1.「指導言」って?
授業において教師の意思を伝達する場合、そのほとんどが音声言語を用います。授業を参観していても、この音声言語が明確、かつ適切な授業は、子どもたちの活動が活発です。意図をもって教師が発する音声言語を「指導言」と呼んでいます。教師力の大きなひとつの要素です。
指導言には、説明、指示、発問(1991、大西忠治)があり、私が昨年まで勤めていた大阪教育大学附属池田小学校では、評価の言葉まで含め、大きく指導言としていました。
それぞれ役割が違います。
指導言の種類と役割
指示 子どもの行動に働きかける言葉
発問 子どもの思考に働きかける言葉
説明 子どもの行動、思考を整理する言葉。授業の枠組みをつくる言葉
評価 子どもの活動を価値づける言葉。さらなる活動に導く言葉
これらの指導言のもつ役割を理解したうえで、意図的に用いることが大切です。
例えば、跳び箱「開脚跳び」の授業でみてみましょう。
「踏み切り板の真ん中で、『どん』と音をさせて踏みきりましょう」
これは指示です。そこには子どもたちが行動したくなる要素が入っています。
「音を立てずにピタっと着地するにはどうしたらいいかな?」
こちらは、発問になります。これまでの学習経験からどうすればいいのか考えたり、この問題を解決するために、試技を繰り返したりします。考える要素が入っています。
しかし、これらの指示や発問をするためには、その前提をつくる説明が必要です。踏み切り板の真ん中とはどこなのか。音をさせるには両足で踏み切らなければならないこと。「ピタっと」とはどんな状態なのか。さらに安全面における注意なども説明しなくてはならないでしょう。子どもたちの行動や思考を整理して、安心して学習に向かえるように、理路整然とした言葉で伝える力が必要です。
また、子どもが行ったこと、考えたことに対して、価値づけをおこなう言葉ももたなくてはなりません。最初は、あらかじめ「このような動き、このような考えをみつけたときにはほめよう」「このあたりまで学習が進んだら、こう揺さぶりの言葉を投げかけよう」と決めておくこともよいですね。「できた・できない」だけではなく、次の行動、思考につながる言葉を投げかけたいものです。
2.指導言を支える「間」
指導言と同じように大切にしたいことが「間」です。漫才や落語などを見ていると、とても勉強になります。授業においても、この「間」次第で、同じ言葉を発しても、その言葉が活きてくるかどうか全く違います。
言葉を活かすためのいろいろな「間」
- ここからが本題。よく聞いてほしいことを言う時の「間」
- 子どもたちが新しく発見したことを伝えにきたときに、感嘆の声をあげるまでの「間」
- 教師の発問に「ボケ」で返してくる子どもへのつっこみまでの「間」
- ここはじっくり考えてもらいたいときの発問から次の説明、指示までの「間」
などなど……
しかし、この「間」を扱う力、「どうやってつけるのか」と聞かれるとなかなかうまく説明できません。一概に、こんなときはこれだけの「間」ということはできません。目の前の子どもの様子や雰囲気、教師の表情などによっても変わるからです。
私は、「飲み会で、授業はうまくなる!」とよく話しています。宴席では、いろいろな人がいます。年代もばらばらかもしれません。聞き役に徹する人、ひたすら自分のことばかり話し続ける人、流れにのらない話をする人……。そんな中で、みんなを楽しませる発言をしたり、周りの人にうまく話をふったり、人の話に絶妙な合いの手(つっこみ)をいれたりできる人は授業が上手い。もちろんそれだけではなく、教材研究や経験なども必要です。しかし、そのような先生の学級の子どもたちは、授業への参加率が高いです。
これは極端な話かもしれません。飲み会がお茶会、ちょっとした会議などでもいいでしょう。つまりは周りの状況をよく見ることのできる人です。時には「間」を感じ、時には「間」をぐっと我慢しながら、「間」を上手に操り、適切な指導言を発することで、授業をうまく進めていける人です。
今月の授業ベースボール型ゲームで子どもたちにピッタリの「指導言」を考えよう!
では、指導言を交えながら、ベースボール型ゲームにつながる低学年のゲームの授業を紹介します。
はさみんベースボール
ベースボール型ゲームの面白さは、アウトかセーフかのドキドキ感です。しかし、そのドキドキ感を味わうためには、複雑なゲームの構造を理解しなくてはなりません。そのゲーム構造を理解しながら、楽しさの中心であるドキドキ感は残していくために、「はさみん」というゲームからスタートします。
例:はさみん
指導言例
「ボールを持っているオニにタッチされたときや、オニがアウトゾーンで『ドン!』と言ったときに安全地帯にいないときはアウトです」(説明)
「どんなときに安全地帯をはなれることができるかな」(発問)
「すごい! 勇気をだしてオニの動きを見ていいスタートができたね!」(評価)
例:はさみんベースボール
指導言例
「ボールをもって、アウトゾーンを2人で踏みます。両方のアウトゾーンを踏めたらアウトです。アウトゾーンを踏む順番はどちらからでもよいですよ」(説明)
「どこに投げれば、たくさん得点できるかな」「何を見て、行くか止まるか決めるのかな」(発問)
「投げる順番を決めましょう。2分後に挨拶をします」(指示)
「○○くんは、みんなと反対のアウトゾーンにチーターのような速さでむかっていたね!」(評価)
指導言は、すべてが予定通りに発せられることはまずありません。指導言の具体的な内容、各指導言の軽重のかけ方、使い分けは授業によって一様ではありません。もちろん教科・領域、単元によっても異なります。私たちは、生きた授業の「いま」「ここ」の子どもたちに対する授業において、刻一刻と変化し続ける状況を感じとり、即興的な判断により、指導言を発することのできる教師力をつけなくてはなりません。教師の指導言ひとつで、学級の雰囲気はまったく異なるものになります。
絶対成功のポイント
- 意図をもって指導言(指示・説明・発問・評価)を使い分けよ!
- 指導言を支える「間」をうまく操るべし!
参考・引用文献 大西忠治『指導言(発問・助言・説明・指示)の技術 第11巻』明治図書、1991
教材と子どもをつないだ教材研究から生まれる「指導語」の適確さ。さらに「間」をうまく使えるには、子ども理解・子どもを観察する力をつけていくことだと思います。ですから「間」は説明できるものではなく、その時々の子どもの状況に応じて経験していくものだと思います。「子どもから学ぶ」大切な一つだと思います。