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何ができる?学校教育のメタバース活用
埼玉県公立高等学校浅見 和寿
2024/1/1 掲載

なぜメタバースを導入しなければならないのか


 現在、不登校児童生徒数は、小・中学校で約30万人、高校においても約6万人と前年度より増加している。そして、この数値は小・中・高ともに近年増え続けている。このような状況の中で、文部科学省は、不登校の高校生に対する支援策として、遠隔授業による単位の取得を認める方針を定めた。今まで小学校・中学校の不登校児童生徒においては、多様な教育機会を確保し、出席扱いとすることを認めていたが、高校でも上限は36単位と制限はされているものの、卒業に必要な単位の半数近くを単位認定できるようになったということだ。こうした状況で、効果を発揮するのがメタバースである。

学校教育にメタバースの技術を取り入れることの可能性


 メタバースと聞くと、「ゴーグルが必要不可欠なのではないか」「3Dで酔ってしまう生徒もいるのではないか」という声もあるが、ゴーグルも必須でなければ、3D=メタバースでもない。そもそもメタバースというのは、インターネット上の仮想空間を指し、現在ではいくつもの空間(3D、2D)が準備され、様々な活動が行われている。
 まずは、アバター(自分の分身のようなキャラクター)を作成し、メタバースを歩き回ることができる。使用するメタバースにもよるが、教室や南の島のような場所、宇宙空間のような場所まである。その空間の中で、アバター同士1対1で話をすることも、教員の話を一斉に聞くこともできる。また、アバター同士でグループワークをすることも可能だ。普段学校で行われている教育活動がインターネット上でできるというイメージである(写真1)

写真1

 GIGAスクールによって1人1台端末の整備が進み、ICTを利用した様々な授業ができるようになった。その中でメタバースを利用することは、非常にメリットが大きい。今までもWeb会議システム(Zoomやmeet等)によって、オンライン授業をしている学校も多くあり、わざわざメタバースにしなくても良いのではないかという意見もあるかもしれないが、私は、2つ大きく異なる点があると考えている。それは主体性の向上「余白」の活用である。ここから先は、本校の事例をもとに説明していく。

効果的な活用事例について


 本校では、MetaLife(メタライフ)というメタバースを利用している。その理由としては、2Dのゲームのような画面で、生徒も親しみを持ちやすく、楽しく学習に使用できると考えたからである。また人数や活動の制限は出てきてしまうものの、一定の人数までは無料で使用できるのも決め手であった(ゴーグル等も不要)。
 本校は定時制の高校であるため、仕事と学業を両立させる等、様々な事情により毎日登校できない生徒もいる。そのような生徒のために、私は、学校での対面の授業の際、メタバースでも授業が受けられるように授業の映像をリアルタイムで流し、校外でも授業が受けられるようにしている。また、校内の生徒が、校外の生徒とリアルタイムでグループワークを行うこともできる(写真2)

写真2

 また、本校では「総合的な探究の時間」においてもメタバースを積極的に活用している。今年度、夏季休業中において様々な職種(JICA、一般社団法人ディレクトフォース、各株式会社CEO、埼玉大学の大学院生等々)・年代(20代〜60代)の方に協力してもらい、「人生について」「高校時代を振り返って」「夢の叶え方」等講演やワークショップをしていただいた(図1)。ここでは、生徒自らの意志で話を聞きに行けたり、グループを作ったりすることができる。こうした点もメタバースの強みの1つである。

図1

 今回、メタバースを活用したことで、生徒が積極的に質問ができるようになった。初対面の方と話すとなると、非常に緊張するので苦手という生徒が多い中、アバター同士で会話することによって、ハードルが下がり、主体性が増し、発言の回数が増えたと考えている。
 さらに、「余白」も非常に大きな効果があると感じている。今までのWeb会議システムにおいては、主催者側の裁量で発言のルールやグループワークをするタイミング等も決めていたが、メタバースはある程度個々に裁量がある。例えば、講義を聞いている時に、わからないことがあればとなりのアバターと相談したり、そのことについて調べたりすることもできる。また、講義後に講義について生徒同士でディスカッションしたり、直接講師と話したりすることもできる。そして、その行動は、画面上では見えているものの、話している内容は当事者しかわからないということである(写真3)

写真3

 このように、普段対面の教室で行われていたことが、メタバースでもできるようになってきたといえるだろう。もちろん、メタバースならではのトラブル等も含んではいるものの、メタバースは非常に可能性を秘めているといえる。

〈参考資料〉

浅見 和寿あさみ かずとし

埼玉県公立高等学校教諭/大東文化大学兼任講師
著書
『ゼロから始めてここまでできる!公立高校でのICT教育実践 プロジェクターや動画を活用した授業』(翔泳社)
『ゼロから始めてここまでできる!公立高校でのICT教育実践2 オンライン授業やプロジェクター活用事例』(翔泳社)
『漢文の知識ゼロでも、桃太郎のマンガで共通テストまでの力がしっかり身につく』(旺文社)
『Z世代の生徒とつくるはじめての部活動』(明治図書)

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