- 教育オピニオン
- 特別支援教育
1 授業の常識を問い直す
◯全文を通読し、初発の感想を書く。
↓
◯場面ごとに読み取り、登場人物の気持ちをつかむ。
↓
◯教材文の主題をとらえ、学習のまとめをする。
例えば国語科の物語文の学習は、このような指導過程を取ることが多かったのではないだろうか。
しかし、教師にとっては自然な展開であっても、子どもたちの側から見れば、極めて不自然なものに映っている可能性がある。
まず、突然教材文が示され、感想を求められる。日常の読書生活であれば、子どもたちは作者や題名、表紙などに着目して、読みたい本を選んだり、お気に入りのシリーズの本を見付けて読んだりするのではないだろうか。
続いて、教材文をいくつかの場面に分けることとなる。その際、何を手掛かりに場面分けをすればよいのか分からないという場合がある。教師から見れば明確に場面が区切られるように見えるが、実際はそう簡単ではない。
試しに一つの物語を、何人かの教師が場面分けしようとした場合、その分け方は一つにまとまらない場合が多くなるだろう。
場面の分け方は、その物語をどの程度の抽象度でとらえようとするのかに規定される。ストーリーを大づかみにとらえようとするのであれば、場面はあまり細かく分けないし、展開をきめ細かくとらえようと思えば場面も細分化してとらえようとするだろう。つまり、場面は読む目的に応じてその分け方も変わってくる可能性があるのである。授業で行う場面分けは、多くの場合、一単位時間を構成するのに適切な程度に分けることが多い。それは、教師にとっての目的に応じた場面分けであって、読者としての子どもたちにとっての目的にならない場合も多いのではないか。
教師にとっては当然であると思われてきた授業展開を、子どもの側から問い直すことが重要なものとなる。
2 子どもの側に立って学習指導要領を読む
その際、手掛かりとなるのが学習指導要領である。
従来は、教師がとらえた解釈や主題を、どう工夫すれば子どももきちんとつかめるか。そうした視点で教材研究や授業の工夫が行われる場合が多かった。しかしこれでは、いかに工夫しようとしても効果は上がりにくい。
「このときの、◯◯◯◯の気持ちは?」という発問は、国語の授業においてしばしば行われるが、たとえ文章の意味を正確に把握していたとしても、教師のもっている「正解の解釈」と、子どもの解釈とが異なることがある。それはなぜなのだろうか。
ここで、学習指導要領・国語の指導事項を見てみよう。
小学校第1学年及び第2学年
C 読むこと
オ 文章の内容と自分の経験とを結び付けて、自分の思いや考えをまとめ、発表し合うこと。
「国語だから、文章からしっかりと読み取りましょう。」といった声がけをすることもよく見られる。当然文章の解釈は対象となる文章抜きには行われないが、上記のように文章と自分の経験とを結び付けて読むことも、読む能力の基礎・基本である。経験は一人一人異なるため、解釈も微妙に異なってくるのである。それは我々が小説を読んだりドラマを見たりするときに、自分の思考や経験や感情を重ねるのと同じことである。
こうした読む行為は、与えられた文章の与えられた場面を解釈するのではなく、例えば自分のお気に入りの本の大好きな場面を紹介するといった言語活動で、一層主体的に行われる。学習指導要領・国語は、上掲のような指導事項を、具体的な言語活動を通して指導することと規定している。そこで、例えば次のように、言語活動を例示しているのである。
小学校第1学年及び第2学年
C 読むこと 言語活動例
オ 読んだ本について、好きなところを紹介すること。
すなわち、単に「しっかり読み取らせる」のではなく、本や文章を選んで読み、自分の大好きなところを他者に向けて紹介するといった一連の読書の過程を構築することを提言しているのである。「学習指導要領、それはそれとしてまた別個に手立てを考えて……」としてしまうのではなく、教科の本質を外さない支援の手立てを構築することが重要である。
ここに挙げた指導事項等は、ほんの一例に過ぎない。学習指導要領を、子どもの側に立って読み直すことで、そうした支援構築の手掛かりが豊富につかめるだろう。
3 どの子も主体的に関われる授業づくり
日々の授業で、解釈の幅を超えた全くの読み誤りをする子どももいる。そうした場合は一層細かく読み取らせようとしてしまいがちである。しかし物語は一連のストーリーで構成させているため、細かく切り分ければ分けるほど、ストーリーは見えにくくなる。
読めない子にこそ、読み聞かせをしたり、関連する図書を並行読書させたりするなどして読書の絶対量をカバーする支援が必要である。そして、自分の「大好き」や「お気に入り」が見付けられるような観点を具体的に示す必要がある。それは例えば、登場人物の「行動」や「気持ちの変化」、「性格」そして「相互関係」に着目するなど、いずれも指導事項に示した内容が手掛かりとなるのである。
子ども一人一人の実態に配慮し、その思いや願いを大切にした授業づくりを行っていくためには、従来の狭く硬直化した指導過程の大枠はそのままにして、細部の手立てだけを工夫するのでは不十分である。一見遠回りのようでも、教科の本質を外さない支援の構築が重要になる。
LD&ADHD2011年7月号より転載
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