平成23年1月9日、大阪朝日放送「探偵!ナイトスクープ」の担当者から、出演の依頼があった。「探偵!ナイトスクープ」は関西地区では、毎週金曜日23時17分〜24時12分に放送されている番組である。放送エリアは関東を除いて、全国朝日放送系列ネットで放送されている。番組は、視聴者からの依頼(ハガキ・メール等の便り)に基づき、探偵(出演者)がロケや収録を通して調査・実験等を行い、依頼者の謎や疑問を解明し、夢や希望を叶える内容である。
今回の内容は、長崎県在住58歳男性からの依頼で、44歳の妻が立ち幅跳をすると15cm程しか跳べず、知人に「30cm飛べたら1万円あげる」と言われ一生懸命練習したが、全く跳べる様子がない。「皆と同じくらい跳びたい」という妻の夢を叶えて欲しいというものである。女性の立ち幅跳びの平均記録は5cmで、最高が15cmである。これを半日で30cm以上跳ばせてほしいという依頼である。
1月11日、長崎市の依頼者を訪れた。さっそく近くの公園の砂場でA子さんの立ち幅跳びを見た。確かに5cmしか跳べない。何度やっても同じである。A子さんは小学校から運動が苦手で、水泳は1度もプールに入らなかったという。蓋のあいているマンホールに気づかず落ちたこともあるという。
会って話してみると、運動はまったく苦手で、逆上がりはできない、縄跳びはできない運動音痴であると話された。これは厳しい。かなり困難な状況である。最初の跳ぶ姿を見て、心配は的中した。今まで多くの子どもを指導してきたが、こんな跳び方の子どもはいなかった。練習を2時間行い、午後5時から本番が行われた。本番は1回だけである。
結果は驚くべき記録であった。何と143cmも跳べたのである。テレビを見た関西地区の先生方からは、放映直後からたくさんのメールが届いた。家族で見ていたが、夫が妻が子どもが、感動していたとの声が届いた。
立ち幅跳びは、小学校の運動能力テストの種目に入っている。全学年で指導できる。ちょっとした指導で記録が伸びることが、今回のテレビ収録で分かった。A子さんに指導した内容をもとに授業プランを作成した。それをもとに全国の先生方に同じような効果があるかを追試していただいた。
結果は、同じように記録が伸びたという報告であった。1年生から6年生までの実践報告が寄せられた。どのような指導で、どのくらいの記録が伸びたかが報告されている。学級のドラマを報告いただいた。
「探偵!ナイトスクープ」のA子さんとの体験から、私は多くのことを学ばせていただいた。立ち幅跳びで遠くに跳べたということも大切であるが、もっと根源的な人間の生き方について考えさせられた。A子さんが143cm跳べたのは、私の指導やテレビ取材のスタッフの力もあったが、それ以上にA子さん自身の力であった。143cm跳べた大きな理由は、A子さんが跳ぶコツを体得したからである。テレビには映らなかったが、公園で練習した時間と努力は半端ではなかった。午後2時から4時過ぎまでほとんど休まないで、必死になって練習した。
「A子さん、足の筋肉は大丈夫ですか?」
と何度も聞いた。
「大丈夫です。頑張ります」
と弱音を吐かないで、練習に取り組んだ。
当日の朝は寒かった。長崎空港に降りるとみぞれが降っていた。途中から雨になった。こんな中、テレビの収録はできるのだろうかと心配になった。午後、ようやく雨が上がり、砂場のある公園で収録が始まった。約1時間後、A子さんはコンスタントに80cmを跳ぶことができるようになった。私は不思議に思って、思わず質問した。
「A子さん、どうして80cmも跳べるようになったの?」
それに対して、A子さんからは思いもかけない返事が返ってきた。
「最初から踵をあげているようにしたんです。そして、つま先で跳ぶようにしました。そうしたら、遠くに跳べるようになりました」
これを聞いて、「これだ!」と心の中で叫んだ。A子さんは上に跳ぼうとしていた。だから、砂場のコンクリート、ビールケース、箱を使って、角につま先が当たるようにして斜め上方に跳べるようにしたのである。重心を前に倒して、体の重心のベクトルを斜め上方に持って行く体感をしてもらったのである。その究極の動きが、最初から踵をあげてつま先で跳ぶフォームなのである。家族全員が、膝を曲げて、つま先で跳んでと言っても変わらなかった動きが、踵をあげることですべてクリアーできたのである。
踵をあげれば膝は自然に曲がる。膝を曲げれば自然につま先立ちになる。つま先立ちになれば体重は斜め前になる。そのままの姿勢で跳べば強いキックができ、遠くに跳べるのである。A子さんは、繰り返し練習する中でこの方法を発見し、体得したのである。家族から何度も何度も指導されても変わらなかった立ち幅跳びが、自分の体験の中から生み出した方法によって変わったのである。
「踵をあげる」という指導を私はしていない。「最初からつま先立ちになる」という発想もなかった。全てA子さんが自分で考えた方法なのである。何とかできるようになりたいというA子さんの必死の思いが方法を発見させたのである。それ以降、何度跳んでも80cmをクリアーできた。143cmという記録は、何とかして遠くに跳びたいというA子さんの願いと、100cmを何としてでも跳ばせたいというスタッフの執念が生み出したものである。
そこから、私は教育の可能性を学ぶことができた。壁に向かって努力していく限り、壁は乗り越えられることを実感した。これからも、子どもたちに運動の楽しさを体験させていきたい。人生の素晴らしさを伝えていきたい。
与えられた根本先生。
この日のことを生涯、この女性は忘れないし、これからの人生の糧の
一つにしていくことでしょう。
私は中学の一教師です。
根本先生から、教育の可能性を教えたいただきました。
根本先生、益々のご活躍を!
日本のみなさんに、運動のすばらしさを伝えていってください。
成功体験が自己肯定力につながったのは、まちがいないと思います。
こうあるべきなのか という指針をいただきました。
143センチ跳べた女性のように、
クラスのこどもたちにも自己肯定感を育てていきたいです。
体育であれ、算数であれ、図工であれ、全てに通じる教師修業の必要性を
説いた実践であると思います。
模擬授業も受けたことがあります。
「立ち幅跳びの記録を向上させる」という事実の裏には,
苦労して手に入れた技術と,深い優しさが込められていると思いました。
憧れます。