作文指導を変える―つまずきの本質から迫る実践法
作文指導はなぜ難しいのか?その理由の本質に迫りながら、本当に必要な「指導の仕方」を考えます。
作文指導を変える(10)
作文の読者・目的を設定する
京都橘大学教授池田 修
2023/3/15 掲載

 連載の第8回で、「社会に出れば、人は読まねばならぬ文章は読むが、読みたくない文章は読まないのだ。コメントなんてものもない。とりあえず書けば、先生が読んでくれる学校とは違う。だから、君たちは、読者が読みたくなるような文章を書かねばならないのだ」と書きました。この、「読みたくなる文章」というのは、どのようにして書かれるのでしょうか。今回は、この部分について考えてみましょう。

読者意識を持たせる

 第7回で

「では、イメージの花火の単語をよく見て、この話なら読み手が楽しんでくれそうだなというものを3つぐらい選んでみましょう」
 このような指示を出して絞らせました。次回以降に後述しますが、 読者を意識して書くことはとても重要です。

と書きました。
 ところで、今書こうとしている作文は、伝えるための文章です。さて、この時、伝える相手は誰なのでしょうか? 学生たちに作文の書き方指導をするとき、「行事のあとの作文を書くとき、読み手は誰を想定していましたか?」とアンケートを取ってみますと、以下のような結果になりました。*1

図1

 また、続けて「想定していた読み手は、誰が決めましたか?」と聞いたところ、以下のようになりました。

図2

 この2つのアンケート結果から言えるのは、作文の書き手は、読者を自分で勝手に先生と決めて書いているということです。先生が読者であれば、間違えてはならないと緊張して、なかなか書けないのではないでしょうか。
 私の提案は、この読者をクラスの仲間にするというものです。これでかなり書きやすくなります。

目的意識の設定

 作文が書けない理由の最後は、「なんのために書くのか分からないので書けない」というものです。これは至極まともな意見です。伝えるためには、伝える目的が必要です。それが明らかになっていなければ、書きにくいのは当然です。
 ここでは、書き手の子どもに目的を決めさせます。

 読者は、このクラスの仲間です。その仲間に向けて、笑わすためでも、泣かせるためでもいいので、自分で作文を書く目的を設定してください。

と指示を出します。
 しかし、これだけでは、その目的が達成できたかどうかが確認できません。その確認のシステムが、以下に示す「書き込み回覧作文」です。

相互評価の「書き込み回覧作文」

 一言で言えば、回覧しながら相互評価を行うシステムです。料理で言えば、作った料理を食べてもらい、感想をもらうことです。前回ご紹介した「作文は料理に似ている!?」対応表では、12と13に相当します。

図3

 これを実践することで、書き手の生徒が設定した目的が達成されたかどうかが、一目でわかります。笑わせようとしたところに「(笑)」とコメントがあれば成功です。子どもたちは、この書き込み回覧作文が大好きです。仲間からのフィードバックがすぐに得られるわけですから。たくさんの書き込みがされた原稿用紙が戻ってきた時、子どもたちは「読みなさい」と一言も言わないのに、じっと読んでいます。それもニマニマ笑いながら。この時間はとてもいい時間です。
 念の為、プリントにもありますが、重要なことを確認しておきます。それは、この書き込みは「共感的なコメント」と「肯定的なコメント」のみでするということです。これが極めて重要です。*2

作文を書かせるための最高の指示とは?

 私の作文指導では、この書き込み回覧作文までがセットです。つまり、「前提、準備、制作、鑑賞、評価」の全てが揃うことが大事だと考えています。
 連載の第1回目で、「テーマは、【夏休み】です。時間は45分です。しっかり書いてください。では、どうぞ」という指示はダメな指示だと説明しました。しかしこれは、実は最高の指示でもあるのです。
 それは、これまで見てきたように、子どもたちの書けない理由に寄り添い、書き方を指導して身に付けさせた時の端的な指示なのです。書けるようになっている子どもにとっては、一見最低に見える指示であっても、十分に書けるのです。

 繰り返します。
 書き方を指導していなければ、最低の指示です。指導してあれば、最高の指示です。

「先生、作文って楽しいね」
「次は、いつ書くの?」
「いやあ、〜さんの文章おもしろかったなあ」

 私は、子どもたちからこのような言葉をたくさんもらいました。
 皆さんのクラスでも、こんな幸せな作文の時間が生み出されますように。

 次回は、作文指導のバリエーションについて考えてみます。

*1 京都橘大学2020年度、教科教育法(国語)aでのアンケートより。2つとも同じ。
*2  5回ぐらい実施すると、「もっとアドバイスが欲しい」という声が出てくることがあります。その場合は「私ならこうする」のような建設的なコメントをしても良いというようにします。また、明らかな漢字間違いには、薄く丸をつけるということもします。これで教師に提出する前に、書き手は間違いを修正できますし、教師も指導しなくて済みます。 

今回のポイント

  • 読者意識と目的意識を確認する。読者は、クラスの仲間。目的は書き手が設定する。
  • 書き込み回覧作文で、相互評価をする。
  • 書かせる時の最低の指示は、書き方を教えてあれば、最高の指示になる。

池田 修いけだ おさむ

京都橘大学発達教育学部教授。
公立中学校教員を経て現職。「国語科を実技教科にしたい、学級を楽しくしたい」をキーワードに研究・教育を行う。恐怖を刺激する学習ではなく、子どもの興味を刺激し、その結果を構成する学びに着目している。国語科教育法、学級担任論、特別活動論、教育とICTなどの授業を担当している。

(構成:大江)
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