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- 自治でつくる学級づくり
- 学級経営
協働するには準備不足の子どもたち
この連載で、クラスが自治的集団になるためには、協働的問題解決能力を高めることが必要だと言ってきました。協働的問題解決能力は、実際に力を合わせて問題を解決してみないことには身に付かない能力です。しかし、問題が起こったからと言って「さあ、解決してごらん」では、今の子どもたちには、ハードルが高過ぎる状況があります。なぜならば、子どもたちは協働するためにあまりに準備不足の実態があるからです。
社会の状況や学校を取り巻く環境が変わり、子どもたちをシビアな問題に向き合わせることが難しくなりました。学級の問題を話し合うには、様々な困難が立ちはだかることは、現場に居る方ならすぐにわかることでしょう。実際にクラスでトラブルが起こった時に、「話し合いなさい」と子どもたちに任せることができるクラスが、今、全国にどれくらいあり、どれくらいの教師がそれを決断することができるでしょうか。何のトレーニングもしていないクラスでそれをすることは怖すぎます。
また、前回にも述べたように、協働は万能ではありません。@ただのり、A社会的抑止、B思考の阻害、C同調圧力などのいくつかのリスクがあります。機会を与えれば、子どもたちが効果的な問題解決をするかと言えば、そうではないのです。
自治的集団においては、教師は、子どもたちに決定権を委ねる委任的リーダーシップを採ります。究極的には、教師は「何もしない」ことが望ましいです。教師があれやこれやと手や口を出すほど、子どもたちの自治は失われていきます。それは火を見るより明らかです。しかし、育てていない状態で教師が何もしなかったら、子どもたちはそれこそ「何もしない」可能性があります。
勿論、子どもたちは主体的な存在です。とことん待っていたら何かをするかもしれません。しかし、今の学校現場にそれほどの余裕があると思えません。教師が「何もしない」ようになるために、教えるべきことがあるのです。それでは、子どもたちに何を教えたらいいのでしょうか。
クラス会議に見る協働のためのしつけ
私がクラスの協働的問題解決能力を高めるために注目している実践に、アドラー心理学に基づくクラス会議(以下、クラス会議)があります。クラス会議は、話し合い活動として捉えられがちですが、子どもたちが人生において成功を収めるために必要な、知識やスキルや態度を話し合い活動を通して、効率よく学ぶ方法です。クラス会議は、話し合い活動というよりも、人格教育のような側面を持っています。人格教育には、良好な関係性とそのプロセスに参加することが効果的だとされています。
クラス会議では、アドラー心理学の対人関係の基本的な態度である尊敬と信頼を大事にします。尊敬と信頼を基盤にした良好な関係性の中で、学ぶべき内容は最も効率的に学ばれます。安心できない状況では、それらにどんなに価値があろうとも、子どもたちは学習しようとは思わないのです。また、よりよい生活をつくるには、その解決策を「教える」ことよりも「考えさせること」で、主体性を引き出します。
こうした集団に尊敬と信頼の関係を築き、協働的な問題解決を可能にする一連の指導事項はポジティブディシプリン(肯定的しつけ)と呼ばれています*1。クラス会議の在り方は多様です。従って実践者によって、その内容は少しずつ異なっているでしょう。ここでは、私がクラス会議を実践する場合に,子どもたちにしつけていたことのいくつかの紹介をします*2 。話し合いの進め方は、参考文献をご覧ください*3。ここでは、子どもたちに伝えていた内容を示します。
@ ポジティブな感情を大事にしてそれを伝えよう
生活の中では、よい感情を味わうことも、嫌な感情を味わうこともあるでしょう。どちらに注目するのも、自分次第です。日々、いい気分になったこと、誰かをほめたいこと、誰かに感謝したいことを心にとめて、それを誰かに伝えましょう。よい感情は、言葉にしたあなたの心も、それを聞いた人の心も明るくあたたかくすることでしょう。
A 物事は順番にやろう
誰かがずっと話をしていることはありませんか。順番に全員で話しましょう。言えないときは、パスをしてもいいですよ。「パスをします」という意志を示すことも、立派な参加です。全員に役割がありますか。その役割は尊重されていますか。ここにいるみんなは、対等です。
Bみんなで決めよう、そして、みんなで決めたことはみんなでやろう
みんなで決めていますか。みんなにかかわることを一部の人で決めていませんか。みんなにかかわることはみんなで決めましょう。みんなで決めたことはみんなでやりましょう。
C聞いていることを態度で示そう
みなさんはどんな風に話を聞いて欲しいですか。笑顔で頷きながら聞いて欲しいですか。よそ見をしながら聞いて欲しいですか。話を聞くということは、耳に情報を入れることだけを言うのではありません。話をしっかり聞いていることを示すことで、話し手は聞き手を信頼します。つまり、聞いていることを態度で示すと言うことは、相手とよい関係をつくることになります。
D相手の気持ちを考えた言い方をしよう
たとえ、あなたが正しいことを言っても、言い方を間違えるとそれは、相手を傷付けてしまうことになります。自分が違うと思っても、相手にとっては、大切なことであり、本当のことかもしれません。まずは、相手の言い分を受け止めてから、「私は、〜思う」などと言ってみるようにした方が、あなたの言い分は伝わるし、相手ともよい関係ができますよ。
E話し合いの目的は解決するためです
私たちが話し合うのは、どちらが正しくてどちらが間違っているのか決めるためではありません。互いをわかり合うためであり、問題を解決するためです。罰や非難を解決に用いても、問題は決して解決をすることはありません。
これらは、子どもたちの話し合いを見て、これらが出来ている子どもたちを探して、そのよさを指摘して、その後でその行動を意味づける時に、語ります。勿論、子どもたちの姿から見られなかったときは、語り聞かせることもあります。一度や二度では、定着しません。繰り返し、繰り返し伝えます。
*1 ジェーン・ネルセン、リン・ロット、H・ステファン・グレン、会沢信彦訳『クラス会議で子どもが変わる アドラー心理学でポジティブ学級づくり』コスモス・ライブラリー、2000
*2 赤坂真二『赤坂版「クラス会議」バージョンアップガイド みんなの思いがクラスをつくる』ほんの森出版、2016
*3 赤坂真二『クラス会議入門』明治図書、2015
次年度の集団づくり戦略計画の作成はお進みですか。
心強い味方として「学級を最高のチームにする極意シリーズ」があります。私が基本的な考え方を示した理論編と、全国の気鋭の実践が実践編を書きました。実践家の皆さんには、その実践を支える考え方と失敗しそうなポイントとそのリカバリー法も示していただきました。従って、「その人だからできる」という域を超えて広く汎用性があることでしょう。
本シリーズのラインナップは、集団のセオリーに則って構成されています。皆さんのニーズのどこかにヒットすることでしょう。
学級集団は、どんなに良好な状態であろうともその殆どが4月後半から6月にかけて最初の危機を迎えます。
子どもたちがいろいろなメッセージを発してくる頃です。それを如何にうけとめてそれを彼らの成長につなげるかが危機を回避し、学級を機能させるポイントです。
最初の危機を乗り越え、2学期以降の経営が安定するためは、教師と子どもたちの個人的信頼関係を如何に築くかにかかっています。メンバーとの個人的信頼関係の強さが、リーダーの指導力の源泉となります。リーダーとの強い絆が、子ども同士の積極的な協働のエネルギーとなります。技術論だけでは、子どもたちは主体的に行動しないのです。子どもたちのやる気に火を付けるのは、個人的信頼関係の構築にかかっています。
学級はルールから崩れます。また、子どもたちのやる気に満ちた集団は、教師のパフォーマンスでも声の大きさでもなく、ルールの定着度によります。良い学級には、良いルールがあります。そのルールの具体と指導法がギッシリです。
本シリーズは、学級集団づくりの1年間の実践をまるごと見渡すことができます。しかも、理想像から始まるという極めて戦略的な構成になっています。さらに、学級づくりの定期点検ができるチェックリストがついて、定常的に同じ観点で振り返りができるようになっています。
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