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3回目の今回は、「子どもを見取る方法について」です。子どもとの関係を築いていく上で重要なのが、見取りです。もちろん前担任からの引継ぎ情報にも目を通しますが、それが全てではありません。子どもからしても最初から色眼鏡で見てくる先生と仲良くしたいとは思いません。担任の先生が変わり、意気揚々と教室に来ているのに前年度の失敗を持ち出されては、この先生嫌い!となってしまいます。ではどうやって子どものことを見取りながらインプットしていけばいいでしょう。
人間観察法
皆さんは、渋沢栄一さんという方をご存知でしょうか? 2024年から流通する1万円札の肖像画になる人です。
新一万円券のイメージ。財務省ウェブサイトより。
渋沢栄一さんは江戸時代末期から昭和初期にかけて活躍した実業家で、日本の資本主義の父と呼ばれている人物です。設立にかかわった企業は500社を超えるといわれ、東京商工会議所や日本赤十字社設立など社会活動にもその手腕を発揮しました。
その渋沢さんが、人を見極める方法を説いています。それが「人間観察法」です。ここでは、その中でも代表的な「視観察」について解説します。
「視観察」とは、人間を観察する3つの目の付け所のことです。この方法は子どもを見取る時にも十分通じる方法です。
視…その子の目に見える行動、姿勢などのこと
これは、子どもの行動など一番目につく部分を見ることにあります。例えば、掃除をしている時の様子や授業中などの行動です。観…その人の言葉にしている目的、意識などのこと
これは、子どもが行動をしている時の目的などを見ることです。なんのために学校に来ているかとか、他の学年の子に接する時の意識などです。例えば、サッカー選手だとすると、サッカーを通して子供たちに夢や希望を与える人になりたいという意識のことです。察…子どもが何に満足や喜びを得ているか
子どもが、日常において一番喜びを感じていて、優先している目的などを見ることです。これは、3つのうちでも一番良く観察しないといけないことで、ここを見極めることができるかどうかが人間観察の肝になります。
子どもがどんな本を読んでいるか? 何をしている瞬間が一番いい笑顔になるのか? そんなことをクラスの子ども全員分知っていますか? その子が何に喜びを感じているかがわかると、一瞬で仲良くなれます。わからない時には子どもに直接聞くのも良いでしょう。一人ずつカードに書いて、お互いに紹介し合うワークをしても良いでしょう。
もちろん普段の生活の中で見取ることができればいいですが、わかりやすい子もいれば全然わからない子もいます。最初の個別懇談までに見つけることを目標に、全員に「察」ができれば、きっと保護者も「この先生はよく見てくれている!」と満足してくれると思います。逆に保護者も知らないような情報を教えられたり、家でしか見せない姿を教えてもらったりすることで、信頼関係を築けることもあります。
ポイントは、目に見える物だけを信じないということです。人の本質を見極められること。この子の行動の裏側は?と想像しながら接することで見えてくるものがあります。最初からいきなりわかるわけではありません。まずは1日5分でいいので、子どもの行動をチェックする時間を設けてみましょう。児童名簿にチェックをしていくと、よく見えている子と全然見えていない子がわかってきます。偏りがないように、記入の少ない子を中心に書き記していきます。少しずつ書いていくと、ちょっとした表情の違い、一緒にいる友達の変化、ルーティン化していた行動の変容に気付きます。いつもは外にサッカーをしにいくのに、今日は教室で本を読んでいるな。四人グループでいたのに、今日は三人と一人になっているな。そんなことを気付いた時に、本人に直接聞くこともあれば、養護教諭の先生にさりげなく聞いてみてもいいでしょう。教師一人では気付けない意外な変化の兆しや、意識の変容を知れることもあります。
人のふり見て我がふり直そう
視観察は子どもの見取りに役立つとともに、教師自身も出来ているのか!?という基準になります。
- 教室の床にあるゴミを拾えているか?
- 子どもに対してどんな行動をしているか?
- 困っている人がいる時に率先して動けているか?
- どんな目的を持っているか?
- 人に話すことができるものがあるか?
- 自分はどんな時に満足しているか?
- 自分の欲望にとらわれていないか?
今月のポイント
- 「視観察」で子どもを見取ろう
- 目に見えるものだけを信じない
- 子どもを知るためには、まずは自分を知ることから
〈参考文献〉
渋沢栄一著・守屋淳翻訳『現代語訳 論語と算盤』ちくま新書、2010年
渋澤健著『渋沢栄一 100の訓言』日経ビジネス人文庫、2010年