1.学習への参加率=学級の勢い
私たちは、行き当たりばったりではなく、教材研究などを通じて、事前に授業を組み立てておきます。年間を見通した大きな組み立てもあれば、1単元毎の組み立て、また1時間単位の組み立てもあります。「こうでなくてはならない」にとらわれることなく、子どもたちの事実から柔軟な組み立て、展開を選択していくべきです。その際に、私が最も大事にしていることは、学習への参加率です。参加率の高い授業は、よい学級の一つの要素でもある「何か事にあたるときの集団としての勢い」(第1回記事参照)へとつながります。
学習に参加するとは、授業の中で、「もっとやりたい!」「どうしたらいいか考えよう!」「よし、協力してやってみよう!」など、子どもの中に、学習への意欲があふれ出ている状態です。ときには何度も動きを試行しているかもしれません。ときには仲間と頭を寄せ合って考えているかもしれません。なにかを解決しようとする姿がそこにはあります。この学習への参加率が学級の集団としての勢いを加速させ、学びを加速させます。そして学級の力を高めていきます。
2.参加率の高い授業にするために
学習への参加率を高めるために、次の4つの視点を意識して授業を組み立てていきます。
視点1 方向性をはっきり示す
ゲームであれば、なにを目的としたゲームなのか。ボールを床に落とすゲームなのか、相手をかわしてエリアに入りこむゲームなのか…… ゲームの構造を理解させ、このようにすればゲームでうまくいきそうだなという思いをもてるようにすることです。
また、跳び箱であれば、高く跳ぶことが目的なのか、美しく跳ぶことが目的なのか、仲間と動きをシンクロすることが目的なのか…… 目的を明確にして「はやくやってみたいな」そう思わせることです。子どもたちが見通しももてるようにします。
視点2 子どもたちの思考や感情の流れを予測する
これからはじめるリレーの授業、3時間目あたりで記録がきっと伸び悩み、意欲が停滞しそうだからなにか手立てを打とう。今日のベースボール型の授業では、まだみんな打つ技能で課題が残りそうだから、打撃ミニゲームの時間を増やそうかな。といったことを予測しておくことです。子どもたちがどのように考えを深めていくだろうか。どこを楽しいと思い、どこでつまずくだろうか。思いをめぐらし、その先を想像しておきます。
視点3 少し頑張れば越えられそうな壁をつくる
陸上運動であれば、自分の身長や50メートル走のタイムなどで目標を設定する方法もあります。器械運動などの個人技能の差が大きいときは、動きを合わせることも課題になるでしょう。またチーム間の力の差が大きすぎると力のある方もない方も意欲を失いかねません。均等なチーム力になるようなチーム分けを考えることも必要でしょう。子どもたちの事実から、適度に負荷のある課題を設定します。すべての子どもが頑張れば越えられそうと思える壁を設定することが大切です。
視点4 身体と頭の「ずれ」を生み出す場面を設定する
側転ができた子に、一方向だけでなく反対でもおこなってみることを提示します。なわとびで2拍子跳びのあとに3拍子跳びを提示します。これらは容易にはできません。簡単だと思ったことが難しかったり、できると思っていたことができなかったりすることで、「もっとやってみたい」「知りたい」「確かめてみたい」という意欲がふくらみます。
今月の授業バウンドアタックバレーで参加率アップの仕掛けをしよう!
これらのことを意識して単元を組み立てたネット型ゲーム(4年生)の授業を紹介します。
ネット型ゲームは、相手のコートにボールを落とすことを目指すゲームです。さらにバレーボールなどを元にしたゲームは、落とすため(落とさせないため)に仲間と連携することが必要となります。しかし、既存のバレーボールのように6人対6人、ルールもそのままおこなったのでは、子どもたちがこれらのことを十分に理解することも、参加率を高めることも困難です。
以下のようにアレンジします。
・ボールはよく跳ねるソフトバレーボール、ワンバウンドOK
⇒すべての子どもが怖がらずゲームに臨めるようにする。
・1VS1→2VS2→3VS3とゲーム人数を増やしていく、1攻撃につき1回だけ触れられる
⇒三段攻撃などの連携する動きについての意味理解を深める。
チーム分けはこれまでの学習履歴から均等な力になるように分けます。
本授業では、ゲーム人数を変化させることで、授業を組み立てていきます。
1VS1「どこにボールを落とせばいいかな?」
攻守一体型ゲーム(卓球やテニス)のように1VS1からゲームを開始します。
コートには常に1人しかいないので、必ずボールを触ることになります。ボールを落とす・落とさせないというゲーム構造を理解するとともに、どこに落とせば得点になりすいのか、どうすれば守りやすいのかを考えることにつながります。
2VS2「1人ふやしてゲームをするよ。どんなことができるかな」
1人増えることによって、1人が相手の攻撃を拾って、もう1人が攻撃をするという連携の動きにつながります。1VS1での気づき「どこに落とすのか」をより実行しやすくなります。
3VS3「もう1人ふやしてゲームをするよ。どんなことができるかな」
さらに1人増えることによって、間に「ととのえる(セットアップ)」役割ができます。2VS2の時よりも、よりいいポジションからアタックが打てることで、連携するよさが実感できることを企図しています。
学ばせたい役割
ひろう
ネットの近くへつなぐ。ととのえやすいように仲間につなぐ。
ととのえる
なるべく高くあげる。真ん中の方でととのえる。
アタック
人のいないところに打つ。すばやくあがる(アタックの準備をする)。
「今日は2人VS2人(3人VS3人)でやるよ!」と言うと、子どもたちからは歓声があがります。人数が増えたからもっとうまくいく、もっといろんなことができると直感で感じるのでしょう。しかし、実際には、なかなかうまくいきません。「なんでだろう……」
この「ずれ」からまた次の学習がはじまります。学習への勢いが生まれます。
日々、学級ではいろいろなことが起こります。1チームのリーダーが欠席することもあるでしょう。体育の授業直前にケンカがおこることもあるでしょう。ひょっとしたら、転んでけがをしてしまったり、前の時間が延びてしまったり、雨で運動場が使えなくなったり……
いくら事前に準備していても、その通りにいかないことが多々あります。そのようなときでも、事前に授業をしっかり組み立てておくことが、学習への参加率をあげるためには不可欠です。そのうえで、子どもたちの状況や願いを汲み取りながら修正をおこない、子どもたちの意欲的な動きや一生懸命に考える姿につなげたいものです。
絶対成功のポイント
- 授業では参加率を高めることを目指せ!
- 4つの視点で授業を組み立てよ!
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- 1
- 高本英樹
- 2016/1/11 18:54:39
体育の学びをいただきありがとうございます。参加率を高めるとは、意欲をもって体育に参加する子どもの割合のことですよね。その視点4つはどれも大切です。あとズレから「ゆさぶり」ができればいいなあと思いました。是非、学ばせてください。 -
- 2
- 東大阪 香川
- 2016/1/17 9:28:13
『学習への参加率=学級の勢い』その通りだと思います。私たちは「どの子も楽しく、意欲的に体育の学習に参加してほしぃ」と願って体育の授業づくりを行なおうとしていると思います。しかし、得てして、教師主導になり過ぎたり、逆に子ども任せになり過ぎたりと結果的に子どもの学びや学習意欲=学習への参加率が不十分になることがあると思います。『子どもたちが見通しを持てるような方向性』『すべての子どもががんばれば越えられそうと思える壁を設定』『「もっとやりたい」「知りたい」「確かめてみたい」という意欲がふくらむ「ずれ」』、そのための『子どもたちの思考や感情の流れを予測する』子ども理解。垣内先生が示していただいた4つの視点を大切に自分の授業を見つめ直すことで、子どもたちが主体的に、意欲的に「運動と対話」する力が育まれ、「より楽しい体育学習」が進められていくと思います。