作文指導を変える―つまずきの本質から迫る実践法
作文指導はなぜ難しいのか?その理由の本質に迫りながら、本当に必要な「指導の仕方」を考えます。
作文指導を変える(8)
書き始めを指示する
京都橘大学教授池田 修
2023/1/15 掲載

 確か、フランスの女性政治家のスピーチだったと思います。
「スピーチは、一番最初が難しいのよね。でも、今私はそれをしたからもう大丈夫」
という、ユーモアに富んだスピーチがあります。

 スピーチも作文も、最初が難しいものです。何から書き始めたら良いのか分からないというのは、作文の能力の程度に関わらず、等しく悩むところです。今回は、この「書き始め」をどう指導するかについて考えます。

学校教育の作文は、ちょっと変

 何が変だと思いますか?
 ま、色々と変なところはあるのですが、私が「これはまずいなあ」と考えている変なところがあります。それは、子供が書いた文章は、全部読まれているということです。こんなことを書くと、「子供が書いた文章であれば、どんな文章であっても先生は読むべきだ」と言われるでしょう。確かに、私も全部読んできましたし、今でも読んでいます。
 しかし、このことについて私は子供に話していました。

「文章には、読みたい文章と、読まねばならぬ文章がある。君たちが書いた文章を、私は読んでいる。しかし正直に言って、君たちの文章は、読まねばならぬ文章が多い。指導をするために読んでいる。丁寧にコメントをつけて読んでいる。しかし、君たちは、この状態は指導を受けているから成立しているのだと理解しなさい。つまり、社会に出れば、人は読まねばならぬ文章は読むが、読みたくない文章は読まないのだ。コメントなんてものもない。とりあえず書けば、先生が読んでくれる学校とは違う。だから、君たちは、読者が読みたくなるような文章を書かねばならないのだ」

と。
 「とりあえず書けば良いんだろう」とばかりに原稿用紙を埋めてくる作文というのはあります。文字数を稼ぐために漢字をひらがなにしたり、やたら短い会話を続けたりしてきます。しかし、こういう文章は読みたくなる文章にはなりません。

時間順に文章を書く子供たち

 もう1つ、子供が書くことの多い「読まれない文章」は、時間順に書いてある文章です。
「僕は、体育大会の前日、9時に寝た。いつもは、10時に寝るのだが、9時に寝た。朝、6時半に目が覚めた。7時に起きて7時半にはご飯を食べ終えていた…」
 これを読み始めた読み手は(ああ、これを閉会式の午後3時まで読み続けるのか)と溜息が漏れるわけです。ちょうど、編集されていない動画を延々と見せられるようなものです。辛いです。
 なぜ子供は、このように読み手が読みにくい時間順で書くのでしょうか。それは、書き手にとっては書きやすいからです。ちょうど話が上手くない人が「あとね…あとね…」と思い出したものを次から次へと話すのと同じです。時間順に思い出したものを書けば、書けるということです。

インパクト順で書くことを勧める

 つまり、物語のクライマックスから書けということです。体育大会の作文であれば、「その日の一番のクライマックスを先頭にもってこい」ということです。ただし、詳しく書いてしまってはなりません。結論を書いてしまってもだめです。*1これらを書いてしまうと、読者は(ああ、そうなのね)となって、文章を読み進めようとは思ってくれません。ちょうど、作文のタイトルに「楽しかった運動会」と書かれてしまうと、(ああ、よかったね)となって読まれにくくなるのと同じです。
 となると、必要な条件は、

  1. インパクトがある
  2. そこを読んだだけではなんだかよくは分からない
  3. よく分からないけど、その先を読んでみたくなる

とまとめられます。しかし、この3つを示して「では、そのように書いてみてください」と指示を出したところで、これで書ける子供は2%ぐらいでしょう。
 そこで、もっと具体的な指示を出します。

「あなたが書こうとしているクライマックスのシーンで、聞こえている音はなんですか? それから書きましょう」*2

 実際の音があれば鉤括弧「 」で、心の音ならば丸括弧( )で書き始めます。*3
 次の2つの文章を比べてみて下さい。かつての中学1年生が書いた文章の冒頭です。

a
合唱祭の成績の発表の瞬間が近づいてきた。
実行委員の先輩がステージに向かっていく。
私は最優秀賞は絶対うちのクラスだと思ってた。
(あ〜神様!) 
この時は祈りに祈った。

b
(あ〜神様!)
この時は祈りに祈った。
実行委員の先輩がステージに向かっていく。
私は最優秀賞は絶対うちのクラスだと思ってた。
合唱祭の成績の発表の瞬間が近づいてきた。

 同じ文を使っていても、bの方が圧倒的に読みたくなる文章になっていませんか。

*1 念のために注をします。これは体験作文の場合です。論理的文章などでは、段落の最初の1文目に、その段落の結論を最初に書くことが大事です。パラグラフライティングではそう教えられます。
*2 クライマックスの匂いなども使えますが、音の方が圧倒的に臨場感が出ます。
*3 もう1つ、「ビーズ順」と私が呼んでいる順番があります。これは、一見関係のないものを書き続けながら、最後に(ああ、これはこれで繋がっていたんだ!)と思わせるある種の倒叙トリックのような、伏線回収のある書き方です。適当にビーズを拾っているように見えて、最後に糸を引っ張ると綺麗な模様になっているというたとえで説明しています。向田邦子さんがよく使われていました。ただし、このビーズ順は作文上級者用です。クライマックス順が十分に使える子供がいたら挑戦させてください。

今回のポイント

  • 子供たちに(とりあえず書けば良いんでしょ)と思わせてはならない。
  • 読者が、その先を読みたくなる書き出しが書けるように指導する。
  • 時間順ではなく、インパクト順で書く。クライマックス時の音から書き始めよ。

池田 修いけだ おさむ

京都橘大学発達教育学部教授。
公立中学校教員を経て現職。「国語科を実技教科にしたい、学級を楽しくしたい」をキーワードに研究・教育を行う。恐怖を刺激する学習ではなく、子どもの興味を刺激し、その結果を構成する学びに着目している。国語科教育法、学級担任論、特別活動論、教育とICTなどの授業を担当している。

(構成:大江)
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