- 作文指導を変える
- 国語
作文は、大変。書く児童生徒も、指導する先生も、宿題で持って帰ってこられた家庭も大変。なぜ、作文は大変なのでしょうか。一言で言えば、「書き方を知らないから」「書かせるための指導方法を知らないから」ではないかと思います。
そんな方法があるのでしょうか? はい、あります。
本連載では、学校行事の後によく書く作文、体験作文の書き方の指導について全12回の予定で進めていきます。夏休みの作文の宿題の指導には間に合うと思います(^^)。
1回目は、作文の指導は指導になっているのか? について考えます。
作文を書くための指示とは?
先生は、原稿用紙を配った後、以下の指示で、作文を書かせようとしています。
「テーマは、【夏休み】です。時間は45分です。しっかり書いてください。では、どうぞ」
生徒から質問がありました。
「先生、どのように書けば良いんですか?」
先生は答えます。
「好きなように、自由に書けば良いんだよ。はい、時間がなくなりますから早く書きましょう。終わらなかったら宿題になりますよ」
さて、問題です。
この指示とやり取りの中で、問題になるところはどこでしょうか?
いくつもありますね。これは最低の指示だと言っても良いでしょう。しかし実は、慌てて言葉を添えますが、場合によっては最高の指示にもなります(それがどういうことなのかは、この連載の最終回で分かることになっております)。
さて、この指示のどこが問題でしょうか? ざっと列挙してみましょう。
- テーマとタイトルの違いを指導しているか?
- 夏休みの何を書くのか生徒は理解しているか?
- 夏休みの内容を書くための準備の仕方を生徒は理解しているか?
- 45分の時間の使い方を生徒は指導されているか?
- しっかり書くということは、具体的にどういうことなのか指導されているか?
- 本当に好きなように書いていいのか?
- 本当に自由に書いていいのか?
- 誰に向けて書く作文なのか確認したのか?
- 何のために書く作文なのか確認したのか?
- 書いた後、この作文はどのように使われるのかを説明したのか?
少なくとも私は、これらのことがわかっていなければ、作文は書けないか、かなり書きにくくなると思います。
副詞に逃げる指示
それぞれの指示について何がおかしくて、どのようにしたらいいのかは、この後の連載で取り扱っていくことにします。それまでに、よかったらみなさんも、何がおかしくて、どのようにしたらいいのか、ちらっと考えてみてください。
ここでは、「5.しっかり書くということは、具体的にどういうことなのか指導されているか?」と、「6.本当に好きなように書いていいのか?」、「7.本当に自由に書いていいのか?」に焦点を当てましょう。
「しっかり書いてください」と指示を出す先生は、生徒に何を求めているのでしょうか? 時間通りに書き終えることでしょうか。読みやすい字で書くことでしょうか。誤字脱字がないことでしょうか。面白い内容でしょうか。感動する内容でしょうか。多くの枚数を書くことでしょうか。
おそらく先生の頭の中には、「しっかり」の具体的な内容があることでしょう。それならば、それは生徒にあらかじめ伝えるべきです*1 。指示を出す側は、指示を受ける側に想像させてはなりません。受ける側に想像が働くと、正しい指示にはなりません。受ける側はバラバラになります。
実際の授業の場面で「しっかり書く」と指示を出したとします。
先生の正解のストライクゾーンを想像できる生徒は、(確か、この先生は濃く太く大きく書くのが大事だと言っていたなあ)ということを思い出して、濃く太く大きく書くことが「しっかり書く」ことだと推定して、そのように書きます。そして、「おお、君はしっかり書けているね」と褒められます。
一方で、イケダ少年は(45分の時間で書き終えることかなあ)なんて思って、急いで、誤字脱字が多く、薄くて読みにくい字で書き、45分以内に書き終えて提出します。すると、「しっかり書きなさいと言ったでしょ」と怒られるわけです。
私はこのように大事なところを副詞にして指示を出すことを、「副詞に逃げた指示」と言っています。「しっかり」「きちんと」「はっきり」などの副詞を使っての指示は、多くの場合、この副詞に逃げた指示になっています。
生徒が確認できる、具体的な指示を出すことが大事です*2。
先生が好きに書いていいって言ったじゃん
「好きに書いていい」「自由に書いていい」というのは、中学生には危険な指示だと思います。イケダ少年なら、何を書いていいか分からなくなれば、原稿用紙に「好きに書いていい」「自由に書いていい」を繰り返し書いたことでしょう(^^)*3。当然、そんなことをすればイケダ少年は先生に叱られますが、少年は先生の指示に従っただけなのです。「先生が好きに書いていいって言ったじゃん」と言うでしょうねえ。先生の指示に従っているだけなのですから、本来は叱ることはできません。
また、好きに書いていいということは、主体的な判断として「書かなくてもいい」を含んでいます。「書かなくてもいい」を認めているのであればいいのですが、まずそんなことはあり得ないでしょう。
さらに、好きなことを自由に書いていいと指示を出しておきながら、(ちょっとまずいなあ)と思うことに関しては「書き直しなさい」と指示を出す。これも圧倒的にまずいことです。(言っていることとやっていることが違うじゃん)と思われてしまいます。中学生は、そういうところに敏感です。
何のために、何を書くのか。書いてはいけないことは何なのか。少なくともこのことは確認する必要があります。
*1 いや、ひょっとしたらそれがないので、「しっかり」という指示で誤魔化しているのかもしれませんが(^^)。それはそれで恐ろしい。
*2 この連載でも、「原稿は1回につき2000字から2500字で、小見出しは3〜4つ入れること」という、確認できる具体的な指示が入っています。
*3 野球部にいたイケダ少年は、ムカつく先輩が「一年生、声を出せ!」と言った時に、「声、声、声」と言ったらエラい目に遭いました(^^)。
今回のポイント
- 指示は、できたかどうか後からチェックできるように、具体的なものを出す。
- 指示は、「しっかり書く」「はっきり書く」など、「副詞に逃げる」ことは避ける。
- 書く前に、「何のために、何を書くのか」を指示したり、考えさせたりする。