをできるだけ資源として使い)、適正な廃棄物の処理(使えないごみはきちんと処分)を行うことで、天然資源の消費を抑制し、環境への負荷をできる限り減らす社会である。斑鳩町は、以上の社会を目指して歩みだしている。その出発は、世界遺産法隆寺をかかえる特有の“思い”からスタートしたという。世界遺産の対象となるのは、建造物や記念工作物、遺跡などだ。不動産の代表といえば、キリスト教社会の「石の文化」である壮大な教会や豪華な宮殿である。一方、アジア・アフリカはその風土から木材や土、日干しレンガが多用されている。もろい素材を修理したり継ぎ足したりしながら悠久の年月を超えてきた。この文化遺産を保存し継承していく「持続可能」な精神が、斑鳩の「ゼロウェイスト」宣言であろう。

【取材】奈良県斑鳩町役場

河原 和之かわはら かずゆき

 1952年京都府木津町(現木津川市)生まれ。関西学院大学社会学部卒。東大阪市の中学校に三十数年勤務。東大阪市教育センター指導主事を経て、東大阪市立縄手中学校退職。現在、立命館大学、近畿大学他、6校の非常勤講師。授業のネタ研究会常任理事。経済教育学会理事。NHKわくわく授業「コンビニから社会をみる」出演。
 月刊誌『社会科教育』で、「100万人が受けたい! 見方・考え方を鍛える中学社会 大人もハマる最新授業ネタ」を連載中。
 主な著書・編著書に、『100万人が受けたい! 見方・考え方を鍛える「中学社会」大人もハマる授業ネタ』シリーズ(地理・歴史・公民)『続・100万人が受けたい「中学社会」ウソ・ホント?授業』シリーズ(地理・歴史・公民)『スペシャリスト直伝!中学校社会科授業成功の極意』『100万人が受けたい「中学社会」ウソ・ホント?授業』シリーズ(地理・歴史・公民)(以上、明治図書)などがある。
新刊『100万人が受けたい! 主体的・対話的で深い学びを創る中学社会科授業モデル』を8月に刊行。

(構成:及川)

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