1.「観る力」
「子どもへのひいきはだめか?」
以前、ある校長先生が、会議で皆にこう聞かれました。心の中で、「当り前だろう」そう思っていました。さらに、その後こうも続けられました。
「特定の子どもをひいきすることは許されない。しかし、全員を同じようにひいきすればいい。すべての子どもが、先生に自分はひいきされていると思わせればいい」
はっとさせられたのを思い出します。子どもが、「先生にひいきされている=愛されている」と思うこと。それもすべての子どもたちがです。言い換えれば、すべての子どもたちが自己肯定感をもち、一つの教室にいる状態といえるかもしれません。学級経営をしていくうえでも、授業をおこなううえでも、大切にしたい視点です。
しかし、いろいろな性格、状況にあるすべての子どもたちに、自分が一番愛されていると感じさせることは、決して簡単なことではありません。様々な要因が考えられるでしょうが、まずは、その子「だけ」の変化にどれほど多く気づいてあげるかが勝負だと考えています。プラスの変化のみならず、時にはマイナスの変化もあるかもしれません。「髪切ったの?」「元気ないね」といった小さな変化かもしれません。教師自身が、そんな子どもたちの小さな変化に気づく力、「観る力」をもつことが、すべての子どもが「愛されている」と感じることにつながるのでないでしょうか。
2.何を観るのか
では、この「観る力」。一体、何を観るのでしょう? 漠然とただ眺めていても、すべての子どもたちの変化をみつけることはできません。授業に限って考えてみましょう。視点をもって授業にのぞまなくてはいけません。私は、「動き」「心」「つながり」の3つの視点で、子どもたちを観ています。
「動き」…「身体の動かし方」を観る
以前とどのように変化したのかを中心に観ます。一つの技ができたかどうかに終始せず、そこに至るまでにたくさんのスモールステップを設定しておくことが、その変化を捉えるポイントです。例えば、前転の授業だと、ただ回転して起き上がるというゴールだけを見据えるのではなく、「しっかりパーにして手を着けたね」「腰が上がってきたね」「リズムがいいね!」「着地がピタッとかっこいいね」など、いくつかの小さなゴールをもっておきます。
「心」…「子どもの気持ちの変化」を観る
表情や言葉、行動などを観ます。特に、運動が苦手な子や学習になかなか前向きになれない子どもを中心に声をかけたいものです。
「その笑顔でみんなが元気になるよ!」「いいアドバイスだね! あとでクラスみんなにも教えてあげて!」「みんなのために準備ありがとう!」など、ちょっとしたがんばりを認めます。
「つながり」…「子ども同士の人間関係」を観る
この「つながり」は、子どもたちにとって、体育へのモチベーションの大きな割合を占めています。仲間がいることでがんばれる子どももたくさんいます。つながる場面を授業で設定していくとともに、普段から「つながり」をしっかり観ておきます。
「今日も、一番チームワークがいいね!」「なんかみんなすごく声がでているね」「どうしたの? ○○くんとのペアはうまくいっているかな?」など、チームとしてのよさを強調するとともに、うまくいってなさそうなところにも意識をおいておきましょう。
とはいっても、同時にたくさんの人間の動きや言葉に耳を傾け、動きをみとるには限界があります。「今日はこれだけはしっかり観ていこう」と予め決めて授業に臨むことで、より変化を捉えることができます。
今月の授業なわとびで子どもたちを観る3つの視点を養おう!
「動き」「心」「つながり」をたくさん生み出すことのできるなわとびの授業を紹介します。
共創中なわとび
なわとび運動では、なわとびカードなどを用いて,難易度の高い技や回数に挑戦させることが多く取り組まれてきました(競争課題)。そのため、たくさんの技ができるようになった子どもは個人的達成感を得ることができ、休み時間などにも懸命になわとびに取り組む姿が見られました。しかし、運動を苦手とする子どもはできない技が多くなり、なわとび運動に無関心になってしまうということも少なくありませんでした。
この教材は、なわを用いて仲間とともにいろいろな課題に挑戦していきます。多くの仲間とタイミングやリズムを合わせるために,なわの回し方を調整したり、跳ぶことをあわせたりすることが課題となります(共創課題)。
例:一緒になわとび
一人で入る縄跳びを二人以上で一緒に跳びます。互いのタイミングを合わせることが必要になります。
例:ボールキャッチ
縄に入った後、ボールなどをパスし合います。2つの動きを同時にすることで難易度があがります。縄の動きを見ながら、ボールの投げ手と受け手の息を合わせてパスをします。
例:手のひらタッチ1
縄の中で、ジャンプしてタッチ、着地してタッチ、肩タッチなど、タイミングを合わせることが楽しさとなります。
例:手のひらタッチ2
跳び手と外からタッチしにくる子がいます。縄をかわして外からタッチすることで、よりタイミングが難しくなります。
「できる」「できない」のみでは、すべての子どものがんばりをみつけることはできません。すべての子どもに愛されていると感じさせることもできません。3つの視点で、その子「だけ」の変化を発見できる要素をたくさんもつ教材を準備するとともに、それらを観る力を教師がつけましょう。
絶対成功のポイント
- 子どもの小さな変化を「観る力」をつけよ!
- 観るポイントは「動き」「心」「つながり」だ!
参考・引用文献 大西忠治『指導言(発問・助言・説明・指示)の技術 第11巻』明治図書、1991
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- 東大阪 香川
- 2015/11/11 20:38:50
教師が授業づくりで最も大切にしなければならないことをわかりやすく書いていただいていると思います。子どもを具体的に「観る」ことで、具体的なスモールステップや適切な指導言がわかるようになっていくと思います。「どの子も楽しくできるようになる授業づくりをしたい。」と願い行われると思いますが、この「どの子も」「だれも」「みんな」という言葉ほどあやふやなものはありません。『その子「だけ」の変化にどれほど多く気づいてあげるかが勝負』ということですね。でも、「観る力」はすぐできるようになるものでもありません。『「今日はこれだけはしっかり観ていこう」と授業に臨むこと』を繰り返し、子どもの変容を見つめ、子どもたちと喜び合える授業を積み重ねていくことだと思います。授業づくりは子どもの姿から学ぶものだということを示していただいていると思います。ありがとうございます。