作文指導を変える―つまずきの本質から迫る実践法
作文指導はなぜ難しいのか?その理由の本質に迫りながら、本当に必要な「指導の仕方」を考えます。
作文指導を変える(5)
作文の「基礎体力」を測定しているか?
京都橘大学教授池田 修
2022/10/15 掲載

 教育基本法の第四条「教育の機会均等」では、次のように定められています。

第四条 すべて国民は、ひとしく、その能力に応じた教育を受ける機会を与えられなければならず、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によって、教育上差別されない。

 この文言は、後半が注目されがちなのですが、前半も大事です。「その能力に応じた教育を受ける機会」が与えられるべきであるというのです。学習者主体の学習であれば、「その能力に応じた教育を受ける機会を手にする」ことができると考えてもいいかもしれません。

 それにはまず、その子供の能力を測る必要があるのではないでしょうか?

小論文を書く時に、最初にすること

 私が中学校の教員の時、管理職試験必勝法というのを聞いたことがあります。試験の小論文が出たら、とにかく最初の3行に準備してきた昨今の社会情勢に関する言葉と、それに対する自分の基本的な立場を書けというものです。

 私は唖然としました。(そんなことで管理職試験に合格するの? いやその程度しか書けない人が合格するの?)と。多分この話は冗談だと思いますが、そんな話になるぐらい書けない人が多くいたのかもしれません。

 私が中学3年生に小論文を書かせていた時は、「さて、みなさん。小論文の問題を解く時、最初に何をしますか?」と聞いていました。生徒は「受験番号と名前を書く」と素直に答えていました。「では、その後は?」と聞くと、わからないとのこと。ま、わからないから、教えるのですけどね。

「それは、これから教えていきますので安心してください。もう1つ、安心の材料も知らせておきます。もし、試験会場で『小論文の試験、始め』という合図と同時に、何かを書き始める受験生があなたの周りにいたら、それはもう安心しましょう
「え、不安になりますけど」
「いえ、安心です。もうライバルではありません。その人は、試験問題を読んでいません。とにかく小論文の最初は、これを書くことと決めていたものを、書いているだけです。小論文はそんなふうに勢いで書くものではありません。書けるものではありません」

 管理職試験のことは、こんな風に活かして使いました(^^)。

自分の今の力を知る

 体育の授業では4月末から、体力測定を行うと思います。100m走、砲丸投げ、反復横跳びなどの記録を取ると思います。私は、なぜ作文でこれをやらないのかがとても不思議です。自分がどのぐらい書けるのかを測定するのです。

 やり方は簡単です。

  1. 教師は、国語の教科書から任意のページを指定する。
  2. 教師は、原稿用紙1枚を配り教科書の本文を読みやすい字で書き写せと指示を出す。
  3. 教師は、ストップウォッチで、時間を測り始める。
  4. 生徒は、書き終えたら挙手して教師から時間を教えてもらい、時間を記録する。

 これで原稿用紙に書き写すだけなら、どのぐらいの時間で書き写せるのかが、本人にわかります*1。他の人と比較する必要はありません。順位をつける必要もありません。書き写す時間がわかればいいのです*2

準備→執筆→見直し

 小論文に限りませんが、文章を書く時には、準備と執筆と見直しの3つが必要になります。準備もせずにいきなり書き始めることはできません。この時、この3つにどのぐらいの時間を掛けることができるのかを考えなければなりません。特に、50分で600字などと決められている試験では、かなり重要です。

 もし、この時に自分がどのぐらいの時間で文章を書き写すことができるのかを知っていないとしたら、これを考えることはできません。しかし、作文の「体力測定」をしている生徒は、問題ありません。

 例えば、400字を20分で書くことのできる生徒であれば、600字は30分となります。そうしたら、残りの20分を準備に10分、見直しに5分、予備に5分と割り振ることができます。さっさと書き終えて(あー、よかった間に合った)と時間を残してもダメなわけです。時間を有効に使うべきなのです。

 ちなみに、小論文のテストでは、準備に次のことをするようにと教えていました。

  1. 問題文の中にある問いは何かを確認する。
  2. 問題文の中にある問いはいくつあるのかを確認する。
  3. それぞれの問いの答えと思われるキーワードを書き出す。
  4. どの順番でどのように書き進めればいいのか、構成する。
  5. 書き始めに適切な文言を考える。
  6. 小論文執筆の際の条件を確認して、書き始める。

 10分ぐらいは、これに使わないと、私は書けないと思います。
 そのためには、作文の「体力測定」で自分の能力を知ることが大事です。

*1 ちなみに、私の場合、一番丁寧に書き写すのでは25分かかります。殴り書きだと7分です。デジタル入力だと、3分ちょっとですね。
*2 ただし、過去の自分との比較は有効です。学期ごとにやるといいと思います。また、学力の低い生徒は、時間がかかるだけでなく、書き写しミスも多発します。ここでチェックすることもできます。

今回のポイント

  • 自分がどのぐらいのスピードで書けるのかを知ることが大事。
  • 教科書本文をノートに書き写す時間で、そのスピードを知ることができる。
  • 文章を書くとき、どのぐらいで終わるのか見通しを持って書くことは大事。

池田 修いけだ おさむ

京都橘大学発達教育学部教授。
公立中学校教員を経て現職。「国語科を実技教科にしたい、学級を楽しくしたい」をキーワードに研究・教育を行う。恐怖を刺激する学習ではなく、子どもの興味を刺激し、その結果を構成する学びに着目している。国語科教育法、学級担任論、特別活動論、教育とICTなどの授業を担当している。

(構成:大江)
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