作文指導を変える―つまずきの本質から迫る実践法
作文指導はなぜ難しいのか?その理由の本質に迫りながら、本当に必要な「指導の仕方」を考えます。
作文指導を変える(2)
書くことを指導しているか?
京都橘大学教授池田 修
2022/7/15 掲載

 先生は生徒に、「では、体育大会のことについて、原稿用紙3枚に書いてみましょう」と言います。あっさりと言います。しかしこのことは、本当は大きな問題を含んでいるのではないでしょうか。

 「書いてみましょう」と言っていますが、要は「書け」です。しかし、「書く」とは一体どういうことなのか、生徒に説明したのでしょうか。教師は「考えて」「質問して」「書いて」と簡単に言いますが、それは、一体どうすることなのでしょうか? そのことについて、指導しているのでしょうか? もし、指導をすることなく、「書け」と命令するだけでよいのであれば、それは教師でなくてもよくなります。

読み書きそろばんって何?

 初等教育で身につけさせる基本的な学力として言われるのが、「読み書きそろばん」という言葉です。言うまでもなく、読んで、書いて、計算できるようになることです。

 ここに「話す・聞く」が入っていないのは、「話す・聞く」というものは、その言語を使っている集団に所属していれば、産まれたばかりの子供でも2年ぐらいすると可能になり、小学校に入るまでには、日常生活を過ごせるぐらいの能力は手に入れることができるからでしょう。*1
 つまり、「読み書きそろばん」という言葉は、これらが教育して身につけさせなければ自然とできるようになるものではないということを示しています。

 しかし、ここで注意しなければならないのは、特に「書き」の部分だと考えています。書くというのは、何を示しているのでしょうか。
 たとえば、アメリカの小学校では、日本の国語に当たるものとしてreadingとwritingがあります。もちろん、小学校の低学年ではspellingの授業もあるでしょうが、writingでは、文章を書いています。*2
 さて、それでは、日本の小学校の授業に文章を書くためだけの時間割はあるでしょうか? よほどのことがない限りは、ないと思います。
 確かに、平成29年告示の小学校学習指導要領では、「B書くこと」に関する配慮事項として、

(5)第2の各学年の内容の〔思考力,判断力,表現力等〕の「B書くこと」 に関する指導については、第1学年及び第2学年では年間 100 単位時間程度、第3学年及び第4学年では年間 85単位時間程度,第5学年及び第6学年では年間55単位時間程度を配当すること。その際、実際に文章を書く活動をなるべく多くすること。

と記されています。しかし果たして、こんなに多くの時間を本当に作文に使っているのだろうかと思います。日本の国語の書きは、「漢字の書き取り」に使われていることが多く、文章を書くための時間としてはあまり使われていないのが現状ではないでしょうか。*3文章を書くための時間が、そもそも十分に確保されていないのではないでしょうか。

文章を書くって何?

 音声入力によって文章が書けるようになりました。最近では変換の精度もかなり高くなっています。私も、学生の文章にコメントするときは、音声入力で行うことが多くなりました。私は、手書きとキーボード入力を比べるとキーボード入力の方が4倍早く書けて、キーボード入力と音声入力を比べると、音声入力の方がさらに4倍早くなります。だから、とても便利です。

 そして、この音声入力に出合ったとき、衝撃が襲ってきました。
(私が「文章を書く」で指導してきたことは、「文章を書く」ではなかったのかもしれない)
というものです。いえ、キーボード入力が出現した時にも、このことはうっすらと感じていました。ですが、音声入力の出現で明確になりました。

 私が指導していた「文章を書く」は、情報の入力だったのではないかという疑念です。つまりそれは、文章を書くということの一部でしかないということであり、文章を書くことの本質ではないのではないかという思いが湧いてきました。

 アカデミックライティングの指導者として著名な倉島保美さんは、「文章を書くことの本質は、推敲にある」と語ってくださったことがあります。やはりそうなんだなあと思ったものです。

 私は手書きで書くことが好きです。万年筆で文字を選びながら書いていくのは好きです。しかし、それは文章を作っていく一過程にしか過ぎず、それをもって文章を書くとは言えないということが、音声入力によってはっきりしました。
 まさか、話すことが、書くことになるなんてことは、私が教師を始めた1987年には想像することができませんでしたから。

書くって、実は簡単なことじゃない

 たとえば、運動会の後の作文を書くことを例にして考えてみます。すると、書くということには、次のような流れが考えられると思います。

  • 文字を覚える
  • 文字を使えるようになる(ワープロを使えるようになる)
  • アイディアを出す
  • 調べる(辞書を使える/インタビューできる/インターネットを使える)
  • アイディアを選ぶ
  • 読者を想定する
  • 構成する
  • 原稿用紙の使い方を知る
  • 文字を書く、文字を入力する
  • 推敲する(自分で/他人によって)
  • 校正する
  • 誤字脱字のチェックをする
  • レイアウトを考える
  • 仕上げる

 このうちのいくつかは省略され、いくつかは先生が手助けをすることになったとしても、相当のプロセスを経ないと、書くということのゴールには辿り着けないことがわかるかと思います。

 書ける子供はいます。そのような子供は、どこかでこのプロセスを手に入れています。私は子供の頃、子供なりの文章が書ける子供でした。それは、どこかでこのプロセスを手に入れていたからだと思います。だから、先生の「書け」で書けました。
 しかし、書くためにはこのような要素を身につけていることが大事だと知っていて、このような流れで書くといいんだと知っている子供は、ほとんどいないでしょう。そんな子供に「書け」だけで、書けるわけがありません。子供のみならず、実は、教師でも知らないままの方が多くいるということが、教員免許更新講習でのアンケートの結果からもわかりました。
 そうだとすれば、この「書くための要素と手順」を知れば、子供は書けるようになる。また、指導者は指導できるようになるのではないでしょうか。

*1 もちろん、「メモをとりながら、相手の顔を見ながら、質問を考えながら聞く」と言う高度な聞き方をするには、適切なトレーニングが必要になります。
*2 「アメリカ・ワシントン州の学校の時間割と授業科目」(junglecity.com)
https://www.junglecity.com/live/life-education/local-school-classes/
「海外の小学校での教科や時間割、学校関連の英語まとめ」(英会話ビギン)https://kaigai-taido.com/subject/
「アメリカ写真日記・5日目〜アメリカの小学校(4)」(エンタメ&アメリカ写真!)https://mayanet.exblog.jp/2051519/
*3 平成26年度全国学力・学習状況調査の大分県の分析では、学力をつける読み書きとして、「漢字の読み書き」が大事だとまとめている。https://www.pref.oita.jp/uploaded/attachment/2005919.pdf

今回のポイント

  • 「書く」の指導では、漢字の読み書きだけではなく、「文章を書く」の指導も適切にしよう。
  • 文章を書くというのは、文字を並べることではない。
  • 文章を書くというのは、実は結構大変なことなのだ。要素と手順を身につけさせよう。

池田 修いけだ おさむ

京都橘大学発達教育学部教授。
公立中学校教員を経て現職。「国語科を実技教科にしたい、学級を楽しくしたい」をキーワードに研究・教育を行う。恐怖を刺激する学習ではなく、子どもの興味を刺激し、その結果を構成する学びに着目している。国語科教育法、学級担任論、特別活動論、教育とICTなどの授業を担当している。

(構成:大江)
コメントの一覧
1件あります。
    • 1
    • 名無しさん
    • 2022/7/15 13:34:20
    書くことは、大切な視点だと思います。
    興味深く拝見しました。
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