堀江式 国語授業のワザ
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堀江式 国語授業のワザ(21)
新出漢字・語句の学習を「習得」から「活用」に変えよう!
―主語と述語が照応した安定した文を生み出す力をつける―
兵庫教育大学大学院教授堀江 祐爾
2014/2/5 掲載

【意味調べ】

新出漢字・語句のドリル学習や意味調べをさせていますが、どうしても単純な習得的な学習活動になりがちです。より活用的な学習活動にするためのワザを教えてください。

ココがポイント!

新出漢字や語句を使って主語と述語とが照応した安定した文を生み出させる

 『平成20年版小学校学習指導要領国語』において、〔第1学年及び第2学年〕の〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕の「イ 言葉の特徴やきまりに関する事項」における「文及び文章の構成に関する事項」として、「(カ)文の中における主語と述語との関係に注意すること。」ということがらが示されています。
 『学習指導要領解説』においては、次のように記されています(太字は引用者による)。

ここでいう「主語と述語との関係」とは、主語と述語との照応関係を指す。文の骨格をなし、明確な文を書く最も基礎となる事項である。児童の書く文は、長くなったり複雑になったりすると、主語と述語がねじれたり、どちらかが表現されず照応関係が不明確になったりしやすい。文の意味を明確に伝えるためには、主語と述語とが照応することが大切であるということについて、文章を読んだり表現したりするとき強く意識できるように指導をすることが必要である。

 「主語と述語との関係」は「明確な文を書く最も基礎となる事項」であり、「文の意味を明確に伝えるためには、主語と述語とが照応することが大切である」と述べ、そうしたことを「強く意識」させる指導が必要であることが強調されています。〔第1学年及び第2学年〕における項目ではありますが、基礎的な力として、当然、どの学年においても重視されるべきことがらです。
 新出漢字のドリル学習や新出語句の意味調べをさせる家庭学習を課している教師は多いことでしょう。その学習活動が、単なる「手の運動」「辞書の丸写し」になってしまっていることもあるのではないでしょうか。もちろん、漢字を何度も書いたり、辞書を写したりすることに価値がないと言っているのではありません。「思考力・判断力・表現力」の基礎を養う〈活用を図る学習活動〉になっているかが、問題なのです。
例 この板書は、三木惠子先生(兵庫県たつの市立小宅小学校)の学級(当時6年生担任)での4月の授業びらきの時期のものです。「ぼくは、〇〇です。」と主語と述語とが照応した文を生み出すことを求めています。さらに、読点や文末表現にも注意するようにうながしています。
 こうした基礎的なことがらについてしっかりとした指導を低学年から積み重ねることによって、高学年になって複雑な文を書くときにも、主語と述語とが照応した安定した文を書くことができるようになるのです。

効果抜群! 堀江式 大ワザ&小ワザ

ワザ1 新出漢字を使った文を生み出す機会をさまざまな形で設ける

 三木先生は、漢字ドリルの学習において、次のような工夫によって上に述べたことを実現させています。
 ドリルは反復学習を重視するものであるため、漢字ドリルの内容のほとんどは〈習得を図る学習活動〉であることは当然のことです。そこにちょっとした工夫を加えることによって、〈活用を図る学習活動〉へと変えることができます。

例

 ドリルの最後に、文作りを行う課題が用意されています。例を見ると、「テレビの電源を切る。」というように、主語が省略されています。これは辞書の記述や、ドリル本体の紙幅の影響でしょう。辞書は紙幅が限られていますのでしかたがありません(辞書の例文においても主語と述語がそろっている場合があります)が、せっかく文作りをするのですから、ドリルにおいては主語と述語が照応した文を生み出させたいものです。
 なぜなら、『学習指導要領解説』においても述べられていたように、「文の意味を明確に伝えるためには、主語と述語とが照応することが大切である」からです。これをしっかりと行わせることにより、ねじれた文を書くことが少なくなっていきます。
 この学習者は、「ぼくは、資源を守る。」と、主語と述語が照応した文を生み出しています。
 さらに、ある日の三木学級(2年生)の背面黒板には、画像のように、新出漢字を書いた短冊黒板が用意されていました。「鳥」「通」「茶」などの一番上の漢字は教師が書き込んだものです。

例

 ドリル学習を早く終えた学習者や、朝早く学校に来た学習者が自分で判断して、漢字の下にその漢字を使った文を書き込んでいきます。「鳥が道に止まる」「私はお茶をのむ」などの文を生み出しています。
 この背面黒板にも「〇〇は(主語)……〇〇です。〇〇ます。(述語)のととのった文作り」と書かれています。加えて、「文章の中で使えることが大切」ということが強調されています。
 このようなちょっとした工夫によって、〈習得を図る学習活動〉の一部を〈活用を図る学習活動〉に変えることができます。ぜひ試みてはいかがでしょうか。

ワザ2 文を自分の力で生み出させることによって教材のより深い理解につなぐ

例 このワークシートは、西垣惠子先生(元兵庫県豊岡市立高橋小学校・現兵庫教育大学実地指導非常勤講師)が、教材「ちいちゃんのかげおくり」(3年)の学習指導の際に用意したものです。
「国語辞典(じてん)を使って、次の言葉の意味をしらべましょう。」という指示のもと行われた、いわゆる意味調べ学習活動です。もちろん、このワークシートの主たる目的は〈習得を図る学習活動〉です。
 一般的には、国語辞典を調べて、それを書き写させるだけのワークシートにとどまるでしょう。それに対して、この西垣ワークシートには、〈習得を図る学習活動〉から〈活用を図る学習活動〉へと展開する工夫が凝らされています。
 西垣先生は、辞書を引いて「かげおくり」の意味を書き込ませた後、「かげおくり」という言葉を用いた文作りに取り組ませました。もちろん、主語を明示し、主語と述語とが照応した安定した文を生み出すように指示をしました。
 ワークシートには、「ぼくは運動場で天気のいい日にかげおくりをしました。」という文が書かれています。注目したいのは、この文の中の、「運動場で」と「天気のいい日に」という表現です。「かげおくり」をするための条件である「運動場=広い場所」と「天気のいい日」ということがらが、みごとに書き表されています。この学習者が「かげおくり」という言葉をしっかりと使えるようになった証拠といえましょう。
 この学習者は、「出征」という言葉についても、辞書を引いてその意味をワークシートに書き込んでいます。そして、「ちいちゃんのお父さんが出征しました。」という文を生み出しています。教材の中で起こった出来事としっかりと結びつけて、出征という言葉を使いこなした文を生み出したという意味において、〈習得を図る学習活動〉から〈活用を図る学習活動〉へ向かう学習活動の一例と見ることができるでしょう。
 〈習得を図る学習活動〉から〈活用を図る学習活動〉へと向かう学習活動は、このような工夫を凝らすことによって、どの教師でも実現できるものなのです。

堀江 祐爾ほりえ ゆうじ

兵庫教育大学大学院教授、元中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会国語専門部会委員、平成20年版中学校学習指導要領(国語)作成協力者、「国語教育の実践と研究をつなぐ会」世話役代表。
主な著書に『「国語力」向上の授業改革1 国語科授業再生のための5つのポイント』『小学校新国語科 言語活動の展開がよくわかるシリーズ1 書く力がぐんぐん伸びる!「言葉のワザ」活用ワーク』、などがある。最新刊『小学校国語科授業アシスト 実物資料でよくわかる!教材別ノートモデル40』が好評発売中!

(構成:林)
コメントの一覧
8件あります。
    • 1
    • 基 洋宏
    • 2014/2/5 19:01:37
    堀江先生が提案してくださっている方法は、明日からすぐに取り入れることができ、そのうえ、きちんと継続することで子どもたちに確実に力がつくと思いました。また、この連載を拝読し、平素「主語と述語を照応させること」は大切だと思いながら、つい見逃してしまっていた事柄だと反省しました。「堀江式」を取り入れることによって、漢字の学習を楽しく行いつつ、子どもたちにきちんと力をつけることができます。ありがとうございました。
    • 2
    • nekoneko
    • 2014/2/6 23:22:59
    漢字の練習というと、同じ漢字を機械的に何回も書かせというやり方もあるかと思いますが、今回の方法を読んで、何のために漢字の練習をしているのかを改めて考えさせられました。漢字を学ぶのはまさにそれを文章の中で使うためですよね。例文を考えさせるというところまでは行うことはあっても、それを主語、述語のととのった例文にさせるというところまでは思いがいたりませんでした。主語、述語ということがらをそれだけをとりだして行うのではなく、漢字を学ぶ際に少し意識をして文を作るというのはすばらしい工夫だと思います。このような工夫を重ねる事で。子どもたちは漢字の練習に限らず,何をする際にも、ただ漫然と練習をするのではなく、何のためにこの作業をしているかを常に考えるようになるのではないかと思います。


    • 3
    • dekoponn
    • 2014/2/13 23:07:20
    「生きて働く力」ということを今回のワザで感じました。漢字を学ぶというのは、自分の気持ちや考え、あるいはいろいろな客観的な物事も含め、言葉を用いて相手に情報を伝えるためです。そのためには、文章の中で使える形で漢字を学ぶ必要があります。まさに今回の漢字練習ワザはそのことを教えてくれているのではないでしょうか。さらに、主語。述語の整った文を作らせているというのが今回のワザの特徴だと思いますが、これも本当にすばらしい工夫だと思います。「文法」ということで、主語述語の関係をとりたてて扱うことも意味はあると思いますが、このように日常的な時間の中で、「文の組み立て」を押さえていくことで自然な形で文。文章を書く力が身につくように思います。
    • 4
    • u12059e
    • 2014/2/18 14:03:47
    言葉で話したり、文字で文章を書いたりする際に主語や述語は重要な意味合いを持ってきます。小学校低学年の授業の中でも特に重要視される項目のひとつであり、それを考慮しての新出漢字・語句の学習を「習得」から「活用」に変えるワザで難しいことは決してせずに意外に簡単なことなので、僕が授業を受け持ったときでも十分に活用できることだと感じました。漢字を学ぶための理由としては自分で文章を書いて伝えるために必要なことで、文章の中で使える形で漢字を学ぶ必要があります。さらに、主語。述語の整った文を作らせているというのが今回のワザの特徴だと思います。今後国語を教師として教える際は、本来当たり前にできないとだめなことを、当たり前にできるようになるように自分なりに考えて教えるようにできるようにしていきたいです。
    • 5
    • u12025k
    • 2014/2/18 20:44:53
    新出漢字や新出語句の学習において、その言葉の意味を理解し書けるようになることはもちろん大事ですが、テストで書けるだけでは意味がなく、学習した語句を日常の中で適切に使用できるようになることを目的としなければなりません。この学習活動では、実際に新出語句を使用した文章をつくる機会を設定し、さらに主語と述語の関係に注意しながら文章を組み立てるよう促すことで、述語に対する適切な主語を子ども自身で選択したり、その語句をどのような場面でどのように使用するべきなのかを考えたりする活動を同時に行うことができます。新出語句に対する理解を深めるという目的だけでなく、普段の学習時から主語・述語の関連に配慮する習慣を身につけておくことで、長い文章を書いた時でも主語と述語のねじれを起こさないようになるという目的をも含んでいるというところに重要性を感じました。
    • 6
    • がま
    • 2014/2/21 16:46:38
    主語と述語が整っている安定した文を作ることは、やはりどこかでトレーニングを積んでおく必要があると感じます。そうでないと、6年生になっても、大人になっても、主語と述語とが照応した文が書けないままになってしまいます。堀江先生が紹介する実践では、小学生のうちから、しかも、「習得」で終わりがちな進出漢字の練習で、主語と述語が整った文作りを行っておられます。少しの工夫で短時間にできるので、このような取組を続けていくことで、いざ長い文章を書く時になっても、学習者は主語と述語が照応しているか常に意識をして書くことができていくのだと思います。習得で終わらせてしまいがちだった国語の授業の一部分を、活用に変化させるものです。ぜひ、取り入れて実践してみたいです。
    • 7
    • 島唄
    • 2014/2/23 23:13:16
    わかりやすく、意味が明確な文を書くためには、主語と述語が整っている必要があります。また主語と述語は2年生で学習しますが、高学年でもよくまちがえているのを目にします。主語と述語はやはり螺旋的に何度も練習して身につけていくべきもので、今回紹介されている方法を使うと日常的に主語・述語を意識することができると思います。三木先生や西垣先生の工夫を取り入れて、新出漢字や語句の学習を、習得だけでなく、活用を図る活動に変えていきたいです。ありがとうございました。
    • 8
    • ローズマリー
    • 2014/2/28 15:51:22
    「新出漢字」や「語句調べ」は、読解や作文などとは対局にあるもので、まさに「習得」の最たるものだと考えていました。「何度も何度も繰り返して書く」とか「単純な作業」という固定観念がありました。今回のワザを読んで、「習得」が中心となる学習においても常に「活用」ということを考えていく必要があるのだということがよくわかりました。学習活動を「習得」にとどまらせておくのはとてももったいないことなのですね。「新出漢字」や「語句調べ」にとどまらず、子どもたちに、より「生きて働く力」をつけることができる学習活動を考えていきたいと思います。
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